第96話 質問にお答えましょう
翼越しでも分かる眩い閃光。
それに少し遅れてやってくる、空間を揺るがす様な凄まじい衝撃波と暴風。
そして、それらが過ぎ去った直後に到来する爆縮。
前から揺らされて直後に後ろから揺らされて、ちょっと気持ち悪くなっちゃいました。
これも全て、あのベヒーモスの所為です。
ベヒーモス、許すまじ!!
「おぉ、なかなかに凄い事になっていますね」
翼を開けて外の状況を確認すると、そこに広がるのは正に惨状。
星天魔法の破壊力によって背後にあった湖ごと消し飛び抉られた地面に、天高く立ち昇るキノコ雲。
空気中には電解したプラズマによって生じた紫電が弾ける。
「これぞ、正に終焉って感じですね」
勿論、全ての元凶たるベヒーモスは抉られた地面と共に綺麗に蒸発しています。
骨は当然、一片の肉片すら残っていません。
「ふぅ、ちょっと落ち着きました。
皆んなは……大丈夫そうですね」
煙で目視は出来ないけど、魔力反応がしっかりあるので安心です。
眷属の皆んなやアレックさんはまだしも、完全な文官であるピッツさんは星天魔法を喰らえばひとたまりも無いでしょうからね。
「それにしても……この煙、ちょっと鬱陶しいですね」
以前リュグズールとの戦いで使った時は異空間だった事もあり、ここまでの煙は発生しなかったのですが。
「これは、使い時を考えなければならないかも知れませんね。
まぁ、それは追々イヴァル王達に常識を学んでから考えるとして。
取り敢えず、皆んなの所に戻るとしましょう」
皆んなのいる東屋に戻るにいたって、問題が1つあります。
言うまでも無く、この煙です。
引きこもりで、ちょっとした馬車の旅で死屍累々になった僕が、こんな煙の中を進んだらどうなるのか……
考えただけで鳥肌が立ちました。
「えぇい! 鬱陶しいですよ!!」
魔力を羽の1つ1つに宿し、埃一つ付かない翼を思いっきり外側に押し開く。
それだけで、発せられた風圧により周囲を舞っていた煙は吹き飛ばされ。
それだけに留まらず、もくもくと伸びていたキノコ雲すら消し飛びました。
「お疲れ様でした、お嬢様」
「ありがとうございます、コレール。
でも、あれを修復するのは面倒ですね……あのベヒーモスの所為です」
どうやらコレール達が結界を展開していてくれた様ですね。
湖より背後には一切被害が無かった事が唯一の救いです。
それでも、今後の労力を考えると、ため息を止める事は出来無いですね……
「ルーミエル様……あの犬どもを皆殺しにしてしまいましょう!」
「気遣ってくれてありがとうございます、オルグイユ。
でも、ベヒーモスはいつかペットにしようと思っているので、それはやめて下さい」
「承知致しました」
素直に引き下がったオルグイユの後ろで、フェーニル勢がギョッとした顔をしています。
何かあったのでしょうか?
「でも、星天魔法があれ程の煙を巻き上げるのは想定外です。
下手をすれば埃まみれになってしまいます、使い時を考えなければなりませんね」
「お嬢様、それならば前もって結界で覆っておけば良いのでは無いでしょうか?」
確かに、言われてみればメルヴィーの言う通りです。
予め結界を張っておけば、外に煙が拡散する恐れはありませんね。
「メルヴィー、流石ですね!」
「ふふ、ありがとうございます」
翼を収めて地面に着地すると、即座にメルヴィーに抱き上げられました。
最近何かと誰かに抱っこされている気がするのですが……まぁいいでしょう。
「まぁ、あれはまた後でやるとして。
僕達の組織についてと、銀行の話に戻りましょうか」
美女に人形のように抱っこされた状態では格好がつきませんが、それはもう諦めました。
世の中にはどうにもならない事があるのです……
「すぐに換えのお飲物をご用意致します」
「よろしくお願いします〜
あ、僕は甘い物をお願いします」
流石にちょっと疲れました。
もうしっかりと答えるのも億劫です。
コレールには申し訳ないですが、間の延びた返事になってしまいました。
もうどうせ格好やら威厳やらは無いに等しいし、メルヴィーの腕の中でグッタリしておきましょう。
「それで、ナイトメアについてでしたね」
「え、ええ」
僕のだらし無い姿を見たからでしょう。
イヴァル王達が何とも言えない微妙な顔になってます。
ですが! 僕は決めたのです、もう取り繕うのはやめだとっ!!
