第114話 眷属会議
「ルーミエル様はご無事でしょうか……」
オルグイユの呟きが、やけに大きく響く。
その日、深淵の試練第200階層のナイトメア本部、特別会議室にはルーミエルの眷属が全員、顔を揃えていた。
「ルーミエル様成分がぁぁ!!」
オルグイユの慟哭が特別会議室に満ち、同僚たる神獣達が呆れた視線でそれを見る。
ルーミエルが深層に潜って、今日で既に一週間。
ルーミエル第一のオルグイユは既に限界であった。
「オルグイユ……大丈夫です!
お嬢様ならば、きっとご無事です!!」
そう言って、オルグイユを励まそうと声をかけたのは、同族であり、
「メルヴィーちゃん……そうね!
ルーミエル様ですもの、きっとご無事ですね!
ありがとうメルヴィーちゃん、元気が出たわ」
「いえ。
共にお嬢様の素晴らしさを語り合った仲ではないですか!」
ガシッと握手を交わす両名。
その光景にもはや、何も言えない眷属達だった。
「ゴホン、メルヴィーの言う通りです。
それよりも、我々にはしなければならない事があります」
咳払いを挟んだコレールの言葉に、苦笑いを浮かべていた眷属達の表情が引き締まる。
「アヴァリス殿、あれから勇者及びアレサレムからの接触はありますか?」
「アレサレムからは今のところ、特に何もありません。
しかし、アルテットの勇者数名がホテルの方に来ましたが、追い返した様です」
「そうですか。
一応、アレサレム、勇者の両方の動向は掴んでおいて下さい。
ですが、例え何があっても勝手な行動は慎む様に各員に通達、もしもの時は本部への撤退を伝えて下さい」
「了解しました」
コレールの決定に誰も異議を唱える事なく、会議は円滑に進む。
「では、本題に移りますが。
先程、ディベルの追跡に成功したと連絡を受けました」
「やっとだな」
「泳がせていて正解でしたね」
コレールの言葉に、自然と笑みを浮かべてリュグズールとエンヴィーがそう返す。
実は、火炎の試練に残った僅かな魔力の残滓を辿り、数時間後にはディベルを発見していた。
転位魔法の魔力残滓の逆探知など、まさに神の御業と言えるのだが。
超越者たるルーミエルの眷属達は、当然の様にその御業を成してしまう。
まさか、相手に転位魔法を辿れる人知の及ばぬ存在が複数名いようとは想定外もいいところだ。
結果、ディベルは簡単に捕捉され、教団の拠点に逃げているであろう彼は泳がされていたと言う訳だ。
「やっとですか。
行きますよメルヴィー、チリすら残さず消し飛ばしてやりましょう!!」
「承知しました。
あの者にはしっかりと話を聞かなくてはなりません」
メルヴィーの言う話とは。
ディベルが使った血液が吸血鬼、それも一般種では無く貴種の物だった件だ。
「お待ち下さい!
お2人とも少し落ち着いて下さい」
「そうですよ!
オルグイユ様もメルヴィー様も、落ち着きましょう!」
席を立ったオルグイユとメルヴィーを止めようと、ノアとシアも席を立つ。
「まぁまぁ、オルグイユ様もメルヴィーも落ち着きましょ…ぶぇっ!?」
グラトニーも加わり、2人を諫めようとするもの……邪魔とばかりに吸血鬼2人の裏拳をくらい、頭から壁に突き刺さった。
「煩い」
軽くカオスと化した会議室が、その一言で静まり返る。
「ん、それで、場所は?」
両手でグラスを持ち、注がれたジュースをちびちびと飲んでいたフェルが、コトッとグラスを置き、眠たげにそう問う。
「はい。
場所は……」
コレールの言葉は、深淵の試練全体を揺るがすかの様な凄まじい音と揺れによってかき消された。
「皆様、大変ですっ!
たった今、ルーミエル様がいらっしゃる深層を監視していた者から連絡があったのですが。
深層が、消滅した様ですっ!!」
特別会議室の扉を開け放ち、駆け込んで来た報告員が焦った様子でそう叫んだ。
「これは……」
しかし、誰もその報告に応える事なく、オルグイユが静かにそう呟いたのみ。
「皆も気づきましたか?」
「ええ、勿論です」
コレールの問いにオルグイユだけで無く、全員が一様に頷く。
「皆様、一体なんのお話を……?」
「ん、これは、エルの仕業」
この場に置いて1人、話について行けていない報告員が漏らした疑問に、フェルが落ち着いた様子でそう答え。
コトッと、空になったグラスを楕円形の円卓に置いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます