第77話 一安心です!

 一瞬の浮遊感、そして目を開けるとそこに広がるのは……ホテルの客室!

 そんな訳で戻ってきました、フェーニル〜!!


 あのダンジョン……瀑水の試練に赴いた目的。

 迷宮の攻略と、守護者を仲間に迎える事は達成しましたからね。


 そして何より、明日は遂にフェーニルの国王との商談の日。

 その商談が終われば、今回の旅行はお終い。

 つまり! 遊ぶ事が出来るのは今日が最後という訳です!!


 帰り際に神界にお呼ばれもしましたが。

 早く帰って来るべく、質問もせずに我慢して、復活した神様に挨拶しただけ。

 神様よりも、観光が重要なのです!


 因みに、復活した神の名前はアクーディト。

 まさに、水も滴るいい男と言う言葉にふさわしい、ダンディーな感じの男神でした。


 それに、エンヴィーを眷属とした事で、瀑水の試練の管理権が僕に移った。

 つまり何が言いたいのかと言うと!

 これから暫くはスケートで遊べると言う事です!!


 地球では完全なインドア派で、殆ど体を動かして遊ぶ事は無かったですからね。

 今は楽しくて仕方ありません!


「この世界で太陽と言う名の弱点を克服した僕は、アグレッシブに行くのですっ!!」


「なりませんよ、お嬢様!」


 転移した直後、気が緩んだ一瞬を狙った、僕の扉へのダッシュは……メルヴィーの前に潰えました。


 ふっ、流石ですね。

 こうも容易く、この僕を背後から抱き上げてしまうとは……


「本日はエンヴィー様の名付けや神々との対談でお疲れでしょうし。

 それに外を見て下さい。

 もう、外は暗くなってきていますよ?」


「むぅ、ダメですか?」


「うっ……だ、ダメです」


 くっ、渾身のうるうる懇願ポーズでもダメですか……


「仕方ありませんね……じゃあ、せめて皆んなでお風呂に入りましょう!」


「承知致しました。

 では、私は確認を取ってきますので、ノアとシアはお風呂の準備をお願いします」


 そういうや否や。

 颯爽とスキップでもしそうな勢いで、メルヴィーは部屋を出て行きました。

 さてと、この間にやらないとダメな事をを終わらせておきましょう!


「全員でお風呂となるとそれなりに大変です。

 アヴァリスとオルグイユもシア達を手伝ってあげてくれませんか?」


 2人は意味有りげな微笑みを浮かべならがらも、シア達と共に隣の部屋に移動し行ってくれました。


「エンヴィーさん、さっきは偉そうにして、ごめんなさい」


 実はさっき偉そうな態度を取る時、結構緊張したんですよね。

 けど、ああでもしないと3人が納得してくれそうになかったですし……かなり頑張った。


 でも、あの3人の監視の中アレでは只の脅しと変わりありませんからね……

 選択肢の無い選択を迫ってしまった訳です。


「えっ? 別にそんなの気にしなくていいよ。

 そんなことを言うために3人を部屋から出すなんて……

 ちょっと、コレール! 我が君がめっちゃ可愛いんだけど!?」


 突然、がばっ! と身を翻したエンヴィーさんは目にも留まらぬ速さでコレールに肉薄する。

 流石のステータスの高さ……古の大戦を生き抜いた実力は本物ということですね。


 しかも、高度な結界が展開されてますね。

 この僕が、何を話しているのか聞き取れないとは!


 後でやり方を教えて貰って、ナイトメアのマニュアルに導入しましょう!!

 でも今は……ちょっと盗み聞き。

 この程度の結界、僕の前には無意味なのです!


「はぁ、エンヴィー。

 貴方は何を当たり前の事を言っているのですか?

 お嬢様が、全てにおいて尊いのは当然の事です。

 それよりも、貴方の奇行にお嬢様が困惑なさっていますよ?」


 僕が尊い?

 一体何の話をしていたのでしょうか?

 うーん、わかりません!


 まぁいいでしょう、重要な内容だとすればコレールが教えてくれると思いますしね。

 それよりも、今日は結構頑張っちゃいますよ!!


「エ、エンヴィーさん!

 あのっ、僕は眷属として、魂を通わせている皆んなの事を家族だと思っています!!

 だからですね、えっと……その」


 ヤバイです!

 何を言ってるのか、イマイチよく分からなくなってきました……


「我が君、大丈夫。

 キミの言いたい事は理解したつもりだよ。

 その上でお願いなんだけど、僕にも仲良くしてくれるかな?」


「も、勿論です!」


「ありがとう。

 じゃあ、僕のこともこれからは皆んなと同じ様に、呼び捨てで呼んでくれるかな?」


「わかりました!

 改めて、これからよろしくお願いしますね、エンヴィー!!」


「うん!

 こちらこそ、小さな我が君」


 片膝をつくエンヴィーの姿は、正に小説とかに登場する騎士の様です。

 何故か途中から主導権をエンヴィーが握っていた気がしないでもないですが。

 ともあれ、ちゃんと謝れて一安心です!


 エンヴィーが、僕の手の甲にキスしようとした瞬間っ!


「お嬢様、申し訳ありません。

 問題が発生致し、まし……た」


 ガチャリと扉が開き。

 メルヴィーが、目を見開いて停止しました。

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