対峙
9-1節
先日から、何か建てているのは知っていた。家の窓から、日に日に高くなっていくのが見えたものだ。金を持て余した伊豪家が、例えば自宅に置けなくなった美術品の置き場所として美術館を造ってみたり、というのは幾度となく見てきた。
ただ、今回ほど阿保なものを建てるとは思っていなかった。薄鼠色の重厚な門。各階層に備えられた立派な
郊外とはいえ、住宅地に堂々と城がそびえていた。正確には、天守だけが丸々あった。堀もなければ石垣もない。攻め込んでこいと言わんばかりである。
さらには、堂々と表札が出ていた。「風雲唯良乃城」のふざけた名前を見るなり、ひっぺがして叩き割った。
ひとりでに門が開いた。忍というのは通常、正面から浸入はしないものだが、今の麓丸にとって知ったことではなかった。挑発に乗るも乗らないも、細かいことはどうでもいい。血走り、据わった目に映るのはたった一人だけだ。
怒りのままに突撃すると、帯刀した武士や浪人が襲いかかってきた。顔に見覚えがある。正体は唯良乃お付きの執事のようだ。伊豪家の執事はボディーガードも兼任しているため、いずれも屈強な肉体を誇っている。だがそれも関係ない。雑魚どもにかかずらわっている暇などない。
麓丸は印を結んだ。長きに渡る封印が、とうとう解き放たれた。
空気が冷えていく。みるみるうちに、身震いせんばかりの寒さが訪れた。宙空に現れた無数の水滴は、落ちることなく集まり、形を成していく。強度を高めたその氷塊を、麓丸は一斉に放った。高速で飛来する拳骨に、執事らは次々に倒れる。師に憧れ続けた麓丸が得た力は、師と同じ氷遁であった。
斬りかかってきた敵の足元を凍らせ、転倒した隙に仕留める。またある時は、温度を調節し、濃霧に乗じて襲撃した。初めて術を使うのに使いこなしているのは、ずっと嵐蔵の術を見てきたことに加え、使えない身だからこそ夢想してきたからに他ならない。
といっても、感慨などなかった。何も考えられないほど、頭が塗りつぶされていた。敵をなぎ倒し、襖を蹴破り駆け上がっていく中で、麓丸は何度も咆哮した。
「どこだあああああ!」
そしてたどり着いた最上階には、月の光を浴びて立つ、柔和な横顔があった。
「あらロク。奇遇ね」
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