第150話 十剣 VS 勇者 〝決着〟

「私は火・水・風・雷・土の基本5属性は勿論、時空を除く7つの上位属性を操る事が可能です」


「じゃあ、今あんたの周りを飛んでいるのが?」


「その通り。

 〝虹玉〟私が使う技の1つです。

 とは言え、1属性の扱いで言えば、君達も見た1つの属性を極限まで極めたネロやイヴには及びません。

 言ってしまえば、私はただの器用貧乏ですよ」


 言葉では自嘲じみた事を言っているものの、その顔には確かな自信が宿っている笑顔が浮かぶ。


「尤も、だからと言って負けるつもりはありませんけどね」


「そんなに自分の能力を話してもいいのかな?

 まぁ、長々と話してくれたおかげで腕を回復できだから、俺としては万々歳だけど」


「別に構わないですよ。

 私だけ君の異能の権能を知っているのは不公平ですし、君は回復が苦手な様でしたので」


 言外に、待ってあげてたと言われて稲垣が顔をしかめる。


「先程も言っていたが、何故お前が俺の異能の事を知っている?」


「それも私に勝てばお教えしましょう。

 しかし、そうですね……我々、対魔教団同盟の諜報力を舐めない方が良いとだけ言っておきましょう。

 では、貴方の腕も治った様ですし、そろそろ再開しましょうか?」


「くそっ、調子になるなっ!

 〝超重力圏ハイ・グラビティ〟!!」


 稲垣が剣を天に向かって翳すと同時に、ユリウスを含めた稲垣の前方の地面が、倍増した重力の荷重に耐え切れずに陥没する。


「無様に這いつくばると良い!」


「無駄です」


「なっ!?」


 目の前で起こった出来事に、愕然とした声を漏らす。


「俺の重力圏を斬っただと……」


 たった一振り。

 ユリウスが横薙ぎに剣を一閃しただけで、周囲を押し潰していた超重力が一瞬にして霧散した。


「〝虹玉・虹纏〟

 私の強みは、七つの属性の複合と鍛え上げた技術の融合。

 無数の選択肢から、その時々にあった組み合わせを選ぶ私に斬れないものはありません」


 尤も、ナイトメアの方々には一切通用しなかったですが……と口には出さずに、内心で軽くため息をつく。

 内心を奥歯にも出さずに優雅に微笑むユリウスに気圧され、稲垣は無意識のうちに一歩後ずさった。





 *





 ユリウスと稲垣が戦う場所から少し離れた地点では、飄々と佇む男の前に、4人の勇者が膝をつく。

 周囲の地面は所々が赤く融解して煮えたぎる、それだけでこの場であった戦闘の激しさを物語っていた。


「くっ……奴は力を使い果たした筈ではなかったのかっ!?」


 口惜し気に地面に拳を叩きつけるのは、元学級委員長である鈴木 賢弥 。

 〝賢者〟の異能を持つ勇者であり、そんな彼を含めた4人の勇者を見下す様に立つのは帝国十剣・六ノ剣であるネロ。


「魔力が尽きてるのに、戦場に立つ筈ないじゃん?

 君達ってもしかして、お馬鹿なのかな??

 それじゃ、そろそろ向こうも終わりそうだし、戻るとしましょうか!」


「戻るだと?

 お前達は俺達を殺すつもりじゃなかったのか?」


「殺す? そんな事する訳ないじゃんっ!

 俺っち達は君達をここに留めておく為の唯の陽動。

 昨日あの砦から見た数に比べて、今日隊列を組んでいた帝国兵の数が少ないって思わなかったの?」


「何、だと……」


 ネロの言葉に鈴木だけで無く、この場に倒れ伏していた全員が目を見開いた。





 *





「嘘、でしょ……」


 勇者達のツートップの片割れ、雛森 茜は眼前での光景に唖然と呟く。


「どうやら、私の氷結が貴女の炎を上回った様ですね」


 帝国十剣・七ノ剣であるイブが淡々と語る。

 両者の間では、雛森の異能である〝熱量操作〟で生み出された圧倒的な熱量を誇る熱線が、一瞬にして凍り付いていた。





 *





「ちぃっ! ちょこまかとっ!!」


 いつもは冷静沈着である双葉姉妹の姉、結衣は苛つきを現わに悪態をつく。


「くそっ! 速すぎるって!!」


 同様に妹である真衣も悔しそうに地面を踏み締める。

 そして、その原因である人物は……


「遅い遅いっ! そんなんじゃ、私には通用しないよっ!!」


 帝国十剣・八ノ剣であるフィールは疾風の称号に恥じぬ動きで、襲い来る攻撃の嵐を悠々と避けながら楽しげに笑う。


 勇者の中でもトップクラスの実力を誇る姉妹。

 結衣の異能である〝空間掌握〟も、真衣の異能である〝地質操作〟もまさしく疾風の如く戦場を駆けるフィールには届かない。





 *





 座禅を組んで瞑想をしている1人の男。

 そこは風の音すらない静寂に包まれていた、この場所が戦場だと言う事を忘れてしまう程に……


 あまりに高度に練り上げられた魔力が、僅かに弾けて紫電する。

 静かに目を開けた男の名はノッガー、帝国十剣・三ノ剣、破滅の称号を与えられし者。


 彼の四方には、彼を取り囲む形で4人の勇者が倒れ伏す。

 周囲に戦闘があった形跡は無く、勇者達が攻撃を仕掛ける前に制圧された事が窺えた。


「終わった様ですね。

 私も向かうとしましょうか」


 唐突に目を開いた彼は、ユリウスと稲垣が戦っている方向に視線を向け、穏やかに呟いた。





 *





「とまぁ、ここまでですね。

 これ以上やっては貴方を殺してしまいかねません」


 地面のいたる箇所がひび割れ、陥没し、戦闘の激しさを物語る場所にてユリウスが剣を鞘に納めながらそう語りかける。


「くっ…ここまで実力があるなんて……」


 ユリウスに語り掛けられた稲垣は、仰向けに他に倒れ伏しそう呟くも、その顔には軽く笑顔が浮かぶ。


「あれ程怒っていたのに、どう言う心境の変化ですか?」


「いや、あれ程手も足も出ずに一方的に負ければ、笑うしかないでしょう?」


「そうですか。

 まぁ、私としては楽しかったですし、リベンジがしたくなったらいつでも受けて立ちますよ?」


「はっはっは、当分の間は勘弁願いたいですね」


「それは残念」


 無傷で佇むユリウスとボロボロになって地に倒れ伏す稲垣は互いにニヤリと悪戯っぽい笑みを浮かべる。

 それと同時に、真っ白な4つの扉が現れた。

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