【勇者ギャルとイケメン魔王】
その聖剣を岩から抜いた者は、勇者として魔王を倒す運命を持つと言われていた。
「はい!ここが有名な聖剣の刺さってある岩でーす!挑戦するには20ゴールド。貴重な経験になると思いますよ~!参加希望の方はコチラにお並びくださーい!」
修学旅行先で訪れた村で、ツアーガイドのお姉さんがニコニコとしながら営業トークを始めた。へー、これが有名な聖剣か~、と思いながら、あーしは友人達と列に並ぶ事にした。お姉さんの言う通り、記念になると思ったし、おまけで付いてくる記念メダルも可愛い。旅行先での思い出作りの一環のつもりだった。
「
「うん!」
あーしは長い金髪をクルクルと指で回しながら、友人達に微笑んで言った。
「勇ちゃん、今日もメイクばっちりだね!」
「へへっ!何処に出会いがあるか分からないからね。あーしは油断しないよ~!」
「そういえば勇ちゃんっていつからギャルメイクする様になったの?」
「高校デビューだよ~!入試終わって、そっこーで日サロ行って肌焼いたんだ~!」
友人達と他愛のない会話をしながら、参加料を払って列の最後尾に並んだ。
順番が来てあーしの友人達が聖剣を抜こうと、
「次、勇ちゃんの番だよ~」
「よーし!あーしに任しといて!」
思いっきり力こぶを作って、真面目な顔で言うと、友人達は大笑いしてくれた。良い記念になるなー、と思って柄に手をやって軽く引いてみた。
剣が抜けた。
「は?」
あーしは驚いて口を大きく開けたまま、振り返った。友人達は
「え!?ええええええ!!!???」
あーしが叫ぶと、周りの人達があーしに注目した。あーしは聖剣を握りしめながら、その場に立ち尽くした。
「お、おい、あの子、聖剣を抜いたぞ……」
「ほ、本当だ!聖剣が抜けた……だと……」
「
「
ざわざわと周りが騒ぎ始めた。あーしは怖くなって聖剣を地面に突き刺して、その場を去ろうとした。
「勇者様だ!この方が世界を救ってくださるぞ!」
うおおおおおおお!という怒号と共に、あーしの元に何人もの男達がワラワラと集まってきた。もう逃げられない。あーしは覚悟を決めて、聖剣を手に取って、はあ……と
その後、担任の教師と共に村の代表者……村長に会いに行く事になった。
「貴方が勇者様ですか……」
村で一番大きな建物の中で待っていると、頭の禿げあがった初老の男性が部屋に入ってくるなり、暗いトーンで言った。明らかに残念そうだ。まあ、仕方ないよね……あーしみたいなギャルが勇者だなんて。
「何かの間違いだと思います。
担任の教師があーしを
「聖剣が応えたのです。その子は間違いなく魔王を倒す運命を背負っている」
「ですが……」
「王様から直ぐに城へ来るようにとの連絡が来ております」
「そんな……」
担任の教師は目を伏せて言葉を失くした。
「先生、あーしは平気!とりま、王様に会って来るわ。何かの間違いだと思うし」
「そうは言ってもですね、私は貴方を親御さんから預かる身として……」
「大丈夫大丈夫!直ぐに開放されるって!だって、あーしだよ?万年赤点で魔法も剣術の授業もサボってるあーしが、勇者だなんてありえないじゃん」
「……分かりました。気をつけて行くのですよ。何かあったら先生に連絡しなさい」
「はーい!」
明るく応えたけれど、内心は不安でいっぱいだった。王様の居る城まで、村の男達が護衛してくれる事になった。馬車で8時間の長旅だ。あーしは宿舎から荷物を運んで、馬車に乗せた。
「では、勇者様。城まで
屈強な男が数名、馬車の周りを囲んだ。ここから八時間。城に着くのは真夜中過ぎか。
「お疲れでしょうから、眠っていてください。城に着く前に起こしますので」
「ん-、大丈夫!あーし、夜型人間だから!」
「そうですか」
馬に乗っている男が優しく声を掛けてくれたが、緊張で眠れそうにないので、断った。聖剣を抱きかかえて、外の景色を、ぼーっと眺める。抜き身だと危ないと言う事で、
段々と日が沈んで、夜の気配がしてきた。馬車の中から外を眺めていたあーしは、遠くに光る何かを見つけて、男に尋ねた。
「ねえ、あれ、なに?」
あーしが指さした方向を見て、男が大声を上げた。
「モンスターの群れです!光っているのは眼です!お前ら!勇者様を守るぞ!」
おー!と言う声と共に、男達が歩を止めて武器を握った。
数分もしないうちに目を真っ赤に染めたモンスターの群れがあーし達を囲んだ。男達が臨戦態勢を取って、迎え撃とうとした時、あーしの手の中にあった聖剣が光った。
「勇者よ……我を解き放て……」
「え?聖剣が喋った???」
「お前の頭の中に直接語り掛けている……あの男達を救いたいなら、我を手に戦うのだ」
「え~、ネイル折れそうだからヤダなー」
「おい!早くせんか!」
「分かったわよ!」
あーしは渋々、聖剣を手に馬車を降りて外に出た。
「ゆ、勇者様!危険です!中に居てください!」
「ん~、そうしたいのはやまやまなんだけど……」
あーしは聖剣を構えて、モンスターの群れと対峙した。
「よし……では我を思いっきり振り下ろせ!」
「はーい」
あーしはモンスターの群れを真ん前に見据えて、聖剣を振り下ろした。
「ゴホゴホ……」
「ゆ、勇者様!大丈夫ですか?」
「うん。あーしは平気。皆は?」
