第283話 噂なんて知りません!

「3年生A組・B組の諸君。

 戦闘に於いて、何が最も大切なのか分かりますか?」


 整列する生徒達の前で腕を組み、ゆっくりと歩く。

 これでサングラスがあれば完璧ですが、気分的にはもうアメリカンの教官です!


「はい、そこのキミ!」


「やっぱり、力では無いでしょうか?」


「確かに力も重要なファクターですが、残念ながら違います」


「じゃあ、スピードです!」


 力にスピード。

 確かにそれぞれ戦闘に於いて非常に重要な要素ですが……2人ともまだまだ若いですね。


「残念ですが、それも違います。

 戦闘に於いて最も重要なのは力でもスピードでも無く、精神力なのです!」


「精神力……ですか?」


 まだ皆んな、しっかりきていない様ですね。

 まぁ確かに一見、スピードや力と言った分かり易いモノの方が重要に思えますからね。


 ここにいる全員が超越者とは言え、まだまだ神としての登録すら済ませていないひよっこ達。

 しかも超越者に至る事が出来る強者ですし、今まで格上との戦闘なんて殆ど体験した事は無いでしょう。

 多少の死線は潜って来ているでしょうけど、まだまだ経験が足りませんね。


「そうです。

 実戦では慢心を抱き、油断し、動揺した者から死んで行くのです。

 慢心は油断を招き、動揺は隙を生む。

 それは同格、時には格下との戦闘であっても勝負を決する事になるのです」


 付け加えて言うと、怒りや恐怖は判断力を鈍らせる事にも繋がりますからね。

 戦闘で最も重要なのは精神力、間違いありません!

 それに、簡単に力やらスピードと言うよりも深いですし、完璧ですね!!


「と言う訳で、緊張感を持って戦闘訓練を行いましょう!!

 取り敢えず、各自で準備運動をお願いします!」


「「「「「「はいっ!」」」」」」


 うんうん、皆んな真剣な表情ですね……何故か少しだけ微笑ましいものを見る様な視線な気がしなくもないですけど。

 まぁ気にする程の事でもありませんね。


「あのぉ……ルーミエル先生」


「アリィーさん、どうかしましたか?」


「それは……」


 それ? あぁ、手に持ってるこれの事ですね。


「よくぞ聞いてくれました!

 実はさっき、5年生の生徒からクッキーを貰ったのです!!」


 もう胸を張って言っちゃいます。

 何せ、このクッキーは僕が先生として生徒達に慕われていると言う証拠ですからねっ!!


「もし良ければ1枚、はっ……!」


 マズイ。

 これはマズイ事になってしまった……


「ルーミエル先生?」


「皆んなに一枚ずつ配るにはクッキーが足りない……」


 かと言って配れるだけ配ってしまうと、貰えなかった人が出てしまいますし。

 僕の分も無くなって……いやいや、僕は教師! ここは鋼のメンタルで生徒たちを優先しなければ!!


「べ、別に気にしなくて大丈夫ですよ。

 そのクッキーは先生が貰った物なんですから、先生が食べてあげないと」


「ほ、本当ですか!?」


 助かりました!

 これで心置きなく、残りのクッキーを味わう事が出来ます!!


「ん? 皆さんこっちを見て、どうかしたましたか?」


「い、いや、何でもありませんよ!」


「そうです!

 しっかり準備運動しないと!」


「そうだな! ちょっと俺、ランニングして来ます!!」


 皆んな一斉に、正しく蜘蛛の子を散らす様に視線を逸らして準備運動に戻って行っちゃいました。

 

「本当にどうしたのでしょうか?」


「あ、あはは……」


「そう言えば、アリィーさんは準備運動しなくて大丈夫なんですか?」


「私は授業が始まる前にもう済ませているので」


「おぉ! それは素晴らしい心がけです。

 ご褒美にこのクッキーを1枚贈呈しましょう!」


 ご褒美なら特定の生徒だけにあげても特別扱いにはなりませんし。

 ふっ、こうすれば僕も一緒にクッキーを食べる事が可能となるっ!!


「ふふ、ではお言葉に甘えて……ん、美味しいですね!」


「そうでしょう!」


 やっぱり、このクッキーを作ってくれた生徒達はお菓子作りのセンスがありますね。


「あっ、そう言えばルーミエル先生は統一学園七不思議って知ってますか?」


「七不思議……いいえ、知りませんね」


 何やら学校っぽいのが来ましたね。


「その内の1つに、幻のお屋敷って言うのがあるんですけど。

 偶に学園内の湖の辺りに大きなお屋敷が見えるけど、実際に湖に行ってみると何も無いらしいんです」


 そ、それってもしかして……


「見たって子が結構いて、私の友達もこの間見たって言うんですよ。

 まぁ、私は見た事無いので信じて無いんですけどねっ!」


「へ、へぇ、そんな噂があったなんて知りませんでした!

 ち、因みにそのお屋敷が見えるって場所はどの湖の所なんですか?」


「えっと……確か、草原エリアと森林エリアの中間地点辺りにある湖ですね」


 ……やっぱり、それって僕達のお屋敷じゃないですかっ!!

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