第二話

 ベランダに並べられていた食事は国籍も何もかもがバラバラのものだった。でも、それがわたしたちらしくて何か、おかしかった。

 まず、ハルが持ってきたという、紅茶。何か、すごくいいものらしい。

 次に、ナツが用意をしていた、シュラスコ。バーベキューと何が違うのかはよく分からないけれど、ブラジルの方の料理らしい。

 そして、アキ、つまりわたしが持ってきたおばあちゃんの手作りのおはぎ。

 最後に、フユが持ってきたフカヒレのスープ。……ってフカヒレ!?そんなのを持ってくるって、相変わらず読めない……。

 あれ?もしかして、わたしが一番ショボくない?大丈夫、かな?でも、ま、このメンバーなら気にしなくても問題ないよね。と思っていたら、やっぱり、誰も気にしていなかった。

 ただ、予想外だったのはフユがおはぎを気に入ってしまい、一人で半分以上も食べてしまったことだった。


「……頭脳労働には糖分は必須」


 だなんて言っていたけれど、おはぎを食べたとき、幸せそうな表情をしてたの、見てたからね?

 そして、食事が終わる頃、ナツが珍しく神妙な顔で話し始めた。


「あの、シキ、って覚えてるよね?」


 その言葉にその場の皆から笑顔が消えた。わたしたちにとっては忘れたくても忘れられない存在。だから、誰もがその言葉にシキのことを思い出し、何も言えなくなってしまった。


「その反応、皆覚えてる、ってことでいいよね?」


「……当たり前だ。あいつのことを忘れることなんてここにいる誰も、できるはずもない」


「はぁ、よかったぁ……。でも、そうだよね。だから、さ、あたしとハルで頑張ったんだ。ブイ」


「そ。だから、今日集まってもらった本当の目的はこれ、なんだよな」


 急に明るくなったナツと苦笑しながらそれに答えるハル。フユは、いつの間にか本を閉じ、真剣に話を聞いている。


「ということで!今から、なんと!シキをここに呼びます!」


「え?嘘!?だって、シキって、悪いウィルスに感染して、それで、その……」


 それ以上、わたしは何も言えなくなってしまった。

 今でも鮮明に覚えている。シキが急に暴れだしてしまったあの日のことを。その日も今日みたいに食事会を開いて、それで、その終わりに近づいたとき、それまで普通だったシキが暴れて台無しにしちゃったんだよ。


「だから、頑張った、ってナツが言ったろ?」


「じゃぁ、二人が?」


「正解!アキが一番、落ち込んでたからね。だから、何とかしようって、頑張ったんだから!」


「……二人でこそこそやっていたのはそれか。俺がいればもっと早く終わったのを」


「ブー!フユはダメー!だって、クールぶってるけど、すぐ顔に出るし、アキに会った瞬間、バレちゃうじゃん!」


 その言葉にフユは顔を真っ赤にして視線を反らしてしまった。ま、そうだよね。フユって態度は本当、クールなのに、表情だけはころころ変わるんだよね。


「と、いうことで!シキー!出ておいで!」


 ナツが呼ぶと、奥から寸胴の胴体の昔のままのシキが出てきた。その胸にはわたしたちを表す四つの景色が小さなタイルでモザイクアートとして取り付けられていた。つまり、


 春樹。ハルの桜。

 夏海。ナツの海。

 秋月。アキの月。

 冬雪ふゆき。フユの雪。


 懐かしさでわたしは思わず、涙が溢れ出てきてしまった。

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