第68話 手の平の上です!

 うーん、我ながら凄まじい威力。


 南国リゾート地と言うだけあって、暑い地域ですが。

 海のみならず、砂浜までもが凍りつく。

 超巨大津波が綺麗なオブジェになっている光景は壮観です。


 まぁ、少しやり過ぎた感は否めませんが。

 そこは勇者パワーで何とか誤魔化せるハズです……


 都合が良いことに、勇者くん達は接近戦では無く魔法戦を得意みたいですね。

 さっきまで魔法でしか攻撃して無かったですしね!


 あぁっ! 何でポカンとしてるんですか勇者くん達!!

 もっと堂々としてくれないと困りますよ!


 これがもしメルヴィーなら、物理的に海が割れると言う超常現象になっていたでしょう。

 しかし、僕の場合は海を含めて周辺が少し凍るだけなので大した事無いです!!


 少なくとも、メルヴィーが手を下すよりはマシなハズです!!

 ……まぁ、誤魔化せなかった時はその時。

 取り敢えず、このままだと色々と困りますし、フィナーレと行きましょう。


 パチン。


 指を鳴らした瞬間。

 壮大な氷の彫刻となっていた津波は一瞬で粉々に砕け散り。

 太陽の光を浴びて、とても幻想的なダイヤモンドダストが巻き起こる。


 因みに、指を鳴らした事に意味はありません。

 やった方が何かカッコイイ! それだけです。


「おぉ、さすがお嬢やるな!」


「素晴らしい光景ですね」


 リュグズールとアヴァリスの言葉に、思わずニヤケ顔になってしまいそうです。

 でも、褒められると嬉しいのだから仕方ありませんね。


「な、何と精密な魔法なのでしょうかっ!?」


「我々は今、奇跡を目の当たりにしているのね!!」


 メルヴィーとオルグイユが更にエキサイトしてますけど……

 2人が正常に戻るまで放っておくとしましょう。

 触らぬ神に祟りなしです。


「さてと、コレールは上手くやってくれているでしょうか?」


 まぁ、心配は無いでしょう。

 何せコレールですし。

 補佐としてノアとシアにも手伝ってもらっていますからね。


「あら?

 そう言えばコレール殿とノアちゃん、シアちゃんの姿が見えませんね?」


「ん?

 言われてみれば確かに何処にもいねぇな」


 ニヤリと微笑みを浮かべるアヴァリスとリュグズール。

 まさに今気づいた、とばかりにそう言ってこっちを見て来ます。


 とは言え、この2人がコレール達が居なくなっている事に気づいて無いハズがありません!


「べ、別に僕は2人を信頼してない訳じゃないですよ!

 ただ、今回は海竜が相手ですし。

 上位存在の龍であるコレールが適任だと思っただけで……」


 美女2人に、ちょっぴり黒い笑顔で詰め寄られる、中々の迫力。

 言い訳じみてしまったのも仕方無い事でしょう。


「ふふふ、冗談ですよルーミエルお嬢様」


「悪かったな」


 2人の謎の圧力に思わず俯いてしまった僕の頭をそう言って優しく撫でてくれました。


「本当に、怒っていませんか?」


「ええ、少しも怒ってなんていませんよ」


 恐る恐る顔を上げると、アヴァリスが再び僕を抱き上げて抱きしめてくれました。


「こうしてると、今のがお嬢の仕業とはとても思えないな。

 年相応の子供にしか見えねぇぞ」


 むぅ、失礼ですね。

 僕の一体どこが子供だと言うのでしょうか?


「そ、それでお嬢は、コレール達に何を任せたんだ?」


 僕がアヴァリスに抱っこされながら、リュグズールの事をジト目で睨む。

 強引に話題を変えてきましたね。

 ですが、そんな事では僕は誤魔化されません!!


「ふふふ、ルーミエルお嬢様。

 私もルーミエルお嬢様がどの様なご指示をお出しなられたのか気になります。

 お教えいただけないでしょうか?」


「んー、アヴァリスがそう言うなら仕方ありませんね」


「地味に傷つくんだけど……」


 リュグズールが苦笑いで何やら言ってるけど気にしません。

 断じて僕は子供では無いのですから!!


「コホン、ではご説明しましょう。

 コレールに出した指示ですが、それは簡単です。

 僕が隙を作るので、その間に海竜を帰ってもらうように説得すると言うものです」


 そう!

 僕が津波を凍らせ。

 更にはダイヤモンドダストを巻き起こしたのには、ちゃんとした理由があったのです!!


 あそこまで大規模な津波が来るとは思っていませんでしたが。

 確実にフェーニル王国王都が壊滅するだろう脅威。

 それが突然凍りつけば、まず人の目はそこに釘付けになるハズです。


 そして、そダイヤモンドダストと言うエフェクトに加えて、少し前に公開されていま話題沸騰中の勇者。

 民衆の興味は一点に集中してくれると言う訳です!!


「そして、海竜がいなくなっている事に野次馬の人たちが気付くと……」


 僕が2人にそう言ったまさにその時、僕達の背後でどよめきが広がりました。




「おい!

 竜が、竜がいなくなってるぞ!!」


「あのコートの紋章、まさか……」


「俺さっき、あの方々が勇者だって言ってるのを聞いたぞ!!」


「私も聞きました!」




「ほら、始まりましたよ」


 そして巻き起こる勇者様コール。

 その声につられて唖然としていた勇者くん達も無事現実に戻ってきたようです。


「ここまで人々が熱狂していれば、仮に彼らが自分達じゃ無いと否定しても謙遜だと受け取られるだけですし。

 見ている限り彼らの性格上、否定することはないでしょう。

 何やら目立ちたがりの様ですしね」


 一度浸透した熱はそうそう冷めない。

 国の危機に颯爽と現れた勇者様。

 人々の興味を引くには十分です、すぐに人々は海竜の事なんて忘れてしまうでしょう。


 まぁ尤も、流石に国の上層部はそうはいかないでしょうが。

 そこは海をも凍り付かせた勇者様がいるのです。

 海竜程度なら大した脅威とは捉えないハズです。


「ここまで来れば、あとは勇者くん達が全て引き受けてくれると言う訳です!」


 全ては僕の策略通り、手の平の上だったのです!!

 感服したように僕を見つめる2人を前に、思わず笑みを浮かべてしまいました。

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