【不眠症ローレライ】
眠剤をアルコールで流し込む毎日だった。
何故、眠れないのかと言えば不安感を消せないからだ。いつ仕事を失うかも知れない毎日に怯えている。僕は作家だ。今のところ、専業でやっていけてるが、毎日毎日ネタを考えて
仕事中、僕はいつも、とある配信アプリで弾き語りの配信を垂れ流している。その日もBGMとして聞こうと弾き語りの配信を検索した。深夜だと言うのに多くの配信者が配信をしていた。適当にボタンを押した。
そして僕はローレライに出会った。
そのローレライというハンドルネームの女性配信者は、異様な程低い声で最近流行りのバラードを歌っていた。本家の歌の雰囲気よりも暗く聞こえるアレンジに、僕は一瞬で
気付くと、僕は眠っていた。
それからローレライが配信している日は必ず聞く様になった。ローレライは、あまり雑談はせずに
眠れる様になって作品をスラスラと書ける様になった。嬉しい。生きている実感がした。ローレライは僕を眠りの海に沈めてくれる。感謝から、それ程高額ではないけれど、投げ銭をする様になった。ローレライは僕の投げ銭にいつも感謝の言葉を述べて、何かリクエスト曲とかあれば歌いますよ、と言ってくれた。僕はいつも、彼女の声に合うバラードをリクエストした。
彼女がまたオーディションに落ちた、と言う報告を受けた時、僕はコメントで励ましたけれど、彼女の気分が上がる事はなかった。その日は早々に配信が終わってしまって、僕はどうすればいいのか分からなくなってしまった。
こんなに素敵な歌声なのに。他の人に彼女の声の声の素晴らしさが伝わらない事が、純粋に悔しかった。
ローレライのお陰で筆が乗る毎日。新作の売上は今までで一番良くて、僕は大満足だった。
そんなある日、担当編集から僕の作品がドラマ化されるかも知れない、という知らせが来た。確定ではないので、秘密にしておいてください、確定したら知らせますと言われて、不安と歓喜の感情が混ざる。
その日の夜、ローレライの配信が始まった。僕は彼女に、いつもの様に投げ銭をした。彼女もいつもの様にリクエスト曲はありますか?と聞いてきた。僕はオリジナル曲を聞かせてください、とコメントを打った。
彼女が動揺したのが画面越しに伝わって来た。
「私、作曲の才能がないのかも知れない。オーディション、毎回落ちてるし」
彼女が
「こんな曲……なんだけど」
彼女が歌い始めたのは、重苦しくて胸やけがしそうな程に暗いバラードだった。
「全然、売れそうにないよね。自分でも分かってるんだけど、こんな曲が好きなんだ」
恐らく彼女は泣いている。声が細かく震えていた。
僕は今までで一番高額の投げ銭をした。彼女は驚いて、ありがとう、と
「CD?」
はい
「今時CDなんて売れるのかな」
出来上がったら、少なくとも僕は買います
「でも費用も結構掛かるし」
僕が出します
「……どうしてそこまでしてくれるの?」
ファンなんです
その後、何度か個人的にメッセージを送って
CDが発売されて、僕はそれを聞いて感動で震えた。
ドラマ化が決まった日、担当編集に主題歌はこの曲が良い、と伝えて音源を送る。担当編集は僕の我儘を聞いて、少し戸惑った様だが音源を聞くなり、この曲、先生の本の雰囲気にマッチしますね、と言った。
ローレライにオファーが行って、僕は大満足だった。
僕は身分を明かしていない。だから彼女から来る個人的なメッセージは嬉しかった。ある日、ローレライと僕が打ち合わせで顔を突き合わせることになった。どうしよう。彼女に伝えるべきか。
打ち合わせ当日、彼女の顔を始めて見た時、イメージ通りで思わず笑ってしまった。彼女はそんな僕の様子を見て、むっとした。ああ、すいません、と頭を下げて打ち合わせに入る。机の上に携帯を置いて、僕は彼女の話に耳を傾けた。
担当編集もドラマの脚本家も、彼女の歌が気に入った様だ。彼女は嬉しそうに、何度も頭を下げた。そして携帯で、ちょっと身内に報告させてください、と言って指を動かした。ブブっと僕の携帯が揺れた。そこにはローレライからメッセージが来た通知が出ていた。
「え?」
「あ……」
ローレライは僕の顔をまじまじと見つめて、微笑んで言った。
「今夜も貴方の為に歌いますね」
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