ここは?? ③


ーー

 相変わらず辺りは濃い緑色に覆われて薄暗い。


 更に進んでいくと⋯⋯




「えっ??なんか、動いてる」


 なにかの塊がグネグネ動いているように見える。


 薄暗くてはっきりは見えないけど。


 さらにゆっくり進むと⋯⋯



「⋯⋯人??」



 人(?)の群れが通路を塞いでいた。


「違う。あれは⋯⋯」


 いや⋯⋯人と呼んでいいのかな??



 さっきの目のない奴と同じ様な感じだった。


 ただ、あきらかに違うところがある。


 それは、今いる連中は⋯⋯



 ”はっきり” 見えるということ。



 最初にすれ違った子と同じ様に衣服は無く、オマケに顔はグチャグチャに潰されてて表情一つ読み取れない。

 きっと、斧やら金槌やらでやられたのかな。

 酷い有様だ。


 唯一、胸や性器の有無で性別が解る程度だった。



 奴らは、こちらに向かって来るわけでもなく、その場でうろうろしている。


 左右に揺れながらぶつかり合う奴。

 片足を軸にぐるぐる回っている奴。



「⋯⋯なっ⋯⋯なんなんだよ??こいつらっ!」




ーー


 ⋯⋯。


 さらにゆっくり近付くと、強烈な腐敗臭に吐き気を覚え思わず鼻と口を覆う。


 が、すでに胃液が食道を這い上がり、口の中を酸っぱい匂いで満たし始めた。


「うっ⋯⋯ぉぇ。ぐおぉぇえぇ。」


 ビチャビチャ


「はぁ⋯⋯はぁ」


 激しい嘔吐に襲われるも胃液しか出ない。


 最後に食ったのはいつだったか。もはや記憶すらない。


 胃の痙攣に耐えつつ、臭いの根源を確認する。


 ⋯⋯見ると、全員あちらこちらを切断されている連中ばかりだ。


 肩から腕がザックリ落とされてる者。

 中には一方の肩から他方の脇の下へと斜めに斬り落とされ⋯⋯袈裟斬りをされ首が飛ばされている者。

 両脚を腿から斬り落とされ、地を這っている者もいる。

 ふらふらしながら、あちらこちらにぶつか

っている連中もいた。



 しかし⋯⋯かなりの数だ。



 何十人いるんだろう。


 いや、もしかしたらバラバラにされて多く見えているのかもしれない。


 元々1人だったのが、2人に見え



 3人が9人になり⋯⋯



 と、いった感じに。


「なんで⋯⋯動いてんだ?こいつら」



 ともかく、ここを進むなら話しかけてきても無視し、近寄ってきてもすべてかわし、付き進むしかないだろう。



「行くか??どうする??」



 逃げるという選択肢もないわけではない。  

 しかし、逃げ戻ったところで結局一本道。

 さっきの所に戻るだけ。




 ⋯⋯嫌でも、進むしか道はない。




「なんとか触れないように行けるか?」



 奴等に触れてしまっただけで、オレのすべてが終わってしまう。



 そんな気がしてならない。


 とにかく、触れられたらダメだ。


 奴等の存在より、そっちのほうに恐怖感が向く。





(⋯⋯以前にも、こんなことがあったような⋯⋯)


 記憶の断片が、一瞬脳裏を通り過ぎた様な気がした。

 しかし、ふっと静かに消えていく。



 目の前には、僅かな光に照らされる緑色の空間


 狭い一本の通路


 ひしめき合う、死体であるはずの群れ


 これが、現実



「くそっ。抜けるしか⋯⋯道はないか⋯⋯」



 オレは、なんとか ”ここ” を通り抜けようと試みる事にした。



「ぁああぁあああ」


「ひぃいぁあぃぃいいい」


 呻き声を上げながら近寄ってくる “奴等”



 オレは、必死に腕の無いところを抜け、股をくぐり、一人⋯⋯二人とかわしていく。


 一つ一つの行動に精神が削られる。


 ちょうど集団の中央あたりまで来た時⋯⋯




「うっ!!」




 突然、見えない力に動きを阻まれなかなか動けなくなる。


 金縛りにあう手前のような⋯⋯。



「んぐっ!!なんだ??身体が⋯⋯重い⋯⋯」




 回りを見ると、どうもオレだけじゃない。


 ここにあるすべての者(物)の動きが、ものすごく鈍くゆっくりになっている。



「ま⋯⋯ずい。

手が⋯⋯⋯⋯さっ、触っちまう⋯⋯。


く⋯⋯来るなぁ!!」





ーー

⋯⋯。


⋯⋯⋯⋯⋯⋯。




⋯⋯⋯⋯お⋯⋯か⋯え⋯⋯⋯⋯り





⋯⋯。


⋯⋯⋯⋯⋯⋯。


ーー




(⋯⋯??

だれ⋯⋯だ??)



 振り回される手が、オレの鼻先数ミリの所を通り過ぎる。




(はぁ。はぁ。はぁ。

間一髪かっ!

しかし、さっきの声いったい⋯⋯。

いや⋯⋯今はそれどころじゃない!!)



 回りをまだ何十人と囲まれている。



 地面を這う者



 揺れながら壁にぶつかる者



 首やら手足だけでも動き回る者だっている




 ズキッ!!



