ハッテン場
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ハッテン場
粘膜の生乾きのにおい。このにおいを嗅ぐと、この場所にきた、と身体が反応する。
ミーンミーン…ミンミンミン…
蝉の鳴き声が空から降ってくる。まるで洪水でも起きたかのように頭上から盛大に流れ落ちてくるそれは夏の暑さをより引き立てる。地下鉄の出口を出るために階段を上がった先にある、すぐ目の前に広がる大きな公園からは子どもの遊び声を搔き消すような蝉の大合唱が止むことなく聴こえてきて一瞬耳を覆いたくなる。
おれは公園を通り抜けて反対側の道路に出てそのまま真っ直ぐ歩いていく。しばらく歩くともう営業していない古い駄菓子屋の剥げた看板が見えてくるのでそれを目印に右折し、突き当たりまで進むとチェーン店の牛丼屋がある。そのすぐ隣がおれの目的地だ。駅からここまで歩いて5分足らずだが、身体中の毛穴から汗が吹き出している。
外から一見するとただの雑居ビルの、エレベーターで三階にあがって廊下の突き当たりにある建て付けの悪いアルミのドアを開ける。キィと鳴るドアの向こうには黒いカーテンで中がみえなくなっている受付があり、中から、1500円、と声が届く。財布からお金を出し、替わりにロッカーキーとタオル二枚、フェイスタオルとバスタオルをもらう。その場から奥は土足禁止になっているため履いていた靴を脱いで手に持っておく。
ドアが閉まったあとの薄暗い店内で目を凝らし、ロッカーキーに付いているキーホルダーに書かれている番号のロッカーへいき荷物を詰める。着ていたシャツを脱いでハンガーに掛け、短パンと靴下、Tシャツも脱いでボクサーパンツ一枚になる。
ロッカールームから出ると広いロビーにソファが三つ置かれており、誰も観ていないテレビからは絞ったボリュームで海外映画が放映されていた。
広間を抜けてシャワールームへ向かう。鍵のついていないドアを開けると、スポーツジムの脱衣所に設置されてあるような、カーテンで仕切られただけのシャワーが四つ横並びになっていて、一番奥から勢いよく水の流れる音がしている。
おれは手前の仕切りに入りカーテンを閉め、下着を脱いで汗まみれの身体を洗った。ぬるい温度に設定されているシャワーが素肌に心地良い。
シャワーを浴び終わり身体を拭いていると、先に奥の仕切りにいた人もシャワーを浴び終わったようで、おれの入っている仕切りの前を通るとき、カーテンの間からちらっとこちらを確認する素振りがみえた。同時におれも相手をちらっと確認する。おれより少し年上ほどだろうか、ボクサーパンツではなく競泳水着のようなブーメランの形をしたパンツを履いていた彼はわざとらしくゆっくり洗面台で自分の髪型を確認する素振りをしながらおれが出てくるのを待っていた。顔の向きと視線が合っていない彼を不気味に感じつつシャワールームを出て館内の階段を上がり、大勢の人の気配が漂う空間へと身を浸していく。
薄暗さにまだ目が慣れないため、階段の横に置いてある椅子に腰掛けて目が慣れるのを待つ。おれがこの空間に侵入してきた気配を感じ取った人たちが代わる代わる奥から顔をのぞかせる。
値踏みしているのだ。新参者であるおれを。顔、身体が自分の好みであるかどうかを、この薄暗い中で必死に確認しようとしている。
おれの座っている前を行き来してちらっと横目で見る人、隣の空いている椅子に座ってタバコを吸いつつちらちら視線を向ける人、それぞれのやり方でおれを確認している。
夏でも冬でも一定の室温に保たれたこの館内は、裸足で歩きやすいようにとの配慮か床中に絨毯が敷き詰められている。恐らくここで汗をかく人が多いことから少し涼しくされているせいか、春夏秋冬いつ来ても常に足先を冷やしてくる。
目がこの暗闇に慣れたところで、館内中央にある大部屋に足をのばす。顔にタオルを掛け隠し、その他はどこも隠さず全裸で寝転んでいる人、遠目でその人を見ている人、壁に背を向けて座り込み、ひそひそ囁きあいながら足を絡めあっている人たち。年齢はバラバラだが比較的若い子の多いここはアンダーウェアしか着用を許されておらず、どの子も半裸で館内を過ごすことを強要されている。
