第一章 ④


 薄暗い場所だった。その分、ステージの上が眩しく見える。黒いスーツを着た男達がカートに乗せて運んできたのは、巨大な水槽だった。四角い硝子張りの内側は海水で満たされ、腕が一本漂っていた。そう、腕だ。とてもではないが魚には見えない。緑色でゴム質の肌、指と指の間に水掻き、黒い鈎爪。肩と繋がっているはずの断面は紐で縛られていた。

 たわしに似たマイクを片手に、胸元が大きく開いたバニーガール姿の美女が声高らかに叫ぶ。

「さあさあお次の商品は極東の島国より入荷しました河童の片腕でございます。腕に繋げば剛力を得られ、干して薬にすれば三日三晩寝ずに働ける精力剤に! まずは二十万コルーから二十万コルーから始めます!」

 半円の階段状に並んだ観客席の半分以上が埋まっていた。声とハンドサインが飛び交い、値段がどんどん吊り上がる。

「四十、四十六、五十、五十五、六十、はい六十コルー! 誰もいませんね? では、河童の片腕はギュデオ商会の支部長様が六十コルーで落札です!」

 オークション会場としてはそこまで広くないものの、客層はなかなかだった。先程から、良い値で商品が捌かれていく。

 段の中腹、会場の中心に近い席でリジェッタはオークションを眺めていた。足と足の間にレインシックスが挟められ、銃把を包むように両手を組んでいる。

 昼過ぎから始まって二時間近くが経過している。そろそろ、紅茶の時間だった。会場は最前列のボックス席以外は飲食禁止である。

「さあ、お次は半身半馬ケンタウロスの筋肉でございます! これを奴隷に移殖すれば一人で十人分の仕事は余裕! 長い目でみれば経費の節約も出来る優れものです!」

 オークション会場なのか豚の掃除場なのか分からなくなってきた。もっとも、周囲の人間は嫌悪感の欠片も見せない。

 むしろ、熱気に沸いていた。

 これが、人の煮えた欲望か。

 バニーガールの美女が黒服の一人からなにやら耳打ちされ、兎をピコピコと揺らした。

「それでは皆様! 次が本日最後の商品です。なんと! なな、なんと! ワイバーン騎士団が長年探し求めてきた竜の爪が手に入ったのです!」

 周囲が完成で沸き立った。まるで、爆発だった。

 リジェッタの目が、真っ直ぐにステージを射抜く。

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