それぞれの秋
John B. Rabitan
天慶三年(940年)3月
二人の壮年の武将は、浮かない顔の老人と酒を組み交わしていた。
武将とはいえまだ武士は階級として成立しておらず、軍を率いて東国まで戦をしてきたとて身分は官吏だ。
「さ、修理殿。
常平太がいくら進めても老人はなかなか杯を口に運ぼうとはせず、押し黙っている。さぞかし気落ちしているだろうとこの老人を常平太は自分の屋敷に招いたのだが、目の前にいわば自分の論功を横取りした二人が座っていては酒も進むまい。そのことは常平太も俵藤太も分かっているだけに、かえって気を使ってしまうのだ。
この老人――宰相修理大夫は征東大将軍に任じられて都を発ったのだが、坂東の地に到着する前に
今日、春の
手ぶらで帰ってきたのだから当然といえば当然だが、入京の際は都人より嘲笑で迎えられたこの哀れな老人を、二人の男はなんとか元気づけようとしていた。
「まあ、小次郎という男も高望みしすぎたのかな。悪いヤツではなかったのだがな」
俵藤太の声に、常平太も相槌を打った。
「まあ、我われがこの戦を機会に今こうして三人で酒を酌み交わしておるのも何かの縁、我われの子々孫々の代になっても、我われの子孫は相争うようなことはないようにしたいものだな」
この常平太の話に宰相修理大夫も目を上げて、やっと大きくうなずくと杯を干した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます