第10話 それって聞いたことあるような

「綺麗ですねこれ。」

「ちなみにそれ「鉄華」で期間限定で出るやつだよ。」

「そうなんですか!?」

「内緒だけどね、ボクのが採用されたんだよ。」

「ふぇ〜。」

「味は保証するよ。食べてみて。」


そう言うとカレンさんは手に取ってタルトを齧った時サクッという音が聞こえた。

卯月と言えば既に食べ終わっていた。


「那月もとうとうパティシエデビュー?」

「まだまだだよ。今回は企画に参加させてもらっただけ。」

「それでも商品化って凄いんじゃない?」

「そうみたいだね、鉄さんも褒めてくれたよ。」


実際作った時はかなり褒められて特別給与も貰ったりしている。ちなみに拓馬もいて拓馬が青ざめた顔でボクが褒められているのを見ていたがこれから扱き使われるからだろう。


「あ、そうそうカレンさん。」

「ふぁい?」


タルトを食べて頬を膨らませているカレンさんはリスみたいで可愛な。


「一応それ喫茶店「まなか」ってところで裏メニューで出すから、鉄華で買えない時はそこに行けばいいよ。このカード見せれば食べれるから。」


カレンさんに店のカードを渡す。本当ならメインに出したいのだが、期間限定で注文が殺到しそうといことからこのカードを提示した人だけに出すことになっていた。ちなみに限定20食だ。


「ありがとうございます。けどなんで喫茶店なんですか?」

「そこボクも働いていてね掛け合って20食だけど出してもらえるようになったんだよね。」


本当はちょうど仕入れにきた勝己さんも立ち会い絶賛して是非にと「まなか」でも出すことになったのだ。


「那月さんって色んな仕事してて大変ですね。」

「本当ならモデル一本にしようとしたんだけど那月が嫌がったからね。」

「そもそもボクは男だって言ってるでしょ。」

「そうですね・・・」


カレンとしてはここまで完璧に家事ができて、見た目も完全に優しい女性に見えれば分からないどころかむしろ自分の女子力・・・と落ち込んでいたりしていた。


「そう言えばカレンってこっちに引っ越すんだよね?」

「そうだよ。」

「え、失礼かもしれないけどカレンさんって歳近いよね?」

「卯月の1つ上ですね。」

「あ、同い年じゃないからそんなでもないのか。」

「そうですね。それに前の学校だと芸能活動が教師からよく思われなかったので・・・」


カレンさんは苦笑いしているがあんまり詮索しない方がいいだろう。


「それよりカレンさんはどこの高校に転校するの?ここら辺に引っ越すってことは近くだよね。」

「確か桜ヶ丘学園という所です、春休みに見に行ったんですがいい所でした。」

「ならボク達と学校で会うかもね。」

「同じ学校だしね。」

「なら一緒に登校しましょう!来週の月曜日からですが。」

「なら明日辺りに幼馴染も呼んでみんなで歓迎会しようか。そうすればみんなで登校できるし卯月も明日は大丈夫?」

「夜なら。カレンも同じはずだよ。」

「なら夜は楽しみにしてて。」


予定があって良かった良かった。そう思っていたらカレンさんから予想外のセリフが聞こえた。


「そういえば桜ヶ丘学園で今話題になっている方がいるみたいなんですよ。」

「卯月かな?」

「いえ、卯月もアイドルなので話題にはなってるのですがなんでも今年の1年に深窓の令嬢と呼ばれる生徒がいるらしいんですよ。」


ん?


「その深窓の令嬢があまりにも綺麗な人らしいので会ってみたいんですよ、那月さん知りません?」


『あぁ、こいつクラスだと深窓の令嬢とか言われて俺以外話しかけないんだよ。』

そういえばそんなことを拓馬が言っていたような。


「それってこの前拓馬が・・・いっ!」

「へぇ!そんな人がいるんだ会ってみたいなぁ。」


卯月が何かを言う前に腹を抓って言葉を遮る。


(何するの那月。深窓の令嬢って那月でしょ?)

(まだ分からないよ。とりあえず黙ってくれたら追加でケーキ作るよ。)

(分かった。)


ケーキで頷く卯月は好きだよ。


「やっぱり那月さんも会ってみたかったりするんですか?」

「ボクも男だからね。そりゃ綺麗な女性やカレンさんのような可愛い女の子なら会ってみたいよ。」

「可愛いなんてそんな・・・」


頬を抑えてくねくねしながら悶えるカレンさんだがこれでこの話題が無くなってくれると嬉しい。

そもそも深窓の令嬢というがボクは男だし何よりそのせいで誰も近寄らなかったりするから知られては困る。


とりあえずカレンさんに知られるとしても遅くなるように幼馴染達には言わないように歓迎会の誘いとともに口止めをしようと思った。

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