第163話 参りましょうか

 僕の仕事はここまでですね。

 後はコレールに任せて欲しいって言われてますし、その言葉に甘えさせてもらうとしましょう。


 下手に出しゃばると、いつイライラが限界を迎えるか分かったもんじゃありませんからね。

 カッコよく目立って満足したから面倒臭くなったなんて事は、絶対にありません!


 でも、我ながらさっきのはカッコよかったでしょうね。

 イメージはナポレオンの戴冠式、もしくはカール大帝の戴冠式、まぁどっちでもいいですけど。

 とにかく大国と呼ばれる2カ国の君主が道を開け、僕がそこを歩く……ふふふ、完璧じゃ無いですかっ!


「さて、アレサレム王国の諸君。

 この状況に混乱している者もいるでしょうから、簡潔に述べます。

 アレサレム王国の奇襲とも言える侵攻によって始まった戦争は、既に決しました。

 アレサレム王国は為す術も無く、完膚無きまでに敗北しました」


「なっ!?」


「ばかなっ! 戦端が開いたのは今朝のはずだぞ!!」


「我らには勇者殿達がついているのだぞっ!?」


 驚愕に目を見開き一瞬静寂に包まれるも、すぐさま怒声が溢れ返る。

 フェーニルの騎士達に包囲されているので暴れる人は居ませんけど……唾を飛ばして怒鳴るオッサン、あまりに需要がありませんね。


 それに勇者達って、目の前にその勇者達がいるでしょうに。

 その事実が勇者達の敗北を物語っているのに、混乱しているせいで思考力が低下してるみたいですね。

 それにしても……


「お嬢様、お飲み物は如何ですか?」


「メルヴィー、その前にこの程度の低い椅子をどうにかするべきです。

 ルーミエル様がお座りになるのに相応しくありません」


 甲斐甲斐しく世話を焼こうとしてくるメルヴィーとオルグイユ。

 さっきまでゴミを見るような、冷徹な目で王侯貴族達を睨んでいたのにこの変わりよう。


 人前ですし、ちょっと恥ずかしですけど……今は誰も見てないし別にいいかな?

 この喧騒なのに完全に無視、オルグイユなんて先程までの威圧が綺麗さっぱり無くなってますし。


 でも、そうですね。

 どの道、コレールに丸投げしてますし、これは邪魔されたお昼寝を再開するチャンスなのでは!?

 ふっふっふ! 我ながら素晴らしく冴えてますね!!


「えっと、じゃあクッションが欲しいです」


 クッションさえあればこんな場所でも気持ちよく寝る事ができるでしょう。

 後は周囲が煩いから聴覚をある程度遮断して……


「それに、何故その様な子供を玉座に座らせているのだっ!」


 うわっ、辞めて下さいよ。

 全員がこっちに集中するじゃないですか……これじゃあ寝れません。

 せっかくお昼寝出来ると思ったのに……この罪は大きいですよっ!!


 しかし、貴族だと言うのにこの状況下で僕に対してこんな発言をするとは。

 さっきのウェスル帝達の事を見て無かったのでしょうか?

 皆んなの前でそんな事を言ったら……


「貴様、名は?」


 ほらっ! コレールがいつもの営業スマイルすら浮かべてないですっ!!

 あの人……名前も知らないですけど、ご愁傷様ですね。


「ふん、私はウマラ・ハルマ。

 ハルマ子爵家の当主である」


「そうですか、貴様の名は覚えておきましょう。

 しかし、現状をしっかりと理解した方がいい。

 貴様らは敗戦国であり王都も、そしてこの王宮も完全に制圧されていると言う事を」


「何をバカな!

 皆様が仰る通り、戦端が開いたのは今朝、それに我らには勇者殿達がついているのだ。

 我らには敗北などあり得ないっ!!」


「では、その勇者達がこの場にいるのは何故でしょうか?

 ネルウァクス帝国に侵攻した軍勢に率いていた将校達がこの場にいるのは?」


 底冷えする様な視線で一瞥され、騒いでいた王侯貴族達が押し黙る。

 わかりますよ、コレールに睨まれると怖いですからね。


「尤も、それを信じて頂く必要はありません。

 後々確認を取ればいいだけの話ですからね」


 この場に戦場にいるはずの勇者達や将校達がいる。

 戦争の敗北を決定付けるのは尚早だが、何らかの緊急事態であると言う事は全員が理解した事でしょう。

 謁見の間に重苦しい空気が舞い降りる。


「ですが、ご安心を。

 我々は対魔教団同盟、魔教団と関わりの無い一般人達に危害を加える事はないと約束しましょう」


「ふざけるな!

 現に貴殿らはこうして王都を占領し、王宮を制圧しているでは無いかっ!!」


 そう言って声を上げたのは、30代程の美丈夫。

 あのコレールに対して反論するとは……彼には期待が持てそうですね。


「その通りです。

 言ったでしょう、魔教団と関わりの無い人々には危害を加えないと」


「我らアレサレム王国が魔教団と関係を持っていると?」


「……貴方の名は?」


「ハワード公爵家が当主、ノエル・ハワードだ」


「そうですか、ではハワード公爵。

 貴方はこの城の地下を見た事は?」


「当然ある。

 勇者殿達が召喚された場所、規模の大きい儀式を執り行う場所だ」


「では、その更に下には何があると思いますか?」


「何を……」


 ハワード公爵の言葉に、コレールはいつもの営業スマイルを浮かべる。


「では皆さん、参りましょうか。

 この国の、アレサレム王国の闇を見に」

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