大部屋をぐるっと見渡しどんな人たちがいるのか見た後、更に奥にある個室ブースへと向かう。個室はそれぞれマットレスが一つ置けるギリギリのスペースで出来ており、中から鍵を掛けることができる仕組みになっている。
五つ並んでいる個室のうち真ん中の一つだけ閉まっており、一番手前の個室にはマットレスに寝転び寝息をたてている人がいた。個室には明かりが点いていないため、どんな人なのか、年齢や顔、雰囲気などが全くわからない。鍵の閉まっている個室からは楽しそうな笑い声が漏れてきており、どうやらお楽しみの最中らしい。
踵を返してもう一つ上の階へいってみる。階段を途中まであがったところで小さく、あっあっという声がここまで漏れてきていた。
最上階には部屋が一つしかない。部屋中がレッドライトで照らされていて、布団が敷き詰められて赤く染まっている、レッドルームと呼ばれる部屋だ。
中をのぞくと男の人数人が中央で固まって集まっていた。近くまでそっと近づくと、粘膜のにおいがきつくなった。
一人の男が大の字で寝そべり、その上に小柄な男が跨って身体を上下に揺すりながら喘いでいる。小柄な男は喘ぎながらも隣にいる男のちんこに手を伸ばし必死に食べようとしている。もう一人は小柄な男の背後から首筋、耳、背中を舐めていた。
寝そべっている男はあり、他はなし。けど、寝そべってる男もちんこ次第だな。
そう思いながら眺めていたら、小柄な人を背後から攻めていた男が立ち上がり、おれの下半身を触ってきた。おれが勃起していることを確認すると男はにやっと笑い、少し開いた口から八重歯がてかてか光っていた。
その男のちんこも勃起していて、細い身体に不釣り合いな太いちんこの先が濡れている。おれの手を自分のちんこに持っていき握らせ、首筋を舐めてくる。髭が擦れて痛い。
彼の口がおれの首筋から乳首にへとが移動したところで、ごめんなさい、と呟いて軽く彼の身体を押し返す。あなたとはしたくありません、という意思表示だ。ぎょろっとした二重の瞳がこちらを一瞥した後、元いた場所へと戻っていってまた小柄な人の背後を陣取っていた。
レッドルームでしばらくの間、誰かそろそろいくだろうかと期待しながら眺めていたがこれ以上面白そうなことは起きそうにないので一つ下の階へと戻ることにした。先ほどと同じように館内をぐるっとまわり大部屋と個室を確認してから、一番奥にある休憩スペースへと向かう。
唯一しっかりと蛍光灯の明かりが点いているこのスペースには雑誌や漫画、テレビなんかが置かれていて、テレビの横にはコンドームとローションの入った小瓶も用意されている。
中に入ると二人、大学生らしき男の子たちがそれぞれ漫画を読んでいた。おれは空いている椅子に腰をおろして近くに落ちていた漫画を拾った。二人とも華奢な身体をしていて線が細い。
この、タイプの人がおらず、ただただ時間をやり過ごすこの瞬間に、毎回途方に暮れそうになる。ここにいる人たちの目的は共通しているけれど、お互いに了承しなければ目的を果たすことができず、果たして今日はできるのかどうか、そんなことを考えながら漫画のページをめくる。
手にした漫画はおれが小学生の頃に流行った剣客もので、途中の巻だったけれど懐かしい思いで読むことができた。ぱらぱらとページをめくっていると、休憩スペースをのぞく人影が視界の端に見えた。顔だけのぞかせてゆっくり視線を泳がせ中を確認し、大丈夫と判断したのかそろりと入ってきた彼は大学生だろうか、一重で眉毛が綺麗に整えられていて、肌がぷるっと張っている。運動しているのかむちっと肉付きのよく陽に焼けた上半身と、臍から伸びる毛深い下半身、太ももの太さに思わず凝視してしまった。使い古されてゴムが少し緩くなっている黒いボクサーパンツのにおいを嗅ぎたい。
