第73話 変態は溺れます!
押し寄せる水の壁!
デジャブですね、さっきも同じようなものを見た気がしないでもないですが……
一部に穴が開いてしまった結界は、周囲の水による圧力に耐えられず、その幅が徐々に広がっていってますね。
このぶんでは、すぐに結界全体が崩壊してしまうでしょう。
僕は現在翼に包まって宙に浮いているので今のところ迫り来る水の実害はありません。
しかし、結界が全て崩壊すると流石に水場出しになってしまいそうですね……
「うおっ!?
何じゃこりゃぁー!!」
冷静に現状を分析していると不意にそんな叫び声が聞こえてきました。
翼の合間からチラッと外を見ると、何やら変態マゾヒストさんが絶叫していますね。
そして迫り来る水の壁に呑み込まれて視界からフェードアウトしてしまいました。
こう言ってはなんですが……今のシーンはかなりシュールですね。
なんかもう、あの人がネタにしか見えなくなってきましたね。
一緒にコレール達も水の暴威に呑み込まれましたが、特に焦る必要もありません。
確かに地球であれば……と言うよりも常人であれば僕もかなり焦ったでしょうが。
呑み込まれたのは神獣とも呼ばれるコレール達ですし、何も心配する必要は無いのです!!
あっ、自らが展開した結界に包まれ一滴たりとも水に濡れた様子のないコレール達が頭上の水を押しのけてそのまま僕のいた空中まで浮上してきました。
「お嬢様、ご無事ですか?」
「はい、この通り無傷ですよ」
翼で包まっている僕のそばまで来たコレールの問いに顔だけを翼から出して答えつつも周囲の警戒を怠りません。
あの変態マゾヒストさんは海底にあるダンジョンを任されるだけあって水の扱いに長けているはずです。
あの戦闘を見れば一目瞭然でしょう。
そんな彼からしてみればこの程度こと大した問題はないと見るべきですからね。
ドボォォッン!!
背後で何やら大きな音が鳴ったので慌てて背後を見ると。
流石と言うべきか水竜であるプレシーさんが大きな水柱を足場にしてそこに立っていました。
「皆様が無事なようでなによりです」
まるで某有名忍者漫画の砂の影のように水に乗って来たプレシーさんは開口一番そう言ってニッコリと微笑みました。
変態マゾヒストさんとの戦闘で荒廃した僕の心が癒されそうな気がします!
「にしても、変態マゾヒストさんが見当たりませんね」
「ぷっ!お、お嬢、変態マゾヒストって…ぷはっはっは!!」
僕の言葉がツボに入ったのかリュグズールがお腹を抱えて笑いだしてしまいました。
にしても、まさか空中で転げ回るとは……
「む、エルのそれ、気持ち良さそう」
そんなリュグズールを皆んなちょっと半目で見ていると。
リュグズールに興味をなくしたフェルが僕が包まれている翼を見て羨望の眼差しを向けてきました。
自分で言うのもなんですが、確かに僕の翼はふわっふわです。
僕と一緒で寝る事に対しては妥協しないスタンスのフェルがそう思うのは当然の成り行きでしょう。
「よければ入りますか?」
僕の翼は、何故か僕の身体に対してかなり大きめなサイズ。
フェルぐらいであれば、多分一緒に包まる事が出来ると思います。
オルグイユも猫スタイルになってくれれば一緒に入れるのに……また今度誘ってみましょう。
そう言えば、メルヴィーは何に変身出来るのでしょうか?
地味に気になりますね、これもまた今度聞いてみる事にしましょう。
「ん、そうする」
無表情ながらも、何処と無く嬉しそうなフェルを迎え入れようと片方の翼を広げた時……
「うえっ! だ、だす……おぼほぉっ」
意味不明な悲鳴が聞こえてきました。
この場には僕を含めコレール達も眷属のみんなは勿論。
水竜であるプレシーさんがいて、いないのはただ1人。
いやでも、流石にそれは無いですよね?
だって彼はこんな海底にある水を象徴するダンジョン、瀑水の試練のダンジョンマスターですよ?
その正体までは知りませんが、コレール達と同様、過去の対戦を生き抜いた歴戦の猛者。
しかも水を操るのに……まさか、そんな訳ないですよね。
「おぼぉっ! し、じぬうっ!!」
そこには、溺れてバタバタともがいている変態マゾヒストさんがいました。
「……はぁ、全く。
あの人は何をやっているのでしょうか」
その光景を同じ様に目撃したプレシーさんが心底呆れた様子で軽く頭痛を堪えるように溜息をつきました。
けれどまぁ、僕もそれに同感です。
「全く、何をやっているのですか貴方は!
海の王たるリヴァイアサンの貴方が溺れたりするものですかっ!!」
プレシーさんがまるでお母さんの様に見えます!!
プレシーさんに怒鳴られた変態マゾヒストさんは、ハッとした表情でその場に固まりました。
そして恐る恐ると言ったふうに僕たちの方を見ると……
「いやだって!
いきなり水に飲み込まれたら誰だってビックリするじゃん!?」
呆れた目で見られる事にいたたまれなくなったのか。
苦しい言い訳を言いつつ、凄まじい速度で僕たちに肉薄してきました。
「流石に擁護できません」
コレールの尤もな言葉にみんなが頷くと、ガクッと肩を落としてしまいました。
「そんな事はどうでも良い。
お前の、せいで、エルの翼に入れなかった」
「ちょっ、そりゃあ流石にひどくないですかね!?霊鳥の!」
何やらフェルと揉め始めてしまったようですね。
うーん、僕達が溺れるとは思えませんが。
あのまま嵩が増してきた水でびしょ濡れになるのは嫌ですし、取り敢えず凍らせてしまいましょう。
「凍てつけっ!」
言い合い……と言うより変態マゾヒストさんが騒いでいるのを尻目に僕は魔力を解き放ちました。
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