それぞれの秋

John B. Rabitan

天慶三年(940年)3月

 二人の壮年の武将は、浮かない顔の老人と酒を組み交わしていた。

 武将とはいえまだ武士は階級として成立しておらず、軍を率いて東国まで戦をしてきたとて身分は官吏だ。

「さ、修理殿。御酒ごしゅが進みませんな」

 常平太がいくら進めても老人はなかなか杯を口に運ぼうとはせず、押し黙っている。さぞかし気落ちしているだろうとこの老人を常平太は自分の屋敷に招いたのだが、目の前にいわば自分の論功を横取りした二人が座っていては酒も進むまい。そのことは常平太も俵藤太も分かっているだけに、かえって気を使ってしまうのだ。

 この老人――宰相修理大夫は征東大将軍に任じられて都を発ったのだが、坂東の地に到着する前に朝廷おおやけに弓引いた豊田小次郎はすでに目の前にいる常平太と俵藤太に討たれていた。

 今日、春の除目じもくがあって、常平太は従五位上に、俵藤太は従四位下に叙せられていた。しかし、宰相修理大夫は何の論功もなかったのである。

 手ぶらで帰ってきたのだから当然といえば当然だが、入京の際は都人より嘲笑で迎えられたこの哀れな老人を、二人の男はなんとか元気づけようとしていた。

「まあ、小次郎という男も高望みしすぎたのかな。悪いヤツではなかったのだがな」

 俵藤太の声に、常平太も相槌を打った。

「まあ、我われがこの戦を機会に今こうして三人で酒を酌み交わしておるのも何かの縁、我われの子々孫々の代になっても、我われの子孫は相争うようなことはないようにしたいものだな」

 この常平太の話に宰相修理大夫も目を上げて、やっと大きくうなずくと杯を干した。

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