第61話 僕が……景品です!!
僕達の商会は〝等価交換〟を用いて異世界。
つまり地球の品々を売っている事が大きな特徴です。
勿論、迷宮を用いて現地栽培や養殖、酪農、なども行っているし。
地球のモノを分解解析し、この世界での再現なども行っています。
とまぁ、そんな訳で僕の商会で売られているモノはその殆どが地球産。
もしくは地球の商品を模したモノになっているのです。
そんな商会は、画期的なアイデアの商品を売っている。
今までにないモノが売られている。
などと言った風に、瞬く間に評判が広がり大成功を収めている訳ですが……
それは裏を返せば、商会の上層部が地球の事を知っていると宣言している事に他なりません。
幸いな事にこの世界で地球の文明を知っている人は殆ど存在しません。
知っていても召喚された人の話を聞いた程度なので、僕達に対して疑問を持つ人は今のところはいないと見て良いでしょう。
しかし、もしここに勇者が。
僕と共にこの世界に召喚された地球出身の人がいればどうなるでしょうか?
すぐに、この商会の裏に地球の知識を持つ存在がいると察する事は明白。
それでどうなるかは、まぁ時と場合次第でしょうが。
面倒な事になる事はまず間違いありませんし、アレサレム王国は必ず介入して来る事でしょう。
だからこそ、勇者達が訓練及びレベリングの為にアレサレム王国王都に存在する迷宮。
八大迷宮とされる深淵の試練に潜った事を確認した後に、商会を立ち上げたのです。
まぁ尤も、勇者達やアレサレム王国が介入して来たとしても、言いなりになるつもりはありませんが。
とまぁ、そんな訳で順調に勢力を広げ。
既にネルウァクス帝都内のシェアは8割を超えており、帝国全体での支持率も圧倒的。
噂を聞きつけた他国の貴族達から是非とも我が領に、とのお誘いも毎日の様に届いています。
こんな時に勇者達が迷宮から帰還すれば……まず間違い無く、アレサレム王国上層部に目をつけられる。
そんな訳で、こうして緊急会議を開いているのですが……
「では、勇者及びアレサレム王国に対しては監視を続行。
何らかのアクションを取ってくれば、臨機応変に対応すると言う事で各々宜しいですね?」
まぁ、コレールの言う通りこんな対策と言える対策も打つ事はできません。
まぁ尤も、そんな事は最初から分かりきっていた事です。
では何故、こうして集まったのかと言うと……
「でだ、結局アイツらどこまで行ったんだ?」
そう、本題はこれなのです。
リュグズールが楽しそうな面持ちでそう言った瞬間。
特別会議室内の雰囲気が一変する。
「そう、慌てないで下さい」
リュグズールの言葉を得て一気に真剣な面持ちになった各々を前に、コレールは冷静に言い放ちました。
常人であれば卒倒してもおかしくない……と言うか、まずそうなるだだろう重圧の中、全く気負わ無いとは。
やはり出来る執事は凄いという事でしょう。
「フェルが74。
オルグイユが60。
リュグズールが66。
そしてアヴァリスが80で宜しかったでしょうか?」
確認するコレールの言葉に各々が静かに頷き、固唾を呑む音が鳴り響く。
言うまでもないでしょうが。
この数字は、この約3ヶ月の間に勇者達が到達する事が出来た最下層階の予想です。
何と、いつの間にか皆んなの間で、勇者達が何階層まで達するか予想する賭け事が行われていたのです。
因みに僕がこの事を知ったのは賭けが始まってから1ヶ月後の事でした。
メルヴィーが知らせてくれなかったら、未だに僕はこの事を知らなかった事でしょう。
「では、発表させて頂きます。
勇者一行が到達した最下層階は……」
ここまで真剣に固唾を飲んでいる皆んなを見たのは初めてです。
何故あんな景品の為にここまで真剣になれるのか?
僕には少し理解しかねますが……
「第77階層になります。
よって勝者はフェル殿ならびにアヴァリス殿になります」
コレールの宣言と共に一瞬訪れる静寂、そして……
「くっそぉぉっつ!!」
「お、お終いです……」
全力で悔しがるリュグズールに、この世の終わり言った感じで崩れ落ちるオルグイユ。
「ふふふ、公平なジャッジ、ありがとうございました」
「ん、勝った」
その2人とは対照的に余裕の笑みを浮かべるアヴァリス。
フェルは満足そうな顔で負けた2人に向けてピースをしています。
そんなフェルに2人は完膚なきまでに叩きのめされました。
……子供の無邪気って恐ろしい。
「では、見事勝利を収めたお二人には、お嬢様と1週間添い寝をする権利を贈呈致します」
そんな軽くカオスとも言える現場。
淡々と仕事をこなすコレールは、これまた淡々と今回の景品を言い放ちました。
そう、景品は何と!
僕と添い寝をする権利だったのですっ!!
……ふむ、やはり僕には理解出来そうにありませんね。
添い寝するくらいなら美味しい食べ物でも食べる権利の方が僕的には嬉しいですけどねぇ。
それに、一緒に寝るくらい言ってくれればいつでも一緒に寝るのですけど。
と言うか、そもそも眷属の女性陣は毎晩、護衛とか称して僕と一緒に寝ているはずなのですが……
う〜ん、わかりません。
けどまぁ、本人達が喜んでいるので良しとしましょう。
始祖の吸血鬼は酔っ払ったOLの様に泣き崩れ、神をも殺す毒を持つ蠍の神獣は叫びながら頭を抱える。
その様を見るて、勝ち誇った様に頷く幼女の姿をした不死鳥に、余裕の妖艶な笑みを浮かべる九尾狐。
そんな面々を全くもって完璧にスルーしつつ会議を進める伝説の黒龍。
専属メイドの持ってきたお菓子に夢中になっている幼女。
側から見ればただのカオスと化した緊急会議はこうして更けて行くのだった。
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