第18話



 小夜たち一行は、大川の源流のひとつ『森の子のみず』の流れに到着した。


 秋と言っても歩き続ければ体も火照ってくる。四人はさっそく川の冷たい水でタオルを濡らし、まとわりついた汗を拭った。


 ほっと安堵の息をついて顔をあげた直後だった。全員の耳に、川のせせらぎとは違う異質な音が響き渡った。


 文字にすればホーホーともオーオーとも聞こえるその音は、皆の頭の中にある生き物の姿を想像させた。


「治兵衛さん……あそこだ!」


 余市が指差したのは、流れる小川のかみの方。流れがわずかに左へカーブした所にぽつんとある、大きな丸石のあたりだった。


 つるつるの石の表面から、突き出たキノコのように三つの丸い塊が飛び出ていた。それぞれふたつの大きな丸い目が付いていて、光が反射するたびにチラチラと輝いて見えた。今も聞こえるその鳴き声は、確実にその塊の方から聞こえていた。


「また森っ子じゃ! 水さ飲みに来たんかな」キヌが首をかしげた。


「いや、違う!」治兵衛が興奮した様子で叫んだ。「お嬢ちゃんの言う通りかもしれん。森っ子たちは何だかワシらに言いたいことがあるみてぇだ」


「言いたいことって?」


「それはまだわかんね。でもな、余一よ。今日ワシらは散歩っちゅう名目でここまで来たが、足の向きはそっち・・・に向かっとる気がしてならんかった。見なさい。フクロウは川の水が流れてくる方にいるじゃろうが。先には何がある?」


「ええと……あ、もしかして誉田の神様かね?」


「そうじゃ。森っ子はワシらをやしろに招こうとしてるんじゃないかね? 御神託があるのかもしれん。ワシにはそんな気がしてならねえんだ」


「うん、うん。オレもそう思う! 神さまんとこ、行ってみるさ!」


「キヌさん……」


「頼む、余一。もうちょっとだけ付き合って欲しい。ワシをあそこまで連れて行ってくれんか」


「うん……まあ、どうせここまで来たことだし構わないよ」


 三人の会話の成り行きを見守っていた小夜は、思惑通りに進む展開に驚きを隠せなかった。


(こんなにうまくいくとは思わなかった!)


「どうだい、お嬢ちゃんも行ってみるかね?」


「……はっ、はい。もちろん! あ、でもちょっと……思い出にこの川の景色を写真に残したいので、先に向かって下さい。すぐ追いかけますから」


 余一は小夜の手にある四角い物体を見て、納得したようだった。


「あー、『すまほ』かいな。じゃあ、先に行ってるから」


 治兵衛を載せた車椅子、それを押す余一と一人で歩くキヌは、小夜をその場に残して川の流れに沿う道を上流へと進んで行った。


「ふう……とりあえず良い流れになって良かった」


 小夜はまだフクロウの鳴き声のする丸石の方まで歩いていくと、石を覆う下草の中に手を突っ込んだ。


 拾い上げたのはピンク色の小夜自身のスマホだった。点きっぱなしの液晶の画面には、謹製のミュージック・プレイヤーの再生画面。「ヒーリングソング~夜の森(フクロウ)」と書かれた曲名がゆっくりとスクロールしていた。


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