そんなおれの視線に気付かず、彼は棚にしまってある漫画と雑誌を漁りはじめた。最初は適当に漫画を確認していたのだが、隣に置いてある雑誌を手にすると驚いた顔でページをのぞき込みはじめた。彼の手にしたそれはいわゆるゲイ雑誌というやつで、街中スナップや連載小説など、よくある内容で構成されているのよくある雑誌なのだがそのすべてが男の男による男のために作られた雑誌なのだ。
その場にしゃがみ込んでしばらく雑誌を何冊か見た後、彼は立ち上がって休憩スペースを出ていった。おれもあとを追うようにその場を去った。
階段の横で、椅子に座るわけでもなくタバコを吸うわけでもなく、彼は立ちすくんでいた。まるで悪戯をして廊下に立たされている小学生みたいに、バツの悪そうな顔で、戸惑っているかのように、その場にいた。
おれは足音を立てて彼に近付いていく。顔をこちらに向けた彼と視線が合う。そのまま隣に立ち、
「こういうところ、初めて?」
「あ、はい」
いきなり話しかけられて驚いたのか彼は右手で鼻をかきながら答えてくれた。おれは少し距離を詰めて、腕と腕が当たるところまで近付く。
「可愛いね」
「いや、そんなことないです」
「運動してるの? すごくいい身体してるね」
「あ、高校まで剣道やってました」
「ねえ」
「はい」
「やらない?」
おれがたずねると、彼は一瞬、わけがわからないという顔をしてから、ぱっと目を見開いて、
「あの、自分、経験なくて」
「大丈夫、そんなに怖がらなくていいよ」
まだどうしようか迷っている彼の手をとり、薄暗い館内を歩いて奥の個室へ向かう。一番奥の個室が空いていたので中に入り、内側から鍵を掛ける。
彼に向き合うと、俯いていた顔を持ち上げてキスをした。
最初は唇を合わせるだけ。彼の緊張が唇から伝わってくる。何度も繰り返し唇を重ねる。甘いにおいがする。唇で唇を軽く引っ張ってみる。彼の口が少し開く。その隙間に舌を入れる。彼も舌を差し出してきた。舌と舌を絡める。
腕を彼の背中にまわし、ゆっくりマットレスに押し倒す。そのまま首筋、乳首へと舌を這わせる。んっと彼から声が漏れる。右の腋を舐めて、二の腕を舐めて、指を舐めて、またキスする。きもちいいです、と彼が言う。
それから下半身へと顔をもっていく。下着の上からちんこの形を口で確認する。ちょうどおれの口の中に収まりそうなくらいの大きさだ。彼の息が荒くなる。下着を脱ごうとする彼の手をどけて、おれがゆっくり脱がせる。あらわになったちんこはやはり顔に似合わず毛深くて、皮の中に毛が入り込んで痛そう。巻き込まれている毛を丁寧に取り除くと、先っぽから汁が溢れていて、舌で舐めとると塩っけのある味がした。
皮を剥かず、舌をその中に入れて味を確かめる。わざとくちゃくちゃという音を立てる。ううっという呻き声が聞こえる。そのまま皮を剥かないように、ゆっくりちんこ全部を口の中に咥える。
「うわ、めちゃくちゃきもちいいです」
彼が振り絞るように声を上げた。おれはそのまましばらく舐め続ける。
「皮はたっても剥けないの?」
彼は少し恥ずかしそうに手で顔を隠しながら、
「はい」
「手で剥ける?」
「はい、手でやれば剥けます」
「剥いた方がいいかな」
「いや、どちらでも」
「じゃあこのまま剥かずに舐めるね」
「はい…」
「気持ちいい?」
「なんか、こんなの初めてです。背中がぞくぞくします」
彼は目を閉じて宙を仰ぎながら感じていた。
「今度はおれのも舐めてくれる?」
「はい」
おれは彼の顔のところを跨ぐように身体を持っていき、下着を脱いで勃起したちんこを差し出した。うわ、めちゃくちゃ濡れてますね、と笑いながら指でおれのちんこの先っぽを触って確かめる彼。
「たくさん舐めて」
「はい」
彼はおれのちんこを口に咥えた。初めてだからかおれのが太いからか、歯が当たって少し痛い。ヨダレいっぱいためて、舌出して、そのまま先っぽと、横側も舐めて。そう指示するとかれは言われたとおりにやってくれた。ヨダレたくさん出して、手でしごきながら舐めて。
気持ち良さよりも、彼の一生懸命な姿に萌えた。後ろ手で彼のちんこを持って一緒にしごくと嬉しそうに声を上げてくれた。
