第213話 欲望と驚愕です!!

「さてさてさーて。

 ここは何処でしょうか?」


 いやまぁ、リーリスが創造した空間って事は分かってるんですけど。

 問題は、この空間がどんな空間かって事なんですよね。


 対僕用に造ったって言ってましたし、ただの隔離空間って事は無いでしょう。

 これは空間と言うよりも、僕の神能と一緒で……


『ふふふ、貴女の為に造って、気に入ってくれたかしらぁ?』


 何処からか響き渡るリーリスの声。

 そうなんでよね、これは隔離空間ってよりも世界創造に近い。

 コレール達と渡り合い、古の大戦を生き残ったのは伊達じゃ無いって訳ですね。


『そこは誘惑の世界。

 欲望が、望む願いが叶う世界。

 人間も動物も、神ですらも、全ての生物は欲望からは逃げられない』


 うふふふっと、上品ぶったリーリスの笑いが木霊する。

 願いが全て叶う世界……


「努力をせずとも願いが叶うのなら、生物は努力を……何もしなくなる、と言う訳ですか」


『ご名答よ。

 貴女はこの世界で欲に塗れた廃人と化すのよ!』


 しかも、それだけじゃ無さそうですね。

 ゆっくりと、けど確実に魔力が吸い上げられています。

 これが廃人と化す理由でしょう。


 欲望を満たす事で抵抗心を無くし、魔力発生装置として飼い殺す。

 末恐ろしい世界ですね。


『ふふふ、どうやら気づいたようね。

 でも安心してちょうだい、貴女は私が魔力タンクとして有意義に活用してあげるからぁ』


 言うだけ言って、リーリスの声がパタリと止む。

 外でコレール達との戦闘が始まったようですね。


「魔力タンク……僕って魔力特化型みたいなモノですし、言い得て妙ですね。

 それにしても、僕の欲望って事はやっぱり……出た!」


 ポンッと、目の前に現れたのは超キングサイズのベッド。

 これが僕の欲望その1……睡眠力!

 自分で言うのも何ですが、惰性と怠惰に塗れてますからね!!


「ふむ、硬さ、弾力ともになかなか……」


 もぞもぞっと、ベッドに潜り込み、次に来るであろう欲望の顕現。

 リーリスからの卑劣極まりない攻撃に備えるっ!


「ふっ! やはり来ましたか……」


 ベッドを包み込む様に、大量に顕現されたソレ。

 僕の欲望その2……選り取り見取り! 多種多様なスイーツやお菓子の数々!!


 この僕の舌を唸らせる事が出来るか、見ものですね。

 取り敢えず、近くにあったケーキをカットして一口。


「味は……まぁ及第点ですね。

 ぶっちゃけ、いつも皆んなで食べてる方が美味しい。

 クオリティーには多少ガッカリですね……まぁ良いでしょう」


 僕以外誰もいない世界で、1人辛口評価を下す。

 リーリスが聞いているかも知れませんし、こうして少しずつ精神ダメージを与える作戦!!


 手には神能から取り出した漫画を持って、満喫させてもらってます! アピールです。

 ふっ! 僕程の上級者にもなれば、魔力を操り手を使わずしてケーキを食べる事など児戯に等しいのですっ!!


「そして! 僕の欲望その3はやっぱり」


「お嬢様」


「今良いところなので、ちょっと待って下さい!」


 この狙い澄ましたかの様なタイミング。

 流石はメルヴィー……しかし! この程度で僕は屈しない!!


「やっぱり……あれ?」


 今何か可笑しな所があった様な……まさか、ね。

 いやぁー、そんなはず無いですよね!!

 まぁ、一応確認だけはしておくとしましょう。


「メ、メルヴィー?」


 壊れかけのブリキ人形さながらの動きで、恐る恐る振り返ると……


「はい、何でしょう? お嬢様」


 優しげにニッコリと微笑んだメルヴィーの姿。

 メルヴィーと見つめ合った状態で静寂が舞い降り……ポンっと、僕の膝の上に欲望その3。

 子猫が顕現した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る