第13話

「陛下、少しいいですか?」

「かまわない。・・・・今日はユーリと一緒だったんじゃないのか?」

執務室ではアルフォンスが手元の書類に何やら書き込みながら、ちらりとフォランドを見た。

「ええ、一緒ですよ。ユーリ、入ってください」

そう言いながら、扉の向こうに手を伸ばせば、その手を取るようにして有里が顔を出した。

「・・・お仕事の邪魔してごめんね。ドレスのお礼が言いたくて」

フォランドに手を引かれて、アルフォンスの前に立つと「どう?」とくるりと回った。

「似合うかな?」

ほんのり頬を染め、はにかむ様にアルフォンスを見つめる。

「・・・・・・・・・・・・・・」

「アル?」

目を見開き、固まった様に動かない彼に、有里は眉を下げた。

「やっぱり・・似合わない?」

先程、フォランドに慰められ気を持ち直したと言うのに、またも顔が俯きかかってしまう。

「ち、違う!」

いきなり叫んで立ち上がるアルフォンスに、有里は思わず傍にいたフォランドにしがみ付いた。

それを見てアルフォンスは、不機嫌そうに眉を寄せると、有里に手を差し出す。

「おいで、ユーリ」

その手とアルフォンスの顔を何度か見た後、フォランドを見た。

彼が、やれやれというような顔で頷くのを確認し、おずおずとアルフォンスの手をとる。

すると、ぐいっと引き寄せられたかと思うと、眩しそうに目を細め有里を見つめた。

「凄く・・・似合ってる」

「本当!?」

嬉しそうに見上げてくる有里に、アルフォンスはどこか切なそうな顔をした。

「アル、どうしたの?」

「いや・・・なんでもないよ」

そう言って、有里の頬に手を伸ばしかけたのと同時だった。

ばんっ!と勢いよく執務室の扉が開け放たれたかと思うと、アーロンが焦った顔で駆け込んできたのは。

「アル!ユーリに何かあったの!?みんなが、ユーリの事話して・・・て・・・って、え?」

アルフォンスの横に立つ有里を見つけ、アーロンは惚けた様な顔をした。

「・・・・・ユーリ・・・なの?」

「どうしたの?私がどうしたって?」

と、有里はアーロンへと駆け寄った。

近寄る有里の顔をまじまじ見つめた後、ぱぁーっと、まさに笑顔を弾けさせた。

「ユーリ!!すんげー綺麗!!マジ、綺麗!!」

興奮したように叫ぶと、有里を抱き上げクルクル回り始めた。

「うわっ!アーロン!落ちる!落ちる!!」

「あははは!落とさないって!それより、すっごい綺麗だよー!」

「あ、ありがとう!そんなに連呼されると恥ずかしいから、やめて~!」

「だって本当の事だもん!めちゃくちゃ綺麗ー!!」

はたから見れば、まさにバカップル。

フォランドは呆れた様に溜息を吐き、アルフォンスにいたっては、機嫌がまさに急降下。

痕がつきそうなほどに眉間に皺を寄せツカツカと二人に近寄ると、アーロンの腕の中から有里を奪い、自分の腕の中に囲い込んだ。

「ア・・アル?」

有里とアーロンは突然の事に目を白黒させていたが、そんなことはお構いなしにアルフォンスは有里を抱きしめる腕に力を込めた。

「えっと・・・アル?」

困惑しきりの有里だったが、らしくない行動に反対に彼を抱きしめるように背に手を回す。そして、子供をあやす様にポンポンと優しく叩いた。

ピクリと彼の肩が揺れ「大丈夫?」と声をかければ、漸く戒めから解放された。

「すまない・・・」

「別にいいけど・・・どうしたの?疲れてる?」

煩くしてしまったか・・・と、有里は申し訳なさそうに、それでいて労わる様にアルフォンスの頬に手を伸ばし、優しく撫でた。

頬に触れる手に己の手を重ね、甘えるように摺り寄せる彼を心配そうに見上げる有里に、アルフォンスは眩しそうに眼を細め、そしていつもと変わらぬ笑みを浮かべた。

「俺は大丈夫だ・・・これから、アークル伯爵と対決するのだろ?」

「うん。ベルが居てくれるから大丈夫だよ」

「そうか・・・・」

そう言いながら何かを言いかけて、躊躇う様に唇を引き締めた。

「有里、今日の夕食の後、少し話がある」

その表情から深刻な事なのかと、有里も表情を引き締め頷いた。

「そんな怖い顔するな。綺麗な顔が台無しだ」

少し揶揄いを含んだその声色に、有里はぷっと頬を膨らませた。

「アルの所為でしょ!」

上目遣いに見上げるその表情は反則なまでに可愛らしく、アルフォンスは再び抱きしめようと手を伸ばしそうになる。

だが、当の本人は「・・・あっ、ベル。そろそろ行かないと」と、まるで猫の様に身を翻しするりとその腕から逃れてしまった。

そして、傍観を決め込んでいたフォランドに慌てたように駆け寄り、その腕を引っ張る。

「そうですね」と言いながら、フォランドはアルフォンスを見て苦笑する。

「取り敢えず、二度とくだらない噂など思いつかない位、おとなしくしていただきましょう」

口調は優しいのに、怖い笑みを浮かべたフォランドの手を引いて、有里は執務室を後にしたのだった。

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