第71話 悪・即・斬ですっ!!

 実に楽しそうに頬を緩め、見つめてくる彼こそが、この場所を任された守護者。

 つまり、ここから先はお仕事モード!!


「初めまして、僕の名前はルーミエルと言います。

 以外お見知り置きください」


 アヴァリスに降ろしてもらい、しっかりと一礼します。

 やはり社会人、挨拶ぐらい完璧にこなせなければなりませんからね。


 その点で言えば、今の挨拶は我ながら完璧でした!

 それこそ、何処ぞの王様の前であっても通じる程です。


 まぁ尤も、そんな機会は無いに越した事はありませんし。

 作るつもりも全く無いですけど。


「イイねぇその所作!

 足の運び方ひとつとっても君が相当な実力者だとわかるよ!!」


 先程から、とっても良い笑顔ですけど……

 もしかして彼はサディストなのかもしれませんね。


 幼女である僕と戦い、弄ぶ事を想像して……もしかしなくてもヤバイ人です。

 早くも、彼と関わり合うのが嫌になってきました。


 人の性癖に対してとやかく言うつもりはありませんが。

 その対象が僕となるのであれば、その限りではありません!!


 ですが、これはお仕事。

 やらない訳にはいきません!

 頑張れ僕、僕なら出来るっ!!


「あぁ、楽しみだなぁ!

 ここは僕の力で外界と隔離されているから、ちょっとやそっとじゃビクともしない。

 さあ何処からでもかかっておいで!!」


 これは、まさか……いや、これは流石に僕の思い違いでしょう。

 しかし、狂気の色がしっかりと宿したあの瞳。


 しかもこの視線、まるで僕を舐め回すような……これは危険です。

 思わず鳥肌が立ってしまいました。


「皆んな、巻き込まれないように気をつけて下さい。

 特に、ノアとシアそれにプレシーさんに危害が及ばないようにしっかりと守ってあげて下さいね」


「承知致しました」


 普段であれば絶対に言わない様な言葉を受け、コレールが即座に僕と守護者を省く全員を結界で包む。


 いつも迅速な対応をしてくれるコレールですが、今回はいつもよりも更に速い。

 僕の並々ならぬ様子を見て、思うところがあったのでしょう。


 コレールの判断は正しかったと言えます。

 自分で言うのもなんですが、客観的に言って僕の容姿は可愛い。


 自分自身では特に何も思わないですが、周囲の人達の反応を見ればそれは分かります。

 僕は可愛い、これは紛れも無い事実です。


 そしてステータスが高いからか、吸血鬼と言う人外の存在になったからか。

 まぁ両方でしょうけど、僕の感知出来る範囲は人間のそれよりも遥かに広い。


 そして当然、僕に欲情している人達の視線も把握出来る訳で。

 今の彼の目は、そんなロリコン変態野郎の目と酷似しているのです。


 さっきも言ったように、他者の性癖に対して口出しするつもりはありません。

 ありませんが……


 いくら何でも僕の容姿と同じくらいの年齢。

 つまりは、8歳の幼女に欲情する変態は許せません!

 この世界の成人が、だいたい15歳と速いとは言え、8歳は無いでしょう!!


 よくラノベに出てくる様な、奴隷幼女ばかり買い集める変態貴族なんて死滅するべき悪です!!

 つまり何が言いたいのかと言いますと……


「行きますよ……悪・即・斬ですっ!!」


 宣言と同時に思いっ切り地面を蹴ると、爆発音と共に地面が大きく爆ぜる。

 まぁ、これはいつもの事です。


 変態サディストとの差を詰める様に疾駆する。

〝無限収納〟から得物を取り出し魔力を纏わせると共に……一閃。


 横薙ぎに解き放たれた魔力の刃。

 広範囲に広がる不可視の刃が変態に襲い掛かり……


 ドゴォッン!!


 変態サディストから放たれた水刃によって打ち消される。

 しかも、それだけに留まらず。

 新たに生み出された無数の水刃、が全方位から僕に向かって飛来して来する。


 自然と足を止められてしまいましたか。

 流石は守護者、やりますね……

 大半の敵であれば、今の一閃で容易く決着がついた事でしょうに。


 しかし、コレール達と同様、神獣と呼ばれる存在。

 あるいは、それに並び立つ存在なのであればこの程度は出来て当然です!!


「はぁっ!!」


 全方位に向けて魔力を迸らせる。

 広がる魔力が衝撃波となり、飛来して来た水刃が全て弾け飛ぶ。


 弾け飛んだ水刃が霧散し、水滴が雨の様に降り注ぐ。

 万々歳ですね!


「凍り付け」


 空中に無数に飛び散る水滴。

 その全てが一瞬で凍りつき、極小の弾丸を作り上げる……


「行けっ!」


 僕に飛来した水刃が、氷の弾丸となって一斉に変態サディストへと向かって飛翔する。


「ふふふ、この程度じゃあ、僕に傷一つ付けられないよ」


 その光景に変態サディストは余裕の笑みを浮かべる。

 その全身を包み込む様に水の防壁が現れ、氷弾を全て受け止めてしまいました。


 透明度が高く、ただ水の防壁に包まれただけに見えますが……

 どうやら凄まじいスピードで対流している様ですね。

 水に撃ち込まれた氷弾が一瞬で粉々になってしまいました。


 もし勢い余って、あの水に突っ込むと細切れになってしまうと言う訳ですか。

 恐ろしい初見殺しですね。


 流石は変態サディストと言ったところでしょうか?

 しかし、今の一瞬で変態サディストの背後を取る事は出来ました!


「纏・滅光ノ太刀!!」


 その瞬間。

 僕の持つ刀の刀身が、白く何処か神聖な淡い光に塗り潰される。


 ユニークスキル〝刀魔闘術〟。

 その権能で刀に滅光魔法を宿らせた、全てを消し去る断罪の太刀。


 変態相手に使うには、もってこいの技と言えます。

 そして、悪・即・斬と言えば……やはり、あの技しかありません!!


「喰らえっ!!」


 変態サディストとの距離を詰める全速力の速度。

 その勢いが乗ったゼロ距離から放たれる、最速の一撃。


 頭の横に構えた刀身に手を添える独特の構えから放たれるこの一撃は、正しく牙○!

 滅光魔法を纏わせた一撃なので、さながら滅突……いえ滅牙と言ったところでしょう!!


 少々語呂は変わってしまいますが、そんな事はこの際どうでもいい。

 だって、こっちの方がカッコいいですからねっ!!


 繰り出された滅牙零式。

 全てを貫く一撃は、高圧水流の防壁をいとも簡単に貫き……


 ゴォ!!


 轟音と共に白き輝きを放つビームが、進路上にあった水のドームを穴を穿つ様にを消し去った。


 何故か静まり返った室内? で、その光景を目にした変態サディスト。

 その頬から一筋の血を流す、ギ、ギ、ギと壊れたブリキ人形じみた動きで唖然と振り返りました。

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