健気

新井住田

健気

 今日、懐かしい友人が家にやってきた。

 その友人とは小学三年生の頃、些細な喧嘩をしてすぐ転校してしまったので、実に十五年ぶりの再会だった。そのため、最初に彼女が家に訪ねて来たときは、正直、誰が来たのか全くわからなかった。

 久しぶりの再会に私が喜んでいると、彼女はいきなり私に向かって頭を下げた。訳が分からず、私はその場で固まってしまった。聞くと、彼女は喧嘩のことを謝りに来たらしい。

 そんな、今さら謝られても仕方ないと言ったのだが、彼女は頑なに頭を上げようとしない。全部私が悪いんです、だからどうしても許して欲しいと、私に言った。

 いつまでもこの状態でいられても困ると思った私は、彼女を許すことにした。すると彼女は途端に笑顔になり、ありがとうと言った。

 私は彼女と話がしたくて部屋に招こうとしたが、彼女はこのあと用事があるらしく、すぐに別れた。

 おそらく彼女は何かの用事ついでに謝りに来ただけなのだろうと思い、部屋に入り、私は自分の生活に戻った。

 それから一週間が経ち、私はいつものようにぼんやりとテレビを眺めていた。

 ニュースは最近起きた、保険金殺人について報道していた。

 すると、事件の被害者として、あの友人の写真が映し出された。私は驚き、ニュースを食い入るように見つめた。

 事件の詳細は、友人の夫が、彼女に多額の保険金を賭けて殺害したという。彼女は事件前から夫に、酷い暴力を振るわれていたらしい。夫は、自分の言うことを聞かなかったから殺した、と話しているという。

 そのニュースを見て、私ははっとした。

 彼女はあの日、今までの人生を清算するために各家を回っていたのではないだろうか。そして、私の家はそのうちの一つだったのではないだろうか。

 そうすると、彼女は自分が殺されることに気付いてたことになる。それなのに何故、彼女はそれを受け入れたのか。

 考えているうちに、私はあの日の彼女の言葉を思い出した。

 全部私が悪いんです。

 

~END~

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健気 新井住田 @araisumita

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