第Ⅰ章
第1話 なんで今、前世を思い出したかな?!
ルクレツィアは顔を真っ青に染めた。
硬い扇子を片手に叩こうとしたその手は目の前にいる超絶イケメンにより掴まれて阻まれていた。
赤いルビーの様な美しい瞳に憎悪の感情を浮かべて鋭く刺す様にルクレツィアを睨んでいる。
ルクレツィアは狼狽えて手を振り解くと扇子から手を離し、数歩後退った。
すると目の前の超絶イケメンが吐き捨てる様に言った。
「今までお前の事は相手にしていなかったが……これからは違う。」
彼はゆっくりと近づいてきた。
「俺は男でお前は女だ。力の差は歴然だろ?家のために今まで反抗しなかったが……、これからは容赦しないっ」
彼は怒りを吐き出す様に言い放った。
「ク、クレイ……」
ルクレツィアは真っ青な顔で、思わず彼の名を呟く。
なんで今なの?!
わ、私……たった今前世を思い出した!
ここはゲームの世界だわっ。
目の前にいるのは攻略対象者の1人、クレイだ。
クレイは更に口を開いた。
「もしまた俺に何かしてみろっ。その時は……」
だが急に話の途中で言葉を切ると、驚いた顔を見せた。
あ、や、ヤバい……。
気が、と、おく……なっ……。
そこでルクレツィアの視界が暗闇へと閉ざされた。
◈·・·・·・·◈·・·・·・·◈
前世で流行っていたゲームの世界。
それが今、ルクレツィアのいる世界だ。
ゲームでは聖女と呼ばれる事になるヒロインが試練と恋に奮闘しながら、最後は立派な聖女となり、一人の男性と結ばれるという一般的なストーリーで、ルクレツィアはそのどのルートにも出てくる悪役令嬢だ。
そして悪役令嬢は最後には不幸な死に方をする。
襲ってきたドラゴンに殺されたり、盗賊団に襲われたり、病気になって苦しみながら死んでいったり……。
やだ……完全に詰んでる。
ヒロイン虐めてもいなくても関係ない死に方ばかりだ。
ど、どうしよう……。
どうすれば死なないで済むんだろう。
なんで今頃思い出しちゃうかな?!
もっと早くに思い出していればっ。
既に学園生活は始まっていた。
しかも思い出した時は、ちょうどクレイを虐めていた時だ。
クレイを幼い頃からずっと虐めていた。
まず、黒髪に赤い目の容姿を蔑み、魔族の子だと罵り、その他嫌がらせの数は数え切れない。
しかも大した抵抗もクレイがしなかったため、ルクレツィアはとても酷い事ばかりしてきた。
だが、実はルクレツィアはクレイの事が大好きだった。
好きな子ほど虐めたくなるタイプで、しかも王族の血があるというプライドが更に傲慢にさせており、引くに引けなくなった残念令嬢だった。
彼の瞳に映りたいが為に虐める。こっちを向いて欲しいが為に虐める。
……嫌われて当然だわ。
ルクレツィアは涙を流した。
今までの事を思い出し、悔しくて自分に腹立たしくて涙が止まらない。
クレイ……ごめんなさい。
今まで酷いことばかりして、本当にごめんなさい。
今までの私は最低最悪の高飛車女。
優しいあなたをあんな憎悪で怖い顔にさせてしまった。
本当に悔やんでも悔やみきれない。
クレイ、本当にごめんなさい。
どうしたらあなたは許してくれるんだろう。
これからはあなたの幸せの為に生きるから。
どうか、許して……。
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