第275話 証明しましょう

「はぁ……」


 目の前の扉に思わず、ため息が漏れる。

 今更後悔しても後の祭りと分かっていても……あの時、適当に答えた自分をぶん殴ってやりたいですね。


「さあ、お嬢様」


「分かっています。

 僕からの条件も全て呑ませましたし……よし! 行きましょう!!」


 扉の取手に手をかけて、一気に開く。

 あぁ、何でこんな事に……覚悟は決めたハズなのに、それでも一斉に刺さる視線に後悔が募る。

 けどまぁ前向きに考えましょう! 僕はこの経験を通して立派なレディーとしての階段をまた一段上がるのですっ!!


 今の今まで、ざわついていたハズの教室が静まり返る。

 異様な空気が漂う中を、周囲の視線を全く意に返さないメルヴィーと共に歩みを進める。


 僕も同じ学生で1年生なのに今の立場は講師で、上級生である彼らは生徒。

 ふむ、そう考えると不思議とそこまでこの視線も気にならない。

 現状の立場を考慮すると自然と、メンタルがお仕事モードになると言う訳ですね。


「こほん、どうも皆さん初めまして。

 この度、統一神界学園の非常勤講師となりました、ルーミエルと言います」


「同じく、メルヴィーです」


「非常勤と言う事で偶にではありますが、授業を受け持つ事になりました。

 本日は皆さんのクラスの授業を受け持つので、よろしくお願いします」


 さてさて、反感は……今の所はまだ何も無い様ですね。

 とは言え、突然の事に驚いてまだ呆けているだけでしょうけど。


「えっと……1つよろしいでしょうか?」


「はい、何でしょうか?」


「学級代表のエルヴェルトと言います。

 失礼ですが、貴女は今年の新入生代表ですよね?」


 エルヴェル君ですか。

 僕を見下す様な意思は無し、真面目で模範的な優等生と言ったところですね。


「その通りです。

 しかしながら、実はこの新学期からこの授業を持つはずだった方が突然来れなくなった様でしてね。

 非常勤で良いから講師をやってくれと、学園長に頼まれたのです」


 僕としても非常に遺憾ですけどね。

 入学式と2日目である昨日は日本の大学の様に学籍の登録などで登校しましたが……


 何が悲しくて、本来なら来なくても良い学園に来なければならないのか?

 特待生になれば、学園に行くのは学校行事の時だけで良いと言われたから入学したのに……


「そ、そうですか……ですが、我々の次の授業は戦闘実技なのですが」


「えっ……」


 とても言いづらいそうに、苦笑いを浮かべるエルヴェル君。

 まさかの事態に、思わず声が出てしまった僕は悪くないでしょう。

 だってまさか……


「はっ! そう言う訳だから、早く本当の持ち場に向かうんだな」


「ビル、そんな言い方は」


「エルヴェルは真面目過ぎるんだよ。

 入試で過去最高点だか何だかんだ知らないが、新入生の総代なんて所詮はちょっとできるだけのガキじゃねぇか」


 明らかに僕を見下してくるビル少年。

 けどまぁ、今はどうでも良いです。

 それよりも問題は……まさか、この僕が教室を間違えるなんてヘマをしたと思われたいるなんてっ!!


 これは由々しき事態です。

 僕の何処を見たらそんなアホに見えるのでしょうか? それともやはり見た目だけで判断されたのでしょうか?

 どちらにしても、これまでに無い屈辱です……


「特待生になって威張ってるだけのヤツら程度、上級生になれば大勢いる。

 最高学年の6年にもなれば、学年最弱ですら新入生代表なんかには負けはしないんだよ」


 それはまぁ、そうでしょうね。

 特待生とは入学の時点で既に、知力・魔力・武力のどれかが卒業にたると判断された生徒の事。

 入学してから特待生だからと胡座をかき、何もしない人が、卒業時点ではモブと化すのは当然の帰結です。


「それで?」


「は?」


「それで終わりかと聞いたのです」


 だからと言って、その様な雑兵と一緒にされるのは甚だ不愉快ですね。


「ビルと言いましたか?

 キミは……キミ達は勘違いをしています。

 この際ハッキリと断言しましょう! 僕はこの教室にいる生徒であるキミ達の誰よりも確実に強い」


 誰が新入生代表のガキですか。

 神能の獲得どころか、入学式で新入生達に語った、見た目でしか判断出来ないひよっこが。


「っ、ガキが図に乗ってんじゃねぇぞ!」


 本当に何も分かってませんね。

 僕がメルヴィーを抑えていなかったら、今頃どうなっていた事か……

 まぁ上級生とは言え、学生にメルヴィーかは発せられたほんの僅かな殺気を察知しろと言う方が酷なのかも知れませんが。


「はぁ、仕方ありませんね」


 どの道、今日の実技戦闘は新学期初の授業で、自己紹介から始めようと思っていましたしね。

 そのついでに、身体で体験して納得して貰うとしましょう。


「皆さん、今から訓練場に向かいますよ」


 嘲る様な視線のビル少年に、騒つく教室。

 ビル少年の態度は兎も角として、何か変な事でも言ったでしょうか?


「えっと、ルーミエルさん?

 今日は座学の予定で、訓練場の使用許可は下りて無いハズですが」


「あぁ、それなら問題ありませんよ、エルヴェル君。

 たった今、学園長に直接許可を貰ったので」


「はぁ? 直接って何言ってんだお前?」


 一々絡んで来ますねこの人。


「今僕が何をしたのかも分からないなら、所詮はその程度と言う事です」


「何だとっ……」


「良いから黙って訓練場に向かって下さい。

 そこで皆さんの自己紹介がてら、僕とメルヴィーが皆さんより強い事を証明しましょう」

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