10-5節

 曜子はうずそわしていた。むろん、うずうずしながらそわそわしているの意だが、また、わくうきもしていた。

 気をまぎらわすために、せわしなく家中のあちこちをハタキでさらってみたり、洗濯物をたたんで、広げて、また一からたたんでみたりしたが、思っていたほど時間は経たず、余計にやきもきするのだった。

「奥さま、落ち着いてください。もうすこしの辛抱ですから」

 灌漑がたしなめるも、曜子は身をうねらせて「だってだって」と言う。

「一ヶ月ぶりなのよ。じっとしていられる道理があるかしら。いや、ない」

「反語で訴えるほどですか……毎度のことながら、かないませんな」

 困る灌漑など知らず、女性陣は曜子に加勢する。

「いくつになっても女は女子で乙女っすからねえ」

「そうやねえ。そこは人間も妖怪も関係あらしまへん。わっちも思い出すわあ。人知れず逢瀬を重ねたあの日々……思いびとと会うのにときめかないおなごなんて、どこにもおりません。灌漑はんもそんな頃があったんと違う。皿は潤ってても、今やそっちの方はすっかり渇いてしもて」

「お淀ちゃん、河童は皿が渇いたら死んでしまうのですって。だから仕方ないのよ。すくないものを、色々寄せ集めていかないとね」

「あら、そうでしたねえ。河童というのは不便どすなあ。薄く全体に行き渡らせるわけにはいかはらへんのかしら」

「姐さん、それじゃあきっと、皿から減った分よぼよぼのおじいさんみたいになっちまいます。しかもそれで若い女を求めでもしたら」

「次の日から使用人室が広くなるかもしれまへん。ねえ?」

「にゃむ」

 かしましい女たちの笑い声に、大層げっそりしたが、灌漑はじっと耐えた。

 やがて聞こえた戸の開く音に、皆が玄関に駆けつけると、靴を脱ぎかけで驚く梅之助がいた。

「どしたのみんな、気が早いね」

「だってだって」

 ぶんぶんと腕を振ったが、梅之助が両手いっぱいに抱えた買い物袋を見て、曜子の顔はほくゆるした。

「今夜はごちそうだよ」

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