第85話:お互いに求め合う (上)

(こういう怒ってるのかどうか分からない時に普通にされるのが一番困るんですけど‼)


とかなんとか思っていると彩乃はIHコンロの前で菜箸を持ったまま左手でこっちこっちをしてきたため俺は若干怯えながら近寄ると


「ちょっとお弁当のおかずを何個か味見をしてほしいから口開けて」


(パッと見は普通の卵焼きだなんだけど……なんで俺が味見? やっぱり昨日のことを根に持っていて何か仕返しを……。いや、でもこれを食って何もなければ彩乃が怒ってないことの証明にならないか?)


(これでもし彼女が怒っていたとしても一つ墓穴を掘らずに済むとか天才かよ!)


なんて自画自賛しながら『あーん』と口を開けると何故か彩乃は菜箸で掴んでいた卵焼きを自分の口に入れ


(………なんでこの子は人に口を開けさせたままの状態で卵焼きを食ってんの? えっ、やっぱ怒って―――)


『る感じ?』と心の中で言おうとした瞬間彩乃は背伸びをし、俺の後頭部に両手を回して少し強引に自分側に引き寄せた後


「んむっ⁉」


(ちょっ、舌入ってきてる!)


「ちゅっ、ちゅ……んむ、ちゅ、ぢゅっ……んふっ」


「んっ、ぅんん……んふっ、ぢゅっ、ちゅ……」


(これ以上はマジでヤバ……い)


「すーう、んふっ……んじゅる、じゅるる、じゅちゅ」


「ぷはっ! んむ⁉ じゅる、じゅるる……んちゅく」


彩乃が息切れして離れた時が最初で最後の踏み止まるチャンスだったというのに、こっちの気持ちも知らずに彼女は息継ぎをしながら、しかも最初の頃より更に激しいディープキスをし始めたことにより完全にたかが外れた俺は


(………もう知らね)

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