馬鹿島の冒険①(アラフミナの勇者)



異世界に召喚されて3日が経った。


僕が召喚された理由は大災害という脅威からこの世界を護ってほしいからだと初日に国王から伝えられて、それに了承したら朝から夜まで訓練ばかりするようになった。

この世界のやつらは無能ばかりだ。なんでレベルが存在している世界で訓練ばかり行うんだ?普通に考えてレベルを上げた方が強くなれるだろう。

しかもこの世界では武器防具によってステータスが変わるらしいから、強い武器防具を装備して魔物を狩ってレベルを上げるのが一番効率的なはずだ。なのにここ3日は訓練ばかりだ。つまらん。


まぁ武器防具はいいのをくれたんだけどさ。


流石は国王というべきか、凄まじく切れ味のいいうえに攻撃力系のステータスを大幅に上げてくれる剣と防御力系を大幅に上げてくれる綺麗な鎧をくれた。だが、重すぎて鎧は装備出来なかった。現実の鎧がこんなに重いなんて知らなかったよ。


それで、筋力や体力をつけるために毎朝の走り込みや筋力トレーニング。そのうえ木剣を使っての戦闘訓練までさせられる。僕は運動が嫌いだっていうのに強制させやがって。

レベルを上げればステータス値が上がって、あんな鎧くらい簡単に着れるようになるだろうにそんなこともわからない無能ばかりで腹が立つよ。


いや、1人だけ話を聞いてくれる子がいたな。この国の第三王女のローウィンス。いわゆるお姫様だ。彼女は可愛いうえに頭もいい。唯一僕のいうことを理解してくれる。


この前も僕の意見を取り入れて、マッドブリードとかいう魔物退治に同行出来るように手配してくれたみたいだ。でも出発前に確認したらマッドブリードがいなくなってたとかで中止になったんだけどさ。


それで、また訓練漬けの日々に戻りそうになったところで文句をいったら、今度はお忍びで魔物退治の予定を組んでくれた。

パーティーがまだ揃っていないから本当は王城から出ることを許されていないらしいが、彼女がなんとかしてくれたらしい。


代わりに今回の魔物は雑魚代表のスライムらしいけど。

まぁ戦闘訓練にはならないだろうけど、僕はまだレベル1だから十分にレベルが上がるだろうし、ちょうどいいか。


今回同行するのは男が4人に女が1人。本当は僕以外は女の子で揃えたかったけど、ローウィンスにそんなこといって機嫌を損ねられたら困るから我慢した。彼女は勇者である僕の婚約者候補なんだけど、ハーレムは許容できないタイプみたいだからさ。彼女をキープし続けるためにはあからさまにハーレムを目指してる姿勢を見せるわけにはいかないから少し面倒くさい。だけどあんな可愛い子を手放すのはもったいないから、我慢しなきゃな。


それに僕が心配だからかお目付役をつけているのも面倒だな。これじゃ無双できないかもしれない。


まぁしばらくは従って安心させて、お目付役がいなくなってから好きにすればいいか。






僕が住んでいる王都を東に歩いて1時間ほどのところにある森にスライムが大量発生しているらしいという情報をローウィンスが手に入れたらしく、僕たちはその討伐に来ている。


ほとんどのスライムは物理耐性や物理無効を持ってるのになぜか小さいのなら踏むだけで殺せるという雑魚だ。だから1体2体を倒したくらいじゃたいしてレベルが上がらないからとローウィンスがちょうどいいところを探してくれた。さすがは僕の嫁候補だ。


狩人経験のある無精髭を生やした男が警戒しながら先頭を進み、お目付役の鎧を着たおっさんが一番後ろを歩いているから、僕らはとくに警戒もせずに歩いてるだけでいいから暇だ。だからここにはいないローウィンスのことを考えてしまっていた。

それにしても可愛い子だよな。日本にいた頃の僕じゃあんな可愛い子と喋ることすら出来なかっただろうし、異世界召喚様様だよ。しかもテンプレ通り召喚されただけで勇者とか最高かよ。まぁ召喚されたのにチートスキルがないのは予想外だけど、レベルやスキルがある世界みたいだし、ゲーム知識のある僕なら簡単に強くなれるだろう。


家も学校も嫌いだったから異世界召喚されないかなといつも思ってたことが現実になって幸せすぎる。


ここでは僕を虐げる存在はいないし、みんな必要としてくれる。


だから僕はこの世界でハーレムを築いて幸せになってみせる!


