第176話 迷宮内攻防戦 狼獣軍団 その1
深淵の試練、第30階層。
広大な面積を誇る迷宮内の一角には、多くの天幕が張られ、迷宮攻略の拠点が建てられていた。
「何だと?」
拠点の天幕の中でも一際大きな天幕の中、魔教団が誇る5つの軍団の1つ。
先行部隊としてこの拠点を築いた第一軍団の軍団長がドスの効いた声で報告を告げた連絡兵を睨みつける。
「はっ! 他4軍団及び、地上本部との連絡が途絶えました!!」
第一軍団軍団長……幹部の男にの視線に体を竦ませながらも連絡兵は再び報告を告げる。
「そんな事はわかってんだよ。
何故、連絡が途絶えたんだと聞いてるんだ」
「目下調査中ですが、現在の時点では不明です。
ただ、通信機の故障では無いそうです」
「通信機の故障じゃ無いねぇ。
とりあえず全軍に通達、総員、不測の事態に備えよ」
「はっ!」
幹部の男が下がれと命じると、連絡兵は踵を返して走り去る。
「世界最大の迷宮と言えど、この程度の階層に出てくる魔物は雑魚のみ、暫くは待機だな。
それにしても、対魔教団同盟ねぇ……くっくっく、新しい玩具が手に入ればいいが……」
そう呟き、一瞥するのは天幕の隅、怯えた様子の薄汚れた数人の少女達と倒れ伏す裸体の1人の少女。
一糸纏わぬ体には生々しい体液に塗れ、気絶する少女に近づき……
「いつまで寝てんだっ!」
苛立った様子で倒れ伏す少女の腹を蹴り付けた。
蹴り飛ばされ、天幕の支柱に背中を打ち付けた少女は血反吐を吐き嗚咽しながら蹲る。
第一軍団軍団長、リーガルはそんな少女を一瞥すらせずに、怯えていた薄汚れた貫頭衣を見に纏う少女を乱雑にベッドに放り投げる。
「い、嫌っ!」
ゆっくりと歩み寄るリーガルの姿に少女は恐怖に震える声を漏らす。
そんな様子にリーガルはニヤリと下卑た笑みを浮かべる。
第一軍団の軍団長であり、魔教団の幹部。
ディベルが消えて空いた最高幹部の席に最も近いと目されるリーガルであるが、彼は魔神を信奉しているわけでは無いかった。
敵対する者を嬲り殺し。
エルフ、獣人、吸血鬼、人間、見た目麗しい女を壊れるまで犯して弄び、そして殺す。
彼が魔教団にいる理由は1つ、自身の持つ欲望を満たすため。
「はっはっ! そそるねぇ!!」
逃げようとする少女を押さえつけ……
グゴァァァア!!
空気を揺るがす様な凄まじい咆哮が鳴り響いた。
それは、決してこの様な階層に出現する筈のない王者の咆哮。
「リーガル様っ!!」
「わかってる! 総員、戦闘準備!!」
慌てて天幕の中に駆け込んできた副官に、リーガルは真剣な面持ちで指示を飛ばす。
彼は知っていた、この咆哮を発した存在を。
武力でもって魔教団の幹部となったリーガルでもってしても油断を許さない獣の王、ベヒーモス。
「チィッ! どうなってやがる!?
ここは30階層だぞ!!」
悪態を吐きながらも鎧を身に纏い、身の丈程もある大剣を手に拠点の外、ベヒーモスの元へと出向き……そこには驚愕の光景が広がっていた。
「何だ、これは?」
土魔法によって築かれた10メートル程の外壁の上、そこから見える光景にリーガルは唖然と呟く。
魔道具によって照らされた拠点の外。
そこには、ほんの数メートル先も見通せない漆黒が広がっていた。
何処に魔物がいるのかすら分からず、闇に飲み込まれそうな錯覚を抱く暗闇の中。
しかし研ぎ澄まされたリーガルの五感は僅かな気配を見逃さない。
「そこかっ!」
リーガルによって放たれた、空気を焦がす様な圧倒的な熱量を誇る一撃は、白銀の何かによって容易く打ち消された。
「チィッ! 何者だっ!?」
リーガルの優れた五感は確かに捉えていた。
魔物ではない、何かの視線を。
そしてリーガルの声に呼応するかの様に漆黒に浮かぶ2対の紅い瞳。
「もう、君が鳴くから気づかれちゃったじゃないですか!」
「ミーナ、あまりこの子を責めたら可哀想ですよ。
どの道、あの人達には話があったんですから」
まだ幼さを感じさせる声で、全く緊張感のない会話をしながら姿を現したのは純白の軍服を纏った2人の少女。
「なっ!?」
鋭い視線でゆっくりと近づいて来る2人を睨むリーガルの隣で、副官の1人が唖然と驚愕の声を漏らす。
「はじめまして、私の名はリーナ。
こちらは妹のミーナと申します」
「私達は、秘密結社ナイトメア。
この迷宮の主人にして、いと尊き御方に仕える者です」
少女が語る言葉にリーガルは僅かに目を見開く。
秘密結社ナイトメア、対魔教団同盟の盟主と噂される謎の組織。
そして魔教団の幹部であるリーガルやその腹心は、それが事実だと最高幹部によって知らされている。
「つまりは俺たちの敵って訳だ。
何故、俺たちの前に姿を現した?」
彼女達、そして彼女達に付き従う存在を視界に収めてリーガルはニヤリと嗜虐的な笑みを浮かべる。
「ベヒーモスがたったの2匹。
その程度の戦力で俺から逃げ切れるとでも思っているのか?」
リーガルの腹心達が驚愕の声を漏らした理由。
それは、2人の背後に控える存在。
獣の王と称される、2匹のベヒーモス。
しかし、彼らはすぐさま平常心を取り戻す。
いくらベヒーモスと言えどもたったの2匹、決して油断できる相手では無いがリーガル1人でも対処できる程度の存在。
そこに5万もの軍隊が加われば、多少の被害はあれど敗北はあり得ない。
だからこそ、リーガル達は余裕の笑みを浮かべる。
この2人は魔教団の戦力を図る為の駒にされたのだと。
「だがまぁ、安心しろ。
まだガキだが、お前達はこの俺が飼ってやる。
クスリの効果でその内、殴られても気持ちよく感じる様になる。
壊れるまで快楽に浸れるんだ、嬉しいだろ?」
「リーガル様、その時は我々も」
「ん? そうだな。
俺が楽しんで飽きたら、10万の兵士どもで輪姦すのも一興か」
「いつまで持つか、楽しみですね」
リーガルと腹心達は目の前の2人の少女達が行き着くであろう将来を想像して下卑た笑みを浮かべ、笑い合う。
「あの」
そんな声が聞こえてリーガル達は、この見た目麗しい2人の少女の恐怖に歪んだ表情を期待して、リーナとミーナに視線を移す。
しかしして、そこに恐怖の色は一切無く……
「私達から提案です」
「我々、ナイトメアに降伏するか」
「それとも死ぬか」
好きな方を選ばせて差し上げます。
ベヒーモスを引き連れる2人の少女はそう言ってニッコリと微笑みを浮かべた。
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