「我々は平気です。しかし聖剣の力……凄まじいですね。お
「あーしが一番驚いてる……」
あーしは両手で握りしめた聖剣を見つめながら、溜息を
「勇者よ。我の力はまだまだこんなものではないぞ」
「ま?」
「うむ……まだ力の二割も開放しておらん」
「やばたにえん!あーし、マジで世界救ちゃうかも……」
「だが、魔王は強い……油断は禁物だぞ。我は少し休む……」
そう言うと聖剣は光を失って、何も言わなくなった。
「勇者様、あと三時間ほどで城に着きます。少し、休まれては?」
「そうだね。じゃあ、ちょっと寝るね」
「分かりました」
馬車に戻って横になると、急に睡魔が訪れた。聖剣に魔力を吸われたのだろう。あーしの意識はそこで途絶えた。
体を揺すられて、目を覚ました。馬車の中は快適とは言えず、硬い椅子で寝たので体の節々が痛い。
「勇者様、目は覚めましたか?今から城門を
「んんん~。おはよ。じゃあ、メイクするね」
「メ、メイクですか?」
「当たり前じゃん!偉い人に会うなら、メイクしとかないと」
「は、はあ……そういうものですか」
「ギャルにとってメイクは正装なの!」
あーしは荷物から化粧道具を取り出して、
「勇者様は、今、おいくつなんですか?」
「17歳だよ~」
「……」
「なに?どうしたの?」
「うちの娘と
「そーなんだ?」
「なのに、魔王を倒す運命を背負って冒険に出なければならないなんて……」
男がうっすらと目に涙を浮かべた。
「大丈夫大丈夫!とりま王様に間違ってね?って聞いてみる!」
「はい……」
男は手の甲で涙を
城に入って直ぐに王様に
「お主が勇者か」
王座に座って偉そうにしている白髪のお爺ちゃん(まあ、実際偉いんだけど)が、あーしを見て見定めるように言った。
「何かの間違いじゃね?ってあーしは思ってます」
「ふむ……村人の報告によると、お主、聖剣の力を開放したらしいが?」
「う……でも、あれは偶然で……」
「聖剣の声を聞く事は出来るか?」
「……はい」
「うーむ」
白髪のお爺ちゃん……もとい、王様がたくわえてる
「おい、魔法使いを呼べ!この娘がどれほどの魔力を持ってるか、測定したい」
「はっ!」
王様の隣にいた兵士が敬礼するなり、走って部屋を出て行った。数分もせずにローブに身を包んだ長髪の男が現れて、懐から眼鏡を取り出した。その眼鏡を掛けてあーしを見つめる。
「王様……今、魔法の眼鏡でこの者の魔力を測定しましたが、この娘の魔力は平均を少し上回る程度ですね……」
「なんと……」
「しかし、聖剣と魔力の糸で繋がっているのが見えます。間違いなく勇者でしょう」
「誠か!?」
「はい。事実です」
「仕方ない。お主を勇者と認めよう!」
王様が立ち上がって、あーしの近くまでやってきた。あーしの肩を叩いて、嬉しそうに言葉を続ける。
「では、明日から何人かの兵士と共に魔王の城を目指してもらうぞ!」
「ま?」
あーしは目を丸くして、王様に言った。
「いやいや、魔王って超強いんでしょ?あーしじゃ無理だよ」
「ああ……確かに強い。だが、聖剣の力があれば必ず勝てる!」
「え~!もし顔に傷とかついたらどーすんのよ!」
「その時は我が国最高の医者と治癒魔法の使い手がなんとかする!」
「大体、あーし魔王の顔とかも知らないんだけど?」
「魔王の肖像画がある。確認すると良い」
王様が手を叩くと、召使らしき人が直ぐに魔王の肖像画を持ってきた。
「こいつが憎き魔族の長、魔王じゃ!」
王様が
「ちょーイケメンじゃん!!!!!」
「な、なんじゃ!?」
「えー、まじ?ドタイプなんですけど?この人に会えんの?」
「う、うむ」
「行く行く!冒険の旅に出る!」
「そ、そうか……」
王様は
「で、では勇者よ!旅の幸運を祈る!」
こうして、あーしは魔王に会うために冒険の旅に出た。
色々な事があった。
聖剣を狙う盗賊。魔王城への橋を守るドラゴン。動物に姿を変えられた姫。大臣の
「よく来た勇者よ。わしが魔族の王、魔王だ。わしは待っておった。貴様のような強者が現れる事を……。もし、わしの味方になれば世界の半分を貴様にやろう。どうじゃ?わしの味方になるか?」
イケメン魔王はその長い髪をかき上げながら、微笑んだ。
「その笑顔、マジできゅんでーす!世界の半分なんていらないから、あーしと付き合ってよ!」
「ななななな、なんじゃと!?」
「なに?彼女いるの?」
「いや……わしは女になど興味はない!」
「え?童貞なの?まじ可愛い~」
「やめろぉ!」
魔王は耳を塞いで何度も首を横に振った。トラウマだったらしい。
「と、兎に角!世界の半分を貴様にやるから、わしの仲間になれ!」
「恋人にしてくれるならいいよ~」
「こ、恋人!?」
「うん」
「わ、わ、わしは恋人なぞいらん!」
「えー、じゃあ、あーしが勝ったら恋人になるってのは?」
「くくく……いいだろう……。わしの真の姿を見せてやる!」
あーしは聖剣を構えた。魔王は目を赤く染めて、強力な魔法を放ってきた。絶対に勝って、幸せになってやる!あーしは聖剣に魔力を込めた。
……数年後、魔族と王国は平和条約を結ぶこととなる。これは一人の恋するギャルが、世界を救ったおとぎ話。
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