(っぐ!!頭が⋯⋯)



 急に電気が走った様に頭が痛む。




 突如、走馬灯のように頭の中を何かが駆け巡った。



________________________

 ここは⋯⋯?



 ⋯⋯紫⋯⋯色の土⋯⋯壁



 ⋯⋯走れっ!




 ⋯⋯⋯⋯早くっ!!





 ⋯⋯どこだ?




 やめろ やめてくれっ

 ぅわわわわわぁぁ!!

_______________________

 先程、すぐに消えてしまった微かな記憶の断片だった。




(オレは⋯⋯やっぱり前にも⋯⋯)



 奴らを避けながら、少ない記憶を探る。


 奴らの動きも遅いおかげで次の動作の予想は容易だ。



(オレは前にも、こんな地獄絵図のような所を通り抜けたことがあったような⋯⋯)



 しかし、場所はここではない。


 もっと違うところで⋯⋯。



(いつだ?? たしか⋯⋯そう、一週間程前⋯⋯


⋯⋯。

その間、オレは一週間も何をしていたんだ??

いったい、なにを⋯⋯。

なにをして⋯⋯。




⋯⋯くそっ!思い出せない)




 気がつくと、随分と進んでいた。


 目の前にはこの通路の出口らしき開けた一室が見える。



(思い出すのは後回しだ。まずはここを突破して、落ち着いてから⋯⋯ んぐっ!!)



 進めば進むほど、近付けば近付くほど更に身体の自由が効かなくなる。



(ぐぐっ!もう少し⋯⋯もう少しなんだ。

う⋯⋯ご⋯⋯けっ!!)




 オレは、渾身の力を込め身体を引きずり、転がりながらなんとか辿り着いた。





「はぁ。はぁ。⋯⋯ここは??」



 今だに動きの鈍い身体を起こし、四つん這いのまま顔を上げて見ると⋯⋯


 そこは、およそ10メートル四方の一室。


 相変わらず、一面緑色のタイル張りで薄暗い。


 そして、何よりも始めに目が覚めた場所と酷似している。

 戻ってきてしまったのかと錯覚を起こすほどに。



 ただ気掛かりなのは、部屋の壁面あたりが陽炎のように揺れて見えるということ。



 目を凝らして見てみると⋯⋯





(⋯⋯なっ!

そ⋯⋯そんな⋯⋯)




 揺れているように見えていたのは⋯⋯

 



 ⋯⋯奴らだった。


 影の奴等やバラバラの奴等が、この一室所狭しとうごめき回っている。




 さらに、



(⋯⋯ぅうっ!

っぐぐ! ⋯⋯くそっ。)



 身体中にかかる負荷が強まり、ついにすべての自由が奪われ動けなくなった。


 オレは、負荷に耐えられずうつ伏せに潰れる。



 ペタッ






 すると、足音がしてきた。




 ペタッ⋯⋯ペタッ






 だんだん音が大きくなる。



(⋯⋯来るな。⋯⋯頼む)



 ペタッ





 ペタッ




ペタッ



 ペタッ


ペタッ


 ペタッペタッペタッペタッ


 その足音はだんだん早くなりオレの周りをグルグル回り出す。


ペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタ ペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタペッタン



(⋯⋯うっ)


 何十周しただろうか⋯⋯。


 その音は、オレの頭の先で止まった。


 顔の上に大きく影が被る。



 目だけをそっと横にづらすと、そこには裸足の足が2本見えた。




 なんとか顔を上げると、そこにはリーダー格なのか、自分の回りに奴らを引き連れた者がオレを覗き込んでいる⋯⋯ようだった。




(えっ?馬鹿な。なんで、こいつがここに??)



 見覚えがあった。




 1番最初にすれ違った首と両手のない奴。


 間違いない。



(⋯⋯マズイ。きっとマズイ。

頼む。なんとか⋯⋯

動いて⋯⋯く⋯⋯)



 オレは、なんとか逃げようと動こうとするが半回転して仰向けになるのが精一杯だった。



 もし、首から上があったら間違いなく目が合っていただろう。




 そいつは片腕を振り上げると、どこからか声を出しこう言った。






『今から、手術を施す』






そいつの腕には、剥き出しになった骨が見える。

 先端は、鋭利に削られていた。





「やめろ



やめてくれっ!



いやだっ





ぃやだぁーーー!!」




 その腕は一気に心臓に振り下ろされる。

 鋭い風きり音が耳を裂く。

 それでも、目で追えるほどゆっくりで。


 骨が皮膚を裂き

 筋肉を破りどんどん入ってくる

 体の最後の抵抗なのか、破られた筋肉が入ってくる異物を押さえつけるかのごとく収縮しよりいっそうの激痛が走る

 拡張と収縮を繰り返す心臓が、異物に触れるたびにプチッ プチュッ っと、自ら穴を開けていく。

 しばらくすると、拡張しようとする心臓が押さえつけられ

グジュッ

と、いう感触と共に串刺しになったのがわかった。


(ダ⋯⋯ダメだ。もう、助かりっこない)


 顎がガクガク痙攣し始める。

 身体が、時折 “ビクッ” 跳ね上がりながらもオレは最後まで見続けさせられ⋯⋯









 ⋯⋯目が覚めた。




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