次に彼が舐めてくれている状態から上半身を捻り、シックスナインの形にもっていく。彼の包茎ちんこを舐めながら、おれのちんこをしごいてくれる感覚に酔いしれる。
「やばいです、イキそうです」
我慢できなくなったのかおれの脚を掴む手に力が入ったのがわかった。
「このまま口の中で出していいよ」
「あ、だめ、いく」
うっと声を漏らしながら彼はおれの口の中で射精した。どくどくと生暖かい液体が流れ込んでくる。あまり生臭いにおいはしなかった。
口の中身をティッシュに出して捨てる。
「ねえ」
「はい」
果てた彼は少し放心気味にこちらを見つめていた。
「掘ってもいい?」
「え」
「掘らせてくれないかな」
「掘るって」
「アナル、経験してみない」
「いや、自分できるかどうか」
「じゃあやってみて、無理なら途中でやめよう。大丈夫そうならそのままやってみよう」
彼は戸惑いを隠せない表情を浮かべていた。おれは彼にキスしながらもう一度押してみる。
「嫌だったらやめるから、一度やってみようよ」
「…はい」
おれは先ほどの休憩スペースからこっそり持ち出していたローションとコンドームを取り出す。
「仰向けになって」
彼は言われた通りにマットレスに仰向けになった。
「脚をM字にして、股を開いて。そう、最初はちょっと冷たいけど我慢してね」
右手にローションを垂らして彼の股間に持っていく。お尻の割れ目に指を当て、彼の肛門を探す。
「このまま慣らしていくね」
「はい」
「痛かったら言ってね」
「はい」
中指の腹で彼の肛門を押しほぐす。少し力を入れてぐりぐりと押しほぐして離す。それを何度か繰り返す。
「どう、痛い?」
「いえ、なんか、変な感じです」
「お尻の穴は力を抜いて、大丈夫、痛くないから。そのままうんこするみたいに力んで」
おれは彼の呼吸に合わせて中指を一本肛門の中にいれる。
「痛い?」
「いえ、痛くは、ないです」
そのまま中指を肛門の中で動かす。
「なんか、変な感じです。何やってるんすか」
「指をいれてるだけだよ」
「うう、なんか気持ち悪いです」
「大丈夫、力を抜いて」
おれは中指を一旦出し、もう一度いれてみる。もう中指一本程度なら違和感なく飲み込めるようになっている。
「じゃあ次に二本同時にいれるからね」
「…はい」
おれは中指と人差し指の二本同時に彼の肛門に押し当てた。ゆっくり押し拡げるように、時間をかけて。
「どう、二本入ったよ」
「え、入ったんすか」
「うん、痛い?」
「いや痛くはないですけど、なんか、ずっとうんこ出てるような感覚です」
今まで排便のためにしか使われてこなかった機関なのだからそれはそうだろうと思いつつ、肛門にいれた指を中で引っ掻くように動かし始める。
「あ、なんすか、あっ、そこ押されると不思議な感じになります」
彼の前立腺を指で刺激する。どんどん肛門が緩くなってきているのがわかる。
「慣れてきたね」
「慣れて、きたんすかね」
「そろそろいれるよ」
「はい」
おれは指を抜き、ちんこにコンドームを被せてローションを塗りたくった。
「さっきみたいにうんこするような感じで力んでみて」
肛門の入り口にちんこを押し当てる。徐々におれのちんこが彼の中に入っていく。
「どんな感じ?」
「ちょっと苦しいです」
「痛かったら言ってね」
「はい」
「大丈夫?」
「はい」
「全部入ったよ」
おれは彼の手を取って肛門部分を触らせた。
「ほら、おれのちんこ全部入っちゃった」
苦しそうな顔をしている彼の顔を見ているとこのまま思いっきり突きたい気持ちになったが、いきなりやって嫌な思い出になるのは可哀想だと思い挿入した状態で動かず彼にキスした。キスしながらおれは腰を動かし始める。確かキスにはモルヒネの数百倍、鎮痛作用があったはずだから多少の痛みなら我慢できるはずだ。
おれは彼の両脚を持ち上げてより身体が密着するような体勢を整えた。舌と舌を出して唾液を絡めるようなキスをして、彼の中にいれたちんこをぎりぎりまで出し、奥までぐっと突き刺す。出して、いれる。いれるときはこれ以上入らないってくらい奥までおれのちんこを届かせるように、根元まで全てをいれる。もっと奥に、もっと奥にとぐりぐりしていると、ちんこの先が壁のような、なにか硬いものに当たっている感覚があった。
