第3話 ずぶ沼

 気がつくと足元に沼ができて、ずぶずぶと沈んでいく。近くにいた者が気づいても引き上げることはできず、むしろ一緒に引きずり込まれて消えてしまう。そんな怪異が「ずぶ沼」である。

 昭和の頃は未舗装の道路にできると言われていたが、最近の噂では都市の舗装した道路にも沼ができており、人が落ちた、引きずり込まれたということになっているようだ。道路事情がよくなっても「ずぶ沼」はなくなってはいない。それどころか、ビルの地下街に溜まった水のなかに落ちて人が消えたという話もあり、もはやどんな床もずぶ沼化するのではないかとさえ考えられる。ずぶ沼が最初にできたきっかけや誰がかかわったかなどの付帯情報はいまのところない。

 また、ずぶ沼から逃れる方法も誰も知らない。床の上に落ちている水滴や、横断歩道の凸凹にできた水たまりには踏み込まないほうが良いようである。ずぶ沼に落ちて帰ってきたものはいないのだから。

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