寿限無
「ふと思ったんだけどさ」
「なんですか?」
「『寿限無』ってなに?」
「落語の演目の一つです」
「いや『寿限無』の内容は知ってるんだけどさ、そもそも寿限無ってどういう意味?」
「え? 『寿限無』の噺の中で説明されてるじゃないですか」
「そうなの!?」
「知らないのに内容知ってるって言ったの?!」
「いや別に知ったかぶりするつもりじゃなかったというか……」
「まあうろ覚えなのはなんとなくわかりました」
「主人公の男の子の名前長いのと殴られてたんこぶできてからの下りは覚えてるんだけど」
「ストーリーは何となく覚えてる感じですね」
「結局あれどういう意味なの? そもそもなんであんなに長いの?」
「えーとですね……そもそも寿限無の名前って全部言えます?」
「じゅげむじゅげむごこうのすりきれかいじゃりすいぎょのすいぎょうまつうんらいまつふうらいまつくうねるところにすむところやぶらこうじのやぶこうじぱいぽぱいぽぱいぽのしゅーりんがんしゅーりんがんのぐーりんだいぐーりんだいのぽんぽこぴーのぽんぽこなーのちょうきゅうめいのちょうすけ」
「『寿限無寿限無五劫の擦り切れ海砂利水魚の水行末雲来末風来末食う寝る処に住む処藪ら柑子の藪柑子パイポパイポパイポのシューリンガンシューリンガンのグーリンダイグーリンダイのポンポコピーのポンポコナーの長久命の長助』……おお合ってます合ってます」
「何か馬鹿にしてない?」
「そんなことないですよさすがせんぱい」
「なんで君までひらがなになるの!?」
「そもそも『寿限無』って何でこんな長い名前になったのかわかります?」
「ギネス記録更新のため」
「おしい」
「マジかよ」
「主人公――要するに寿限無くんのお父さんが息子に長生きして欲しいがために、縁起の良い名前をお寺の和尚さんに教えてもらうんですよ」
「ふむ」
「で、教えてもらった縁起のいい名前を全部付けちゃうんですね」
「馬鹿じゃん」
「まあ落語ですし多少馬鹿馬鹿しいのは当たり前というか」
「え、じゃあ寿限無のあの長い名前って全部寿命に関することなの?」
「寿命というか『長い』的な意味ですね、例えば寿限無は『限りない幸福』って意味ですね」
「ほうほう」
「『五劫の擦り切れ』、『海砂利水魚』、『水行末雲来末風来末』も途方もないものや果てのないものの例えです」
「ほうほうほう」
「『食う寝る処に住む処』『藪ら柑子の藪柑子』は長いというのとはちょっと違ってて、前者は単純に豊かに暮らしてほしいという意味、後者は『藪柑子』という生命力豊かな縁起物の木のことですね」
「なるほど」
「『パイポパイポパイポのシューリンガンシューリンガンのグーリンダイグーリンダイのポンポコピーのポンポコナー』はパイポ国のシューリンガンとグーリンダイとポンポコピーとポンポコナーという王さまがどれも長生きだったという架空の逸話から取られています」
「え?」
「『長久命』は文字通り長く久しい命、『長助』は長く助けるの意味合いを持ってます。まあ長いですがみんな意味だけ見ればいい名前なんですよね」
「いやいやおかしいでしょちょっと待ってよ、明らかに適当なのがあったよね?」
「はい?」
「いやいやいや『パイポパイポ――』の流れのやつ! 架空の逸話って何さ!!」
「……言わんとしたいことはわかります」
「ホントだよ! 何だよそれ! 明らか寿限無の中で異質で数多くの人が疑問に思っているであろうパイポからの一連の流れが架空ってどういうこと!?!」
「真実とはいつも残酷なものです」
「ひどいよ! こんなのってないよ!!」
「落ち着いてください、面白い物語を作るときには、時に脚色が必要になるときもあります」
「そんな……そんなことって……」
「まあとりあえずコレが寿限無の意味ですね」
「なるほどねえ、正直ちょっとがっかり感が」
「まーパイポの下りは語呂の関係もありますしあまり責めても」
「いやぁそうじゃなくってさ、落語っていわゆる『うまい!』ってなる話が多いじゃない? だから名前の意味の中にも笑いポイントがあるのかなぁって思ってたんだけど……別に話の内容とかかってるわけじゃないんだなあって」
「……ああそうか、先輩は寿限無が元々どういう噺か知らないんですね」
「え? 友達と喧嘩してたら殴ってたんこぶ作らせちゃって、見ていた人が親を呼びに行ったんだけど名前が長すぎて呼ぶのに時間がかかって、大人が着いたときにはたんこぶ引っ込んで仲直りしてましたって話じゃないの??」
「今はそのような噺になってますが元は違いますよ、きちんと名前が長生きしてほしいという意味が込められていることにもかかった噺になってます」
「マジ? 元はどういう話なの?」
「えっと――
※ネタバレ回避の為、割愛
って感じですね」
「あーなるほど……そういう感じなんだ」
「はい、話の内容が『アレ』なんで後年改変されて今の形になってるとか」
「…………………あのさ」
「はい?」
「時には脚色が必要になる時もあるんだね」
「でしょう?」
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