そのためにはローウィンスをなんとか説得しなきゃなんだけど、大災害とやらを僕の力で乗り越えたらローウィンスもハーレムくらいで文句はいわなくなるだろう。


「勇者様。」


ハーレムを築く未来を妄想しながら歩いていたら、無精髭の男に呼びかけられて現実に戻された。


「どうした?」


「まだ距離はありますが、複数のスライムを見つけました。大きな個体がいますが、どうしますか?」


男の位置まで移動して、真似るように木に体を隠しながらスライムたちの確認をした。


たしかに僕の胸くらいまでの高さがあるスライムが一体だけいるな。

某ゲームのスライムみたいに顔はないけど、あの丸っこい薄水色の存在はスライムとしかいいようがないだろ。

周りに複数いる人の顔くらいのサイズのスライムが普通のスライムだろうから、デカいのはキングスライムとかだろうか?でも雑魚に変わりはないだろ。


いや、そういえばスライムは変わったスキルを持ってる可能性があるから気をつけるようにってローウィンスがいってたな。特にサイズが大きいのには注意だったっけ。

じゃああのスライムは間違いなく注意するべき対象だろう。でも僕にはこの王様からもらった剣があるから、そこまで慎重になる必要はないか。


「とりあえず雑魚が邪魔だから魔法で一掃してほしいんだけど、コロネに頼んでもいいかな?」


このパーティー唯一の女の子である魔法使いのコロナがどんな魔法が使えるかを僕は知らない。でも、魔法使いなら殲滅魔法くらい使えるだろうと頼もうとしたら、困ったようにオロオロし始めた。


「ごめんなさい。範囲攻撃の魔法はまだ覚えてないです。」


そういえば魔法使いといってもメインはヒーラーだったっけ。攻撃魔法も最低限は使えるらしいけど、あくまで最低限だっていう話だったことを思い出した。


「そしたら…。」


いっそ正面突破でもしようかなと考えていたら、革鎧の男と目があった。


「範囲攻撃でスライムの数を減らせばいいんですよね?俺がやりますよ。」


こいつはたしかCランク冒険者だったっけ?なんか珍しいジョブについているから選ばれたとかそんなやつだった気がする。名前はなんだったか…そのうち覚えればいいか。


というか、どうみても遠距離攻撃手段を持ってなさそうなんだけど、なんでこんなに自信満々なんだ?

顔もいいしなんかムカつくけど、やらせてみるのもありかもしれない。それで指示と全然違うことをやったら馬鹿にすればいいし、うまくいったらいったで問題はない。


「じゃあ雑魚は任せる。デカいのは僕がやるからみんなは援護をよろしく。」


「「「「はい。」」」」


僕は腰にある剣を鞘から抜いて用意した。

重たくて振り回すのはまだ難しいけど、鉄すらも切れる剣だから当てれば殺せるし、問題ないだろう。相手は雑魚のスライムなうえにあれだけ的が大きいのだから。


僕たちよりも前に出た革鎧の男にチラリと視線を向けると男は足で踏ん張るように腰を落とし、手の指を組むようにして両手を合わせて前に突き出した。


何をするつもりだ?


疑問に思って見ていたら、男のガントレットをしている両腕からオーラのようなものが出てきた。身体強化のスキルか?ちょっとカッコいいな。


「龍の息吹!」


男が急に叫んで両手首をつけたまま手のひらを開くと、両手のひらの間から炎が吹き出した。

これが炎じゃなくて光線だったら、完全に某アニメの必殺技じゃんか!


というか後ろにいる僕まで熱いんだけど⁉︎


我慢できない熱さではないけど、少し離れようと思って一歩後ろに下がったら、大盾使いの男が革鎧の男と僕の間に入って大盾を構えた。なにしてんの?って思ったら、急に熱くなくなった。もしかしてこいつは熱を遮断できるのか?だとしたら使えそうなやつだな。

男だからなんの遠慮もなく攻撃を任せられるし、男だけどパーティーメンバーとして確定させてもいいかもな。たしかEランク冒険者だったからそこまで強くはないかもしれないけど、しばらくは役に立つだろう。


大盾の男の背中を見ながらそんなことを考えていたら、革鎧の男が放った炎が消えた。

ヤバい。次は僕の番だった。


急いで剣を持ち直し、走ってスライムに近づく。

さっきまでそこそこいた普通のスライムの数はだいぶ減り、大きなスライムは表面がドロリとしていた。

邪魔はある程度片付いたし、親玉はダメージを受けてはいるみたいだけど、死んでないからちょうどいい。


僕が親玉スライムに近づくにつれて、少し残っていたスライムたちは蜘蛛の子を散らすように逃げだしたが、とりあえずは無視して親玉から殺す。


「死ねーーーーっ!!!!!!」


剣を振り上げて振り下ろす。


ど真ん中で真っ二つに切るつもりが、剣の刃が少し斜めってしまったみたいで、叩きつける衝撃を少しだけ受けたあと、スライムを斜めに切り裂いた。


凄え!ちょっとミスったのになんの抵抗もなく切れる!


