第177話 迷宮内攻防戦 狼獣軍団 その2

「は? くっくっく…面白い。

 やっぱり、お前達2人は壊れるまで俺が飼ってやるよ!」


 心底愉快そうに下卑た嗤い声をあげるリーガル達、魔教団に対して双子の吸血鬼はにっこりとした笑みを絶やさない。


「それは、降伏しない、と言う事でよろしいですか?」


 戦場で、それも大の男数人に慰み者にされそうな状況下において、2人は見た目相応の子供っぽい笑みを浮かべる。


「当然だ。

 どうやったかは知らないが、大方ベヒーモスを従えて俺たち魔教団に勝てるとでも思っているんだろ?」


 リーナとミーナはリーガルの言葉に何も答えず、静かに微笑みを浮かべるのみ。

 それをどう捉えたのか、リーガルはニヤリと嫌らしい笑みを貼り付け、可哀な捨て駒となった2人の少女を嘲笑う。


「良い事を教えてやる。

 確かにベヒーモスは強い。

 一体でも都市を壊滅させるに足る、まさに獣の王と呼ばれる相応しい魔物だ。

 それが2体だ、お前達が勝った気になるのも無理は無い……しかしだ、例えベヒーモスであっても2体程度、俺達の敵じゃねぇんだよっ!!」


 彼等はそもそもが深淵の試練を攻略する為の軍勢。

 深淵の試練の深層にベヒーモスの巣である事は周知の事実。

 連絡が途絶え、万全の状況では無いとは言え、たかだか2体。

 彼等にとってそれは何の問題足り得ない。


 頼みの綱であるベヒーモスが勝てない。

 その事実に絶望に歪み、恐怖に震える少女達の姿を想像して……そこには変わらず微笑みを浮かべる双子の姿があった。


「そうですか。

 それは、残念です」


「ええ、本当に。

 残念ですね」


 双子の口角が言葉とは裏腹に吊り上がる。

 その表情に、その細められる赤い瞳に、リーガルは言い知れぬ恐怖を感じ、無意識のうちに一歩後ろに引き下がる。


「狩の時間です」


 リーナがポツリと呟き、ミーナがパチンと指を鳴らす。

 そして……悲鳴が響き渡った。


「な、何が……?」


 悲鳴が響くのはリーガル達の背後。

 しかし、整列している兵士達は変わりなく。

 魔教団の拠点の中から断続的に響く、騒音と悲鳴。


「先程のお返しに、私達も良い事を教えて差し上げましょう」


「何故、他の軍団や地上と連絡が途絶えたのか?

 簡単です、貴方達は迷宮内で強制転移させられた、それだけです」


「そしてもう1つ。

 ベヒーモスがこの子達だけだと誰が言いましたか?」


「っ!!」


 変わらずニッコリと可憐な微笑みを浮かべる双子の吸血鬼。

 リーガルと腹心達は踵を返し、整列する5万の軍勢を率いて、自分たちが張った天幕を潰しながら走る。


 全速力で疾駆しながらもリーガルの頭の中を双子の言葉が回り続ける。

 強制転移させられた……王都を丸ごと転移して、世界樹と言えどそんな魔力があるはずが無い。

 そう自分に言い聞かせて……そこには100体以上のベヒーモスに蹂躙される光景が広がっていた。

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