第278話 何も問題ありませんね!

 本来なら、教師として先制攻撃の権利を譲ってあげるべきなのでしょうが……

 もう既にビル少年に攻撃されましたし、次は僕から仕掛けても問題ないですね。

 うん、そのハズです!


「では、まず最初に小手調べと行きましょう」


 押さえ込んでいた魔力を解き放ち、一瞬だけ殺気をピンポイントで叩き付ける。

 無闇矢鱈に周囲に殺気を撒き散らすなんて三流以下、方向性を持たせて二流。

 対象者以外には気付かせもしないのが一流、そして……


「「「「「っ!?」」」」」


 それら全てを状況に合わせて自由自在に操れて超一流なのですっ!!

 まぁ、この間ゴロゴロ自堕落に生活していた時に読んだ漫画知識ですけど……


 こんな大勢の観衆は初めてですが、中々に上手くできた様ですね。

 観覧席の人達も何が起こったのか分かってない様ですし。

 今、何が起きたのか理解しているのは、観客の中ではオシークスさんとメルヴィーだけでしょう。


「い、今のは一体……」


 周囲を見渡し、目を見開いて唖然と呟くエルヴェルト君。

 流石はザ・優等生ですね。

 選別に耐えられたのはエルヴェルト君、ビル少年を含めたて5名ですか。


「おめでとうございます。

 選別に耐えたキミ達5人は、僕の前に立つ資格がある」


 ちょっと傲慢で高圧的な言葉になってしまいますが……仕方ありませんね。

 今日は僕がオシークスさんに講師をお願いされる程に強いと証明しなければなりませんし。


「選別、だと?」


「その通りですよ、ビル少年。

 今僕は少しだけキミ達Aクラス全員に殺気を向けて威圧しました。

 この程度の威圧すら耐えられない人に、僕の前に立つ資格はありません」


 突然の事態に困惑で騒然としていた第二訓練場全体が静まり返る。

 彼らの視線が向けられるのは、気を失って地面に倒れ伏す、5人以外のAクラスの生徒達。


 皆んなが唖然となって静まり返る中、まるでこの光景が当然だと言わんばかりに振る舞い。

 余裕のある態度で言葉を紡ぐ。


 ……ふっふっふ、なんか楽しくなって来ましたね。

 僕の前に立つ資格は無い? ぶっちゃけ、ちょっとやり過ぎた感はありますが。

 物語の中の魔王を演じているようで、テンションが上がりますっ!!


「さて……」

 

「「「「「っ!!」」」」」


 ちょっと真剣な顔で見ただけでこの反応。

 この緊張感と集中力、流石はAクラスでも優等生なだけはあります。

 先程までの僕をナメくさっていた時と比べれば雲泥の差です。


「何処からでも仕掛けて来て構いませんよ。

 物理攻撃でも魔法攻撃でも、得意な戦闘方法で構いません」


 とは言え、学生相手に5対1では流石に大人気ないですね。

 これは何かハンデが……


「そうですね……僕は魔法も武器も使わずに素手でお相手しましょう。

 言っておきますが、本気で向かって来た方が良いですよ?」


 後々、あの時は油断していたとか、本気じゃなかったとか言われても面倒ですしね。

 僕も少し真剣にやるとしましょうか。


 ジリジリと緊張感が高まり、誰かが固唾を呑む音さえも聞こえて来そうな静寂の中……

 5人僕を取り囲むように四方に転移で散開。


「くらえっ!」


「はぁっ!」


 鋭い踏み込みで一気に切迫して来るビル少年と、一人の女子生徒の前後からの同時攻撃。

 四年生ともなると、流石にレベルが高いですね。


「けど、甘い」


 ビル少年の手に現れた炎の長剣の一閃を掻い潜り、蹴りを放つ。

 咄嗟に腕を間に挟んだのは評価しますが、関係ない。

 蹴りが当たった瞬間、ビル少年の身体がくの字に曲がって背後に吹き飛ぶ。


 そのまま背後を見ずに、顔の横で後ろに向かってデコピン。

 デコピンによって生じた試弾によって剣を振り上げていた少女も吹き飛ぶ。


 足を振り抜いた大勢の僕に、側面から殺到する魔法の嵐。

 最初の2人はただの囮り……まぁ当然、分かってましたけど。


「ほっ!」


 中々に素晴らしいコンビネーションでしたが。

 あの程度の速度なら普通に躱せますし、全く問題ありませんね。


「待ってましたよ」


「っ!? 読まれっ….」


 魔法を避けた先には一目で業物と分かる、魔力を宿した剣を振り上げたエルヴェルト君。


「迅雷霹靂っ!!」


「なんちゃって」


「なっ!?」


 振り下ろされた刀身を漫画やアニメのように指で挟んで止めて見せた僕に、エルヴェルト君何驚愕の声を漏らす。

 青白い雷を纏って振り下ろされる一撃。

 雷により肉を焼き切る、神速の一太刀……確かに強力な攻撃ですが……


「威力が足りません」


「っ!!」


 バックステップで距離を取ろうとするエルヴェルト君。

 当然、逃しません!


「遅いですよっと」


 エルヴェルト君のは胸ぐらを掴み……背後から密かに接近していた、魔法を放った2人に向けて投げ飛ばす。

 ふぅ〜、流石に手加減しながらだと疲れますね。


 これで仕切り直しですが。

 教員として生徒に大怪我を合わせる訳には行きませんし、さてどうしたモノでしょ……あれ?


 何故5人とも倒れたまま立ち上がって来ないのでしょうか?

 こ、これはまさか……いやいや! 確かに手加減はしました!!


 ナイトメアの関連で手加減はそれなりに慣れているハズです!

 いつも限界まで鍛えてくれと言い寄って来る構成員の皆んなを、可及的速やかに。

 いつも一撃で戦闘不能になる程度の手加減を見極めて……


「……こほん、ま、まぁこんなモノです。

 あっ! チャイムが鳴った!!」


 なんて素晴らしいタイミングでしょうかっ!!


「回復魔法も掛けたし……うん、何も問題ありませんね!」


 サービスで伸びてしまっている生徒達を教室に転移させておいてあげてっと。


「では授業が終わったので僕はこれで失礼します!」


 まぁ、自己紹介はまた後日って事で。

 取り敢えず……うん、後はオシークスさんに任せて帰るとしましょう!!

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