第344話 不滅の炎

「さてと、次に行こうかな」


 に立つその人物。

 神々の中でも頂点に位置する序列一桁シングルの中でも神王ネルヴィアと共に突出した実力を持つ序列2位、フォルクレスがポツリと呟く。


 その周囲に……見渡す限りに、先程まで視界を埋め尽くす程に蠢いていた軍勢の姿は存在せず。

 辛うじて人の形を保っているのは、フォルクレスの目の前に転がる3名のみ。


「ぅ……ま、で……」


「ほう、今のをくらってまだ生きてるとはね。

 他の2人も死んではいない様だし、ヴィスデロビアの魔皇神も伊達じゃ無さそうだね」


 呻き声を上げる魔皇神9位のスー。

 浴びせるだけで強者とされる人間を死に至らしめる程、膨大だったエネルギーは既に存在ぜず。

 ヨーロとバロックの2人は声を出す事すら出来ずに地に伏せる。


「まぁ、放っておいてもすぐに死ぬだろうけど……ヴィスデロビアに利用されると面倒だしね。

 隔離しておくとしよう」


 パチン!


 フォルクレスが指を弾くと同時に3人の姿が消え失せ。

 軍勢に踏み荒らされ、戦闘……主にフォルクレスの攻撃によって荒れ果てていたはずの荒野が、元の美しい草原の姿を取り戻す。


「これでよし。

 じゃあ気を取り直して、魔皇神を狩に行くとしようか」


 元通りとなった草原に満足気に頷き、ニヤリと獰猛な微笑みを浮かべ、その場からフォルクレスの姿が掻き消える。

 シングル序列2位、フォルクレス。

 かつてアニクスに於いて大神達と共にヴィスデロビアと戦った大いなる神の1柱にして、アニクスではと呼ばれる存在が……保身の為に動き出した。





 だが、フォルクレスは重要な事に気付いていない。

 敵の軍勢は別にしても、敵将とも言える魔皇神達を相手取っている者達が誰なのかと言う事を。

 そして大好きな主人と不本意に離れる事になり、激しい苛立ちと共に怒れる鬼がいると言う事実を……






 *





「くっ……そ、そんなバカなっ!?」


 その男は端正な顔に歪ませて悪態を叫ぶ。

 乱れた呼吸で激しく肩が上下し、頬からは汗が地面へと滴り落ちる。

 見るからに疲弊し、焦りと困惑の眼差しの先には……


「ふぁ〜、うん、終わった?」


 眠たげな瞳をゴシゴシと擦り、呑気に欠伸をもらす1人の少女。

 燃える様な赤い髪に、背中から深紅の翼を広げるフェルがコテンと首を傾げる。


 可憐なその容姿も相まって、実に愛らしく非常に微笑ましくて和む光景……ここが戦場のど真ん中で無ければ。

 その華奢な手に気絶した男の片足を握り、人形の様に引き摺ってさえ居なければ……


「くっ、来るな! 俺様に近づくなっ!!」


 声を荒げる男から膨大な魔力が立ち上がり、空気が震えてその圧だけで地面に亀裂が走る。

 すぐ後ろにいた、彼の腹心が思わず一歩後ずさる程に圧倒的な魔力の高まり。


「死ねぇっ!!」


 圧倒的な魔力を持って放たれる、太陽の如き巨大な黒炎の火球。

 例え超越者であっても一瞬で塵へと変える黒炎がフェルへと向けて凄まじい速度で飛翔し……


「無駄」


 赤き炎に呑み込まれた。

 本来、全てを燃やし尽くすはずの黒炎が赤き炎に焼かれて消滅する。


「吾の炎は、概念を燃やす、不滅の炎。

 例え、黒炎でも、関係無い」


 その光景を前に男は……ニヤリと不敵な笑みを浮かべる。


「シッ!」


 次の瞬間、フェル背後に女が現れ、白き長剣による神速の一撃がフェルの首目掛けて放たれる。

 女が手にするのは女の神能によって生み出された全てを、空間や時間さえも凍てつかせる絶対零度の長剣……


「っ!!」


 目の前で起こったソレに、女の目が驚愕に見開かれる。

 一切の抵抗無く、音すら無く……女のまた長剣が融解して2つに折れた。


「ぐっ!?」


 乱雑に振るわれた翼の直撃を受けて、呻き声をを漏らしながら女が後方へと吹き飛ばされる。


「っ! 全軍、一斉掃射!! あの化け物を消し去れっ!!」


 焦りを含んだ男の叫びを受けて、大軍勢の攻撃がフェルへと殺到する。

 まさしく視界を埋め尽くす超魔法の弾幕が……


 ゴォゥッ!!


 巨大な赤き炎の波に呑み込まれた。

 炎の津波は攻撃だけに留まらず、男や女は勿論、周囲の敵をも飲み込んで行き……


「ん、ミッション、コンプリート!」


 満足気なフェルの言葉が無人となった戦場に鳴り響く。

 炎の津波が消えたそこには……フェルに引き摺られていた魔皇神23位の雷鳴のボルディバール。

 黒炎を操る序列16位ゴッカス。

 そして全てを凍てつかせる氷結の魔女、序列10位ソレイニーとその軍勢の姿は何処にも無かった。

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