「ナイトメアは、僕が作った裏組織の名称です。
コレール達、僕の眷属はナイトメアの最高幹部をやってもらっています。
本部はあのお屋敷……と言うよりはお城ですが、あそこです」
お城という表現も適切ではないかもしれませんね、あれは最早、城塞都市ですよ。
まぁ、僕の神像は無いので別にいいですけど。
ちょっと広すぎて困ります……
「ちょっと待って頂きたい!
先ほど貴女様は、この深淵の試練とおっしゃいましたか!?
それに先程オルグイユ殿も仰いましたが、眷属ですとっ!?」
ピッツさんがいきなりサムズアップして来て、ちょっとだけ引いてしまいました。
でも、何処とは言いませんが、ハゲかけたおっさんが幼女に迫るこの図はマズイでしょう。
「ピッツさん、落ち着いて下さい。
お嬢様が困っています」
メルヴィーにそう言われて漸くピッツさんは少し平常心を取り戻したのか、謝罪を述べつつ身を引いてくれました。
「ですが、それは我々も気になっていた事です。
教えて頂けますか?」
「勿論です」
アレックさんも何やら真剣な面持ちで聞いてきました。
けど、もともと隠す気も無いですけどね。
「この場所はアレサレム王国にある深淵の迷宮の最下層、第200階層にあります」
尤も、今はその下の階層に僕たちの家があるので最下層では無いですけど。
「ちょ、ちょっと待ってください!
深淵の迷宮は全100階層だったはずです!!」
「それは人間の間でそう考えられているだけですよピッツさん。
そもそも、その100階層でさえ誰も到達していないのに、それより下の階層が無いとは限らないじゃないですか」
実際、勇者一行も77階層で引き返して行きましたし。
「深淵の迷宮では、第100階層までは表ステージ、それより下の階層が本当の試練です。
僕は訳あって101階層に行き着き、深淵の迷宮を攻略したと言う訳です。
それに伴い、僕が深淵の迷宮のダンジョンマスターとなったので、ちょうど良かったからこの場所に組織の本部をと思ったのです」
「今サラッと聞き捨てならない事を聞いた気がするのが……」
イヴァル王が呆れたような目を向けてきます。
失礼な人ですね。
何もしてないのに……理不尽です。
「深淵の迷宮を含めた8個の迷宮はその昔、神々が作ったもので。
コレール達はそこの守護者をやっていて、色々あって僕の眷属となりました。
今では皆んな僕の家族です」
実際は、アヴァリスとリュグズールは深淵の迷宮では無いですけど。
それは追々説明すればいいでしょう。
「あっ、因みに、ベヒーモスは表ステージの支配者ではありますが。
裏ステージでは多分110階層辺りで普通に死ぬと思いますよ?」
110階層以降は出てくる敵のレベルが200を超えて来ますし。
何より、群れで襲い掛かって来ますからね。
「獣の王であるベヒーモスを圧倒し、深淵の迷宮のクリア者でありダンジョンマスター。
更には神話に残る名のある神獣達を眷属に従える主人。
ルーミエル様、貴女は一体……」
群れでやって来たワンちゃん事、ヘルハウンド達の事を少し懐かしんでいると、イヴァル王がそんな事を聞いて来ました。
「僕は一体何者か、ですか。
そうですね……実を言うと僕にも自身の種族は分かりません。
でも、強いて言うのであれば、いきなり召喚されて追放された元勇者と言ったところでしょうか?」
イヴァル王の質問に、ゴクリと固唾を飲んで凝視して来るピッツさんやアレックさん達3人に、少し自嘲の笑みを浮かべました
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