駄文芸部の二人。

東雲秋一

自販機の炭酸

「ふと思ったんだけどさ」

「なんですか?」

「自販機の炭酸ってさ、なんで爆発しないのかな」

「はい?」

「いやさ、自販機の飲み物ってめっちゃガタゴトしながら出てくるじゃない? なのになんで『プシューっ!』ってならないのかなって」

「……さあ?」

「なんで知らないのさ」

「なんで知ってるって思ったんですか」

「なんでも知ってる風じゃん」

「『風』って、『風』って何ですか、わたしってそんなに嫌味な性格に見えますか」

「なんで爆発しないのー? ねえなんでー」

「先輩はどう思うんです?」

「そりゃ自販機にスーパーテクノロジーが内蔵されているんでしょ」

「議論をしろ」

「というかどうして炭酸って爆発するの?」

「溶けてる二酸化炭素が勢いよく吹き出すからですね。元々二酸化炭素は水に溶けにくいですけど、冷やしたり圧力をかけて無理やり溶かしてるんです。それがちょっとした衝撃がきっかけで溶けている二酸化炭素がいっぱい気体に戻っちゃうんです。

 炭酸水のペットボトルの形ってお茶とかと違って全部丸い形ですよね? あれって内部からの圧力に強いからなんです。だから多少二酸化炭素が気体に戻ってペットボトル内部の気圧が上がっても爆発しないんですよ。でもキャップを開けると大気圧まで一気に下がるから気圧の関係で一気に吹き上がるんです。液体を巻き込んで『プシュー』って吹き出しちゃうんですよ」

「日本語でしゃべって」

「『スーパーテクノロジー』って言ってた人が何言ってんですか」

「よくわかんないけどそこまで詳しくて自販機の炭酸が爆発しない理由知らないの?」

「振った後にしばらく冷やしたり放置していれば、また二酸化炭素が溶けて吹き出さなくなるんでしょうけど……」

「自販機から取り出した後は冷やしたりしないし、すぐ開けるよ」

「まあ、そうですね」

「それじゃやっぱりスーパーテクノロジーじゃーん!」

「……スマホで調べますか」

「はぁ……結局後輩ちゃんは文明の利器に頼る現代っ子だったかぁ」

「じゃあ先輩は『自販機の炭酸飲料が暴発しない理由』が正しく書いてある本を学校の図書室から持ってきてください……あぁ、ありましたよ」

「なんて書いてあるの?」

「すこしは悪びれろ」

「で、なんて書いてあるの?」

「上から下にそのまま落ちてくるんじゃなくて、途中まで転がりながら落ちてくるから爆発しないんだそうです」

「えーと?」

「途中までは坂を転がってくるだけで、実際に落ちるのは十センチもない高さからだからってことですね」

「つまんな」

「おい」

「真実っていつも残酷だね」

「あ、振っちゃった炭酸が爆発しないようにする方法も書いてありますね」

「え、マジ? なんて書いてあるの?」

「『横にして転がす』……転がした振動で側面についてる気泡を剥がれて水に溶けやすくなるからだそうです。なるほど」

「おー! マジか! 早速試してみよう!」

「……なんでコカ・コーラのペットボトル持ってるんです?」

「さっき自販機で買ってきたやつ! ころころー」

「……振らずに転がしたってことは、来る途中にその手に持ってるコーラのペットボトル落としましたね?」

「ころころー」

「それでこの話題を振ったんですか……素直に自分で調べりゃいいのに……」

「私ガラケーだから無理」

「だからってこんな回りくどい手順踏む必要ありました?」

「それではいってみよー!」

「うおーい」

「いざオープン!」

「……というか先輩の持ってるペットボトルみたいに変わった形してると、地面と接する面積が小さいからあまり効果がな――」

「うぎゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっっっ!!!」

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