第七章 ①
リジェッタは貧困窟の人々に肉を振舞うため、肉屋を占領することが多々ある。そうなると、決まって肉屋は大喜びだ。
「あちちちちちちちちちちちちちちちち!? この馬鹿野郎! 私がローストビーフに見えんのか!? とっとと縄をほどきやがれ!」
豚の丸焼きを作るための支え棒に縛られたロデオが必死に叫んでいた。身体を鋼の鎖で拘束され、真下で薪を炊かれている。煙が顔を直撃し、何度も咳き込んでいた。
「あなた。私になにか言わなければいけないことがありますわよね?」
「なんだよ。まさか、愛の告白が欲しいなんて熱つつつつつつつつつつつつつつつうつつつつつつつつううつつつつうつつつつつつつつうつうつつつうつつうつ!?!?」
「私、最近料理に興味持ちまして。色々とコツというものを聞いたのですよ。なんでも、こうやってを強火にして表面をこんがりと焼くのが旨味を逃さないコツだとか」
「ぶばっ!? ごほごほ! この馬鹿野郎! 俺は肉なんかじゃがあちちちちちちちちちちちちちちちちちちちいちちち!!」
「あらまあ。なかなか上手くいきませんわね」
リジェッタが薪の量を調整していると、突如として水をぶっかけられた。カレンが、苦い顔でバケツを構えている。
「あのな、ワシは警官でそれは犯罪なんじゃが」
「しかし、生ゴミを片付けるにはこれが一番では?」
「誰が生ゴミだ馬鹿野郎。とっとと縄をほどきやがれ」
目を赤く腫らしたロデオの姿に、リジェッタは渋々と縄をほどいた。
「ったく、なんで俺がこんな目に会うんだよ。折角のスーツが焦げちまったぜ。当然、弁償するんだろうな」
「私、お腹が減りました」
「ふざけんなよ! たかる気が手前は」
「まあまあ。積もる話はレストランに行ってからにするんじゃ。そろそろバスに乗らんと約束の時間に遅れてしまうぞい」
カレンが間に入り、なんとか空気は平坦へと近付いていく。
「ロデオさん」
「なんだよ
ロデオから睨まれても、リジェッタは笑みを絶やさなかった。
「カレンさんから聞きました。あなた、随分と危険な橋を渡ったらしいですわね?」
ロデオが咥えかけた煙草を手から滑り落とした。そして、カレンを睨む。《黒狗》は明後日の方向を向いて頬を掻いた。
「《泥鼠》であるヌシが、ワイバーン騎士団が街に汚泥を持ち込んだことをいち早く教えてくれなければ警察は動けんかった。なにせ、上層部の頭が腐った連中の首を縦に振るのは骨が折れるからの」
「うふふふ。素晴らしい働きでございます」
無論、容易なことではない。
ワイバーン騎士団は、そこまで愚かではない。自分達の周辺を探っている馬鹿がいれば、必ず報復する。命の保障などない、むしろ死ぬよりも辛い罰を受けるのは確実だ。
それでも、ロデオは行動してくれたのだ。カレン達が戦えるように。そして、リジェッタを助けられるように。
リジェッタにじーっと見詰められ、ロデオがそっぽを向いた。心なしか、耳が赤くなっている。
「なんだよ。手前は人に感謝するとき恩人を燃やすのが礼儀なのかよ」
「いいえ。ただ、私には散々言っておきながら自分は私に相談もせずに動いた罰です。私、心配したのですよ?」
リジェッタがロデオに顔を近付ける。
やはり、笑顔だった。
それでも、ロデオが銃口を向けられたかのように顔を引きつらせる。
「もしかして、怒ってんのか?」
「いえ、別に?」
「ほれほれ、そろそろ外に出るぞい」
カレンに促され、リジェッタ達はひとまず外に出た。
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