第13話 いよいよ星夜祭の始まり
今日はいよいよ星夜祭の日だ。
ルクレツィアは平民の格好をしてカツラを被り、朝から孤児院でバザーの準備をしていた。
今日は王都中がお祭り一色に染まっていて、とても賑やかだ。
人々はどこか浮き足立っており、街は活気に溢れていた。
星夜祭は聖女を祝うお祭りだ。
昼は街中で劇などの催しが行われ、夜は聖なる乙女に選ばれた女性が聖女の変わりに街中を回ってパレードが行われる。
そんな中、孤児院ではバザーを行い、大聖堂で合唱を披露するという催しをする予定で、ルクレツィアは当日まで孤児院に足繁く通い準備に追われる日々だった。
そして先生や子供達と何とか準備を完了させバザーが開催されると、孤児院はあっという間にたくさんの人々で賑わっていった。
ルクレツィアは時間の経つのも忘れて手伝いを続けていると、一息つく頃には既に日が暮れようとしている時刻となっていた。
バザーは大盛況に終わり、子供達と一緒に楽しくご馳走を食べていると、ルクレツィアは背後から声を掛けられて振り返った。
「イアス様っ」
ルクレツィアが驚きの声を上げた。
「どうされました?」
それに対してイアスは苦笑した。
「そろそろ出ないといけない時間だと思いお迎えに上がったのですが?」
その言葉にルクレツィアはハッとすると、時計を見遣った。
「もうこんな時間!ごめんなさい!私はもう行かなくてはっ」
その言葉に子供達は一斉にがっかりした声を出した。
ルクレツィアは後ろ髪を引かれつつもみんなと別れの挨拶をすると、イアスと共に孤児院を後にした。
そしてルクレツィアは変装を取り、2人は王城へと急いで向かった。
王城では王の間にて王族と限られた者のみで行われる式典がある。
本日行われる聖なる乙女のパレードの終点は王城で、王の間で聖なる乙女の任命式が行われるのだ。
その乙女は1年間、聖女の変わりに国の繁栄の象徴となり、国が行う祭典などに出席する事になる。
そうして人々は聖女のいない間も聖なる乙女が安寧を与えてくれていると信じていた。
ルクレツィアはその任命式に王弟でもある父親と一緒に参列する予定だった。
任命式は大分先の時間だが、何しろご令嬢の準備はとにかく時間が掛かる。
小走りに向かいながら、ルクレツィアは間に合うのか不安になっていた。
しばらくしてイアスが口を開いた。
「……いよいよですね。」
その言葉を聞き、ルクレツィアはイアスを見上げた。
イアスもルクレツィアを見下ろすと、その表情はどこか曇っている様に思える。
ルクレツィアは前に向き直ると頷いた。
「そうですね……」
「外れた方がいいのでしょうか……」
イアスは呟く様に言った。
ルクレツィアはその問いにしばらく考えていたが、やがて首を横に振って答えた。
「分かりません……。この国のためなら聖女が覚醒するべきだし。でも覚醒しなければ私は生き続けられる可能性は高くなる……」
そしてまたしばらく沈黙が落ちた。
そのまま黙って進み続けて、ようやく遠くに城門が見えて来た。
ルクレツィアの顔に安堵の色が浮かぶ。
「イアス様。わざわざお忙しい中送ってくださり有難うございました。私のわがままのために協力していただて、本当にごめんなさい。っじゃなくて、助かりました!」
イアスはその言葉に笑って言った。
「謝罪より感謝がいいと言った言葉を覚えていてくれましたか。力になれて嬉しいですよ。これでお父上には叱られないで済みそうですね?」
「はい。お陰様で!今度お礼をさせてくださいね。」
ルクレツィアが笑顔で言った。
実はバザーに参加する条件としてイアスに送って貰うという条件を出されていた。
本当は護衛を付けさせると言われたが、うちの護衛は威圧感が半端ない。
孤児院に迷惑が掛かるし、子供達には自分が令嬢だと伏せていたので私が断固として断った。
そのため、男の友人に送って貰うという条件に変更して貰い、何とか今日のバザーに参加する事が出来た。
どうやらアルシウスや侍女などを通じて私の学園生活は筒抜けならしいので、その友人は神官だと伝えるだけで父親はすぐ理解した。
そうしてようやく門に到着すると、ルクレツィアはすぐに入城を許された。
ルクレツィアは後ろを振り返り再びイアスにお礼を述べると、門をくぐろうと歩き出す。
だが、イアスがルクレツィアを呼び止めた。
「ルクレツィア様。」
呼ばれて、ルクレツィアは歩みを止め振り返る。
イアスはルクレツィアを真っ直ぐに見据えて言った。
「私は信じます。ルクレツィア様が話してくれた事。たとえ今日、何も起きなかったとしても……」
その言葉にルクレツィアは目を見開いた。
そしてイアスは目を細めて言った。
「あなたに神のご加護があらん事を……」
その言葉にルクレツィアは心が温まるのを感じた。
ルクレツィアはイアスに満面の笑みを返すと、手を振った。
イアスも手を上げて応えた。
それを見届けるとルクレツィアは再び前に向き直り、城の中へと足を踏み入れたのだった。
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