第74話 連行されて行きました!

「いやー、それにしても本当に凄まじいね」


 未だに小言を言いつづけてるフェルを視界の外に押し出すように。

 そして若干、苦笑い気味でそう言ってくる変態マゾヒストさん。


「……」


「は、ははは……」


 フェルの為に翼を片方開いていたので、バッと慌てて翼を閉じる。

 僅かに残した隙間からジッと半目を向けると。

 微妙な表情でずぅーん、と言う効果音が付いてきそうな感じで項垂れてしまいました。


 そんな反応をされると、僕が悪い事をしてるように思えて、ちょっと罪悪感を感じますね。

 しかし! ここで安易に警戒をとけば敵の思う壺かもしれませんし……


「まぁ、そう気を落とさずに」


 コレールがうな垂れた肩をポンポンと叩くと、バッと振り顔を上げて……


「どうにか彼女の誤解を解いてくれよっ!!」


 切羽詰まった様に叫びました。


 誤解?

 と言うと、もしかして彼は変態ではないのでしょうか?


 でも、あの意味深な笑みは油断なりません。

 ゾワァっと身の危険を感じましたしね。


「ふっふっふ、お前はエルに、嫌われた!」


「そ、そんな!!」


 まるで雷にでも打たれたかの様なこの反応。

 何と言うか……彼はもしかして、いじられキャラなのでしょうか?


 うーん、わかりません。

 くっ、こんな所に来て人間付き合いの無さが仇となるとはっ!!


「ふふふ、フェル、そんなに意地悪をしたら可哀想ですよ?」


「コイツは、吾の、邪魔をした。

 でも、吾は寛大、許してあげる」


 楽しげに微笑みを浮かべるアヴァリスの注意を受けて、フェルは尊大に胸を張って微笑を浮かべました。


 ふむ、あの無表情で滅多に表情を出す事が無いフェルが頬を緩めるとは!

 やっぱり変態マゾヒストさんは悪い人では無いのでしょうか?


「霊鳥の……彼女もああ言ってるんだし、どうにかしてくれ黒龍の!」


 感激した様子でフェルを見つめ、コレールに食ってかかる。

 執事服の胸ぐらを掴んで前後にブンブンと揺さぶっています。


 呆れた顔をしつつもそれを拒否しない。

 と言う事は、コレールとも親しい間柄という事でしょう。


 あの誠実を絵に描いたようなコレールに変態の友人がいるとは……

 ですが、僕はそんな事気にしませんよ!

 コレールにどんな友人がいようとも、信頼は揺るぎませんからね!!


「はいはい、わかりました。

 お嬢様、どうか彼への警戒を解いては頂けないでしょうか?」


 むぅ、真剣にそう言われてしまうと無下にもできませんね……

 しかし、かと言って完全に気を許すのもちょっと、何をされるのか分からない怖さがありますし。


 取り敢えず、顔だけは出すとしましょう。

 先程と同様に片方の翼を広げて顔を出すと、コレールがホッとした様な表情をしました。


「喜びなさい。

 取り敢えずは、話を聞いて下さるようだ」


 ん? ちょっと待って下さい。

 もしや僕があのまま閉じ籠っていたら、変態マゾヒストさんは弁明のチャンスすら貰えなかったのでしょうか?


 それはちょっと可哀想ですね……

 まぁでも、彼はコレール達の中ではいじられキャラみたいですし。

 恐らく、どうにかなったでしょうけど。


「流石は黒龍の、頼りになる!!

 ごほん、ルーミエルちゃん、君がどう思っているかは分からないけどね。

 僕はいたって普通の常識人だよ!

 だからそんなに警戒しないで? ね?」


「お嬢様、この者は確かにどこか抜けている変人ですが。

 それでも異常性癖者ではありません。

 どうかこの者の事をお許し頂けないでしょうか?」


「ん、アホだし、ウザいし、煩いけど。

 嫌な奴じゃ、ない?」


「ちょっ! 君たちそれって僕を擁護してくれてるのかな!?

 それとも貶してるのかな?? てか、もうこれ貶されてるよね、これ?」


 確かに、ちょっと騒がしい人ではあるようですが。

 コレール達がここまで言うのであれば悪い人ではないのでしょう。


 でも、コレールの言う許す? とはどう言う意味でしょうか??

 うーん、まぁいいでしょう。


「わかりました。

 許します、僕の方こそ勝手に変態マゾヒストだって決めつけてしまってごめんなさい」


 取り敢えず翼をしまってペコリと頭を下げる。

 これで和解出来ればいいのですが……


「ぐっ、面と向かって言われると流石にダメージが……でも無事誤解も解けたようだし。

 分かってくればそれで良いよ」


 あ〜よかったぁ、と安堵のため息をついている変態……じゃなくてリヴァイアサンさんでしたか。

 これじゃあ呼びにくいし、ちょっと長いので取り敢えず……リヴァさんと読んでおきましょう。


 安堵したところ申し訳ないですけど。

 新たな危機が迫っていますよ、リヴァさん!!


「ちょっと良いでしょうか?」


 底冷えするような冷たい声とともに、ポンと後ろから肩に置かれた手。

 一瞬にしてリヴァさんの笑顔が凍りつく。

 デジャブ感のある、壊れたブリキ人形みたいな動作で振り返りました。


「な、何でしょうか、始祖の」


「ふふふ、そんな事も分からないのですか?」


「きゅ、九尾の……」


 顔は微笑んでいるけど目が笑ってないアヴァリス。

 リヴァさんが顔をさらに青くしました。


「貴方、先程ルーミエルお嬢様に謝罪をさせましたね?」


「そ、それが何か?」


「何がっ!? 尊きルーミエル様に謝罪されるなんて、そんな羨ま……そんな罪深き事が許されると?」


「えっ? 今、羨ましいって」


「空耳でしょう。

 それよりもここではお嬢様にご迷惑をお掛けしてしまいます。

 少しあちらに行きましょうか?」


 リヴァさんの言葉を遮って話に乱入してきたメルヴィーもまた目が笑っていません。


「あちらって、何処な……」


「ふふふ、良かったですね。

 両手に花ですよ」


 抗議の声すら遮られ、ガッチリと両肩をオルグイユとメルヴィーに握られリヴァさん。

 引き摺られるように連行されていきました。


「今日も平和ですね」


「そうだな、お嬢」


「うーん、暫くは戻ってきそうに無いですし。

 取り敢えず、この氷のリンクでスケートでもして遊びましょう!」


「そうですね、確かにああなってしまったオルグイユ様とメルヴィー様を止めるのは不可能ですからね」


「それに今回は珍しくアヴァリス様も一緒に行かれましたし、恐らく大事には至らないでしょう」


 ノアとシアもこう言ってますし。

 リュグズールもコレールも異論はないようですから、決定ですね!


「これは如何すれば良いのでしょう?」


 常識人であるプレシーの呟きは、スケートでテンションの上がっているルーミエルの耳に届くことはなかった。

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