第41話:1月のある日

ウチの学校は自称教育のICT化に続き大学を意識した授業カリキュラムを、という意識高い系を売りにしているためテスト期間も大学に合わせて一月下旬に行われることになっているのだが、そんなありがた迷惑な仕組みのおかげで去年同様テスト期間と仕事の締め切りが丸かぶりしている私一之瀬陽太兼ITIRiNは勉強時間を確保するためにここ数日死ぬ気でそれを進めていたのだが


(頭痛い。マジ授業中じゃなきゃ速攻であそこに行くんだけど、あと何分残ってる?)


割と本気で限界が近い俺はうつ伏せで寝ている状態のまま自分の左腕についている腕時計を確認したものの、まだ40分以上も残っているという現実を見せつけられたせいで一人絶望していると


(誰だよ授業中にこっそり後ろのドアから抜け出そうとしてる奴は。寒いからさっさと閉めろよ馬鹿)


「(ひーくん、ひーくん)」


(あ? 誰だ人の肩を叩きながら名前を呼んでる奴は)


体調が悪いこともあり若干イラッとしながら顔を右横に向けると


「(ひーくん立てる?)」


「(うん)」


「(じゃあ先生が黒板を書いてるうちに早くこっちにきて)」


(もうなんでもいいや)


そう思った俺はノートPCとiP○dが入っているケースに財布とスマホ突っ込み、それを持った状態で教室から抜け出すと彩乃は音を立てないようゆっくりとドアを閉めたのち、手を握ってきたかと思えばそのままどこかへ向かって歩き出したので


「はぁ、はぁ……。おい、一体どこに連れて行くつもりだ?」


「どこって保健室に決まってるでしょうが、まったく」


「保健室やだ。校長室がいい」


「………………」


「校長室がいい」


「………………」






結果。


「失礼します。ひーくんが言うことを聞かないので仕方なく校長室に来ました」


「二人ともまだ授業中のはずじゃ……あー、なるほどそういうことか。すぐに準備するから君達は先に座っていなさい」


そんな校長の言葉が聞こえてきた時には既にソファーに座っていた俺はそのまま頭を後ろに倒し、目を瞑った状態でグダーとしていると


「イチ、いつもの二つはこのテーブルに置いておくから毛布はもうちょっと待っていてくれ」


「うーん」


(目を瞑ってるせいで見えないけど何時ものってことは俺が勝手にこの部屋に置いてるノンカフェインの栄養ドリンクと蒸気○ホットアイマスクだろ、多分)


「ひーくん飲まないの?」


「うーん」


(頭痛が悪化してきたせいか頭が上手く働いていないけど、このままがいいことだけは何となく分かる)


「校長が戻ってくる前に飲んじゃおう?」


「ううん」


「別に手を放しても私はどこにも行かないし、ひーくんが寝てもずっと一緒にいてあげるから。ねっ?」


(なんか今の言葉で俺の中にある不安が少し楽になった気がする。相変わらずよくは分からないけど)


そう思った俺は手渡された栄養ドリンクを飲んだ後、これまた手渡されたアイマスクをつけたと同時にそこで限界がきてしまいそのままゆっくりと横に倒れた。


(んー、頭の下が柔らか温かくて気持ちいい。あといい匂いが………」

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