「なんか、変です、中から押し出される感じがします」
壁のようなところにちんこを擦り付けていると彼は呻くように言った。
「もし出したかったら無理せず出していいよ」
「なんですかこれ、その当たってるところ、それ以上当てないでください」
「けど気持ちいいでしょ」
「…うっ、はい、気持ちいいです」
おれはその壁のような感触がある部分にちんこを擦り付け続けた。彼もやばいやばいと喚き続けるが、おれもかなり気持ち良い。
「もうだめです、なんか出ます」
うわーと彼が叫び出したかと思ったら、ちんこからおしっこのような液体が流れ出してきた。
「うわーあーやばいですーおしっこ漏れてますー」
「いいよ、そのまま流し続けて。おれもそろそろやばい」
「あーやばいーあーうわー」
喚き続ける彼のちんこからは液体が流れ続けていた。出れば出るほどおれのちんこが彼の中で締め付けられて気持ち良い。刺激に耐えられなくなっておれは彼の中で思いっきり射精した。
二人して果て、互いにしばらくぐったりと動けなくなった。汗なのかよくわからない液体で身体中がベトベトしている。けれどそれが妙に心地良く、おれは彼に覆い被さるように抱きついていると彼が照れたように、
「すごく良かったです。ありがとうございます」
「こっちこそ、めちゃくちゃ気持ちよかった」
「こんなに気持ちいいもんなんですね。やばいです、癖になりそう」
「癖になっちゃいなよ。女の子では味わうことできないよ」
彼はふふ、と笑うと自分の出した液体で汚れたマットレスを見ながら、
「すごい出ました」
「出たね」
「なんか、すみません、汚いもの見せてしまって」
「いいよ、これは気持ち良かった印みたいなもんだしね」
おれは自分のちんこに装着されたままになっていたコンドームを外し、中に溜まった精液が溢れないように口を結んでゴミ箱に捨てた。
「あの、おいくつですか?」
唐突に彼が聞いてきた。
「29。そっちは?」
「ハタチです」
ハタチ、という言葉が鮮度を保ちながら鼓膜に響く。
「10歳年下か」
「お兄さん、すごいイケメンですね」
そう言ってはにかむ彼に、もう一度キスをする。
「またやりたいです」
「そうだね、またやりたいね」
「連絡先とか、聞いてもいいですか」
遠慮がちに彼は告げた。少し悩んでから、もちろん、と答える。自分もハタチの頃はそうだった。そこで出会った人とこの先も何かしらの縁があるのだと信じて疑わずに真っ直ぐ自分の意思を伝えていた。そんな彼がまぶしくて、少し羨ましい。
「シャワー浴びに行こうか」
「はい」
おれと彼は一緒に個室を出た。下着を身につけるのに抵抗があったので、持っていたハンドタオルで股間部分のみを隠して廊下を進み、階段をおりる。
シャワールームには誰もおらず、おれと彼は一つのシャワーを二人で使いながら互いの身体を洗い合った。
「お尻大丈夫?」
「はい、大丈夫、だと思います」
「見せて」
「え、嫌ですよ、恥ずかしい」
「もう十分恥ずかしいことやってきたから今更いいよ、見せて」
彼はしぶしぶ、といった様子でおれにお尻を向けた。
「血は出てないから切れてはないかな」
「痛くはないですけど、なんか変な感じです」
「ずっとおれのちんこが入ってたからね。しばらくは我慢して」
「はい」
おれらは互いの身体についた泡を流し合いながらまたキスをした。
ロッカールームで衣服を身に纏う。白いTシャツに短パン、サンダルを履いただけというラフな格好をしている彼を見るとやはり若々しいというか、ハタチらしさを感じられた。
「これ僕のLINEです」
スマホをこちらに見せながら彼は告げた。おれはそのままID登録をした。
「またやりましょうね」
「うん、また」
きっと守られない約束をして、おれらはハッテン場を出た。
ハッテン場 M @M--
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