勢いそのままに地面まで切りそうになったから、必死に剣の勢いを止めて、スライムを確認した。


あまりにも綺麗に切りすぎたから、どこを切ったのかわからないや。…いや、既にくっついてるみたいだ。もしかしたら回復系のスキルを持ってるのかもしれない。

だったら回復しきれないほどの攻撃をすればいい。


地面スレスレまで振り下ろしていた剣を少し持ち上げ、スライムに向かって走り、すれ違いざまに胴切りをした。


やっぱり綺麗に切れるけど、スライムにダメージを受けた様子がない。ならもう一度と足を止め、振り向きざまにフルスイングでスライムを切ろうとしたら、刃が完全に縦向きになってしまった。だけど今さらどうしようもないからそのまま剣の腹で打ちつけることになった。


バチンッ!


僕の剣が当たると水を叩きつけたかのような音が響き、スライムが弾けた。


「…え?」


これで終わり?


いや、なんか散らばったスライムの破片が蠢いて集まりだしてるぞ⁉︎気持ち悪っ!


「勇者様!離れてください!」


急に声をかけられて振り向いた先には革鎧の男がいた。

もう少しで倒せるのになんで離れなきゃいけない?もしかしてスライムが危ないスキルを使う前兆なのか!?


今は王様からもらった鎧を着てないから、いくらスライムの攻撃でも、受けたら怪我ではすまないかもしれない。指示されるのは癪だが、従っておくか。


小走りでコロネがいるところに移動してから振り返ると、革鎧の男がバラバラになっているスライムに向かって何かを投げた。


何してるんだ?


その何かからはさっきの革鎧の男の腕と同じようにオーラのようなものが滲み出ている。


そして、その何かが地面にぶつかった瞬間、バヂッという耳障りな音を響かせて、スライムの破片を繋ぐように紫電が走った。


音も光も一瞬のことだったけど、さっきまで蠢いていたスライムの破片は煙を上げて動かなくなった。


こいつは僕の獲物を横取りしたのか?

そんな指示は出していないのに勝手なことをしやがって…僕があと少し戦っていれば倒せた相手なのにいいとこ取りとか最低だな。


「あの、今のは魔法ですか?」


僕の邪魔をした革鎧の男に文句をいおうと思ったら、先にコロネが革鎧の男に話しかけた。


「いや、今のが前に話した面白いスキルだよ。武器防具に使われてる素材の生前のスキルの一部が使えるようになるんだ。」


「魔法を使わなくても今みたいな戦い方が出来るって凄いですね。」


「スキルのおかげなんだけど、戦い方に関してはこれでもCランク冒険者として魔物と戦ってきてるからね。」


「これでもだなんて!さすがだと思います。」


なんか2人で盛り上がってて面白くないな。


たしかにスキルとかは使えそうなやつだけど、僕のパーティーの女の子に色目を使うような男は邪魔なだけだ。こいつは今回限りで外れてもらうようローウィンスに話さなきゃな。もともとコロネ以外は臨時パーティーだし大丈夫だろ。


パーティーに加えない理由は指示に従わないからで十分だろ。


「スキルの話なんてあとでいいだろ!逃げたスライムを追うぞ!」


「「すみません!」」


僕が語気を強めて話を遮るように注意すると、2人は素直に謝罪して頭を下げてきた。その姿を見て少しだけ心のモヤモヤが解消された。


「あっちの方向に一番多く逃げましたね。あとは単体で各方向に逃げていきましたが、どうします?」


無精髭を生やした男が確認をしてきたが、どうするか。手分けしてスライム狩りをするのが早いんだろうが、森の中はスライム以外にも魔物がいて危険だからパーティーで行動することをローウィンスに約束させられたんだった。ここで無理に手分けして探すことにしたらお目付役に止められるだろうし、下手したらまた稽古だけの日々に戻りかねない。それは面倒だ。


「じゃあ一番多く逃げた方に行こう。」


「「「「はい。」」」」


もしかしたら別のスライムの集団に会えるかもしれないし、単体で逃げたスライムのことは諦めて経験値稼ぎを優先することにしよう。


魔物のくせに逃げる雑魚スライムども!今回は見逃してやる。ありがたく思え!なんてな。


そんなことを考えながら、僕は無精髭の男について、森の中を移動し、夕方になるまでスライム狩りをすることになった。


おかげでレベルが12も上がった。


楽々とレベルが上がったことで機嫌が良かった僕は、森を出たところで水たまりを踏んでしまっても不快にはならなかった。

けっこう勢いよく踏んでしまった気がしたけど、全く靴が濡れなかったから気にすることなく町へと帰った。

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