第3話
二時間の行程を経て、三人は誉田村の駅についた。
つい数年前にここで暮らしていたのだから、彼らには覚えのある場所のはずだった。けれど時間というのは思ったよりばっさりと、印象を消し去るようだ。
「誉田って、こんな田舎だった? 前よりも寂れたような気がするな」自信が無かったのか、瀧のつぶやきは感想というより質問に近かった。
「そうかな。前とそんな変わりないよ」否定したにも関わらず、小夜は落ち着かない様子だった。
駅舎を出ると、嬉しいことに小夜の叔父が車で出迎えに来ていた。古いバンに乗り込んだ三人を載せて、車は小夜の親戚のいる家に向け出発した。
しばらくは外を眺めても田畑や農家の建物しか見えなかった。やがて道沿いに、ぽつりぽつりと一般的な戸建てが目立ち始めてきた。少し大きめの交差点を右に曲がった後、そこから先に続く道の風景を見ていた子どもたちが、段々と反応を見せ始めた。
瀧が頬杖をやめ、顔をあげる。「ここって……」
「うん、ここは!」
「ああ、懐かしいね」
その通りは三人が学校へ向かうのに使っていた通学路だった。
三人が学校へ通うのにこの道を使っていたのを知っていた叔父が、気を利かして学校の近くを通るように運転してくれたのだ。三人の表情の変化を見た彼は――誰にも気づかれないようにこっそりと――微笑んだ。
興奮した小夜が「あっちの店」とか「こっちの看板」を指差し、懐かしさを身内に説明してくる。小夜のやかましさに辟易していたけれど、瀧もマルもしっかりと景色を眺めていた。
叔父の家に着くと、小夜の親戚からの歓迎が待っていた(嬉しいことに、瀧やマルの顔と名前を覚えていてくれた)。三人には豪勢な昼食が振る舞われた。
小さな宴を楽しむ合間に、叔母さんが隣近所の住民を呼んできたようだ。部屋に一人、二人と人が増えていく。その都度、新しいテーブルがセッティングされ、運ばれてくる食事の量や種類が増えていった。
予期せぬ宴会が始まっていた。最初は勢いに驚いた三人も徐々に笑顔になっていった。どこの会話にも笑いがあふれる。小夜たちが集まるきっかけだったという事もあり、話題の中心は昔話だった。
宴も終盤になって、話し声も少なくなった。小夜と瀧はお腹を押さえてソファでくつろいでいた(食べ過ぎで動けなかったのだ)。
そんな満たされた二人から少し離れた所、部屋の端に座していた老人たちが、ボソボソと何かを言い合っていた。畳の上に輪を作って、一様に暗い顔をしている。
「もうおしめえだ」「あの森は残したかった」「頑張ったんだがね」など、聞こえてくる言葉にだいぶ未来が無い。
「あの人たち、どうしたの?」お茶を運んでくれた叔母さんに、小夜が聞いた。
「うん、誉田の森のこと」
「誉田の森……」
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