第67話 お手本を見せてあげるとしましょう!!

「確かに何となく見た事があるような気がしますね」


「何だお嬢、覚えてねぇのか?」


 記憶を探っていると、突然リュグズールに背後から抱き上げられてしまいました。


「危ねぇからな、お嬢はオレが抱っこしてやる」


 これは思わぬ伏兵です。

 視線で牽制し合っていた、オルグイユ、アヴァリス、メルヴィーの3人が驚愕に目を見開く。


 この状況では流石に呑気に遊んでいる訳にはいきません。

 見た目幼女な僕が1人でいれば、それだけで目立つでしょうし。

 リュグズール、グッジョブです!


「薄っすらとは覚えていますけど……彼らと過ごした時間よりも皆んなと居る時間の方が遥かに長いですし。

 皆んなと居た方が楽しいから、彼らの事ってあんまり覚えていないんです」


 何と言っても僕は不登校だったのだ。

 彼らと一緒にいた時間と言っても修学旅行で召喚されるまでの数時間程度ですし。


 それに、追放されてからのインパクトが強すぎ!

 些細な事なんて一々、覚えたいられません。


「お嬢様、ここは私が」


 リュグズール・ショックから立ち直ったメルヴィーが名乗りを上げる。


「う〜ん、おそらくあの子は僕達の気配につられて様子を見に来ただけです。

 それなのに突然攻撃された被害者です、あの子を殺してしまうのは可哀想です」


「な、何と寛大でお優しいのでしょうか!!」


 大変ご満悦な様子なメルヴィーには申し訳ありませんが。

 本音を言えば、観念事項もあります。


 もしメルヴィーがあの海竜を仕留めようとすると……

 モーセの海割りの如く、海が2つに裂けるなんて言う超常現象がおきかねません……


 華奢な手足に誰もが振り向くような美貌を持っていようとも、メルヴィーは一国をも容易く堕とす原種吸血鬼なのですから。


「ここは一先ず、あの勇者くん達に頑張ってもらうとしましょう。

 それと無いと思いますが、もしあの海竜が負けそうになったら……コレールお願いしますね」


「かしこまりました」


 さてと、では見学に戻るとしましょうか。

 あの勇者くん達も深淵の試練を半分以下とは言え攻略した実力者ですし。

 これは見応えのある戦いが観れるかもしれません!!


 暫くして、海竜の咆哮の衝撃から回復したらくし、何やら喚き散らしながら魔法を放ち始めた……のですが。


「うーん、ハッキリ言って期待はずれですね」


「あぁ!? ルーミエルお嬢様の辛辣なお言葉!!

 メルヴィー、私はもうダメかもしれないわ」


「私もですオルグイユ様。

 お優しいお嬢様もこの上なく尊いですが、辛辣なお嬢様もまた尊いっ!!」


 キャーとライブに来たファンの様に抱き合うオルグイユとメルヴィー。

 側から見ていれば非常に絵になるし、男性にとっては眼福以外の何物でもないけど……


「……流石にちょっと怖いですね」


「アヴァリスもそう思いますか?

 僕もちょっと2人が心配になってきました」


「いやお嬢、アレは心配なんてする必要はねぇと思うぜ。

 まぁ確かにちょっと怖いけどな」


「そうなんですか?

 じゃあ、あの2人は取り敢えず置いておくとして。

 勇者くん達はちょっと、と言うかかなり残念な感じですね」


「お嬢の気持ちも分かるけどよ、あれでも人間で言えば強い方なんじゃねぇか?」


「そうですね。

 リュグズールの言う通り、あの規模の魔法を何発も放てるのであれば相応の実力者かと。

 尤も、所詮は人間で言えばの話ですけど」


 確かに、さっきから放っている火球のサイズは5メートル程もあって大きいのですが。

 残念な事に見掛け倒しなんですよね、アレ。


 言うなれば、ケーキのスポンジみたいにスカスカと言いましょうか。

 取り敢えず、魔力密度が薄いんですよね。


「そうなんですか?

 僕なら、あのサイズの火球だったら10倍以上の魔力を圧縮して込めますし。

 あれだったら帝国にいたお爺ちゃんの方が強いくらいですよ?」


「お嬢、それを人間に求めるのは酷だと思うぜ……」


 リュグズールに呆れたように言われてしまいました……解せません。


「まぁまぁ、そう悲しそうなお顔をしないで下さいな。

 私が抱っこして差し上げますから」


 むぅ、僕は今そんな顔をしていたのですか?

 これでもポーカーフェイスは上手い方だと思っていたのですが。


 けどまぁ、モフモフな尻尾を見せつけられながら、そんな事を言われれば抗えるはずもありません!!


 ふらふらとアヴァリスの尻尾、もとい腕に収まった瞬間。

 何やら凄まじい轟音が鳴り響きました。

 この地鳴りのような轟音……僕の予測が正しければこれは……


「な、何だあれはっ!?」


 予想を裏付ける光景を前に、1人の勇者くんが取り乱した様に声を荒げました。

 まぁそれも仕方無いでしょうね。

 何せ、今僕たちの視界には一面の海水の壁が聳え立っている訳ですし。


 高さ数十メートル、幅は視界いっぱいと言うありえない規模の海水の壁。

 超巨大な津波。


 流石は海竜、やりますね!

 さてさて、この異常事態に対して勇者くん達がどの様な対処法を見せてくれるのか……非に楽しみですね!!


「こんなの聞いてねぇよっ!?」


「おい! どうすんだよこれぇ!!」


「どうするって、こんなの逃げるしかねぇだろうが!!」


 ……本当に残念ですねぇ。

 もうちょっと頑張ってくれても良かったと思うのですが。


「はぁ、仕方ありませんね」


 今であれば僕が魔法を使っても、勇者くん達がやった事になってくれるでしょうし。

 僕がお手本を見せてあげるとしましょう!!


 アヴァリスに抱っこされながら、荒れ狂う程の魔力を練り上げて……


「凍てつけ!!」


 一瞬にして広がる銀世界。

 解き放たれた氷結魔法の魔力が、迫り来る津波をその猛威の中に封じ込めました。

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