第77話

「変則的に攻めるからね! 酔わない様に気をつけて!」


「了解!」


 一番槍と言わんばかりにクリスティーナによる雷が放たれる。


 先程同様にオスカーの指先に込められた雷によって軌道を逸らされてしまうが、それでもと引き続き追撃の雷を放つ。


「無駄だ」


「それはどうでしょう?」


 突如としてオスカーの背後に出現するクリスティーナ。正面から迫る雷と挟まれる形となってオスカーを襲う。


「だとしても、無駄だ」


 地面が隆起しオスカーの全身を覆う岩の防御として雷撃を防ぐ。


「ラッセル! ヨロズ!」


「任せろォッ!」


 極大の炎と水が岩壁に閉じ籠ったオスカーを襲う。岩が砕け散り、高熱と寒冷により乱気流の嵐に晒される。


「『重星』」


 先程と同様に二人の攻撃はすんでの所で止められ、虚空へ消える。


「芸が無いねっ!」


 ミユキから放たれるのは一条の光。ただ貫く事に特化した光の矢。重力の壁に突き刺さりながらも直進を続ける。


「無駄だと言っている」


 重力の壁に阻まれ減衰した光の矢はオスカーの肌を貫くには至らない。反撃の衝撃波が放たれ、部屋全体を揺らしながらミユキへと突き進む。


 突如としてミユキの姿が消え、背後から感じ取った気配によりオスカーは全力でその場を飛び退く。


 灼熱、水流、雷霆、それら全てが合わさった波状攻撃。自然災害をそのまま持って来た程の破壊力は儀式の間の全体を軋ませる。


「『遠近法アポーツ』」


 ミユキの追い打ち。五感をずらす星屑術により前後不確かな世界へと叩き落とされる。


 オスカーは即座に回避行動を諦め防御の姿勢に移る。岩壁により自身を閉じ込め、重力の壁で外側を覆い尽くす。空圧を操作し風の壁を、磁力を操作し砂鉄の壁を、絶対に突破不可能な最強の防護壁を築いて見せる。


 当然とも言うべきか、三人の放つ攻撃は全て防がれ完封される。


「『大地の突槍アーススキュア』!」


 オスカーを守る一番下層の岩壁に狙いを定め、その内側から岩の槍を幾重にも出現させ刺し貫く。


「手応え――――ないよねぇ……」


「中々に厄介だな」


 防壁を自ら破り捨てる様にして姿を晒す。その体には傷一つ無く、衣服の乱れすらありはしない。


 オスカーはジューダスへと視線を向ける。


「時間停止による多方面からの連携攻撃、見事な物だ。賞賛に値する」


「それは有り難い」


 停止した時間の中を駆け回り、攻撃を行おうとする者をまったく別の位置に移動させる。認識外からの攻撃、攻撃する側すらも翻弄される恐るべき能力。


「貴様を信じ、全力で攻めに移る。ああ、よくぞここまで上り詰めた。認めよう、貴様らは強者だ」


「ははは、そうだろう。いつもニルスが目立ってたけどさ、僕らも案外捨てた物では無いんだよ」


 僅かに感じる時が削ぎ落とされた感覚に陥り、オスカーは即座に横に回避する。


 降り注ぐ雷、回避した地点を狙い撃つ水の大砲。手足を絡め取る岩石の鎖、無理に回避をしようと飛び込めば炎の竜に喰い破られる。拘束され、回避ルートを潰される。


 これぞ七星の全力の連携。それを統べる時の王者。防御行動を取る為に岩壁の中へと潜もうとしたその時――――。


「――――遅いッ」


 ジューダスが飛び込んで、いいや、時間を止めて既にその場に存在していた。手に握られたナイフは光の波動に満ち溢れている。あらゆる物を切断する光の刃、かの英雄が使う光刃の劣化コピーをミユキにより付加された代物。如何に劣化であろうとも、たかが硬化された程度の皮膚ならば容易に両断できるだろう。


「ああ――――本当に、素晴らしい程に……」


 回避不可能、防御不可能。この場の誰もが勝利を確信した。


 ――――瞬間。


「当たり前の様に――――優等だ」


「――――、ッ!?」


 即座に死の気配を感じ取ったジューダスはその場の全員を引き連れ儀式の間から外へと飛び出す。


 吹き荒れるのは地水火風、磁力、重力、光と闇、ありとあらゆる反発した属性同士が互いを拒む事無く共存している。


「ようやく、慣れた。貴様らの全力に、三百二十二の全力で相対しよう」


 万物を掌握する光の魔人が姿を覗かせる。


「……化け物め」


「アレに飛び込むのかよ……おお、こわっ」


「軽口叩けてるうちは心配なさそうだね……」


 目の前に存在するオスカーこそ星光体を束ねた化け物。この力さえあれば六残光とも並び立つ事が出来るだろう。


「皆の力が、願いが、我に力を貸すのだ。この世に蔓延る魔という病を滅ぼす為、我は止まらぬ、必ず世界に平和を取り戻して見せる」


「それは、少し独り善がりなんじゃないかな?」


 言葉を交わす隙にも攻撃の手を決して緩めない。最大の連携を発揮し、オスカーと言う巨星を撃ち落さんと奮闘する。


「誰しもが魔滅を叫んでいる訳じゃ無いだろう。大衆には大衆の、細かく言えば個人には個人の願いがあるだろう。恋人が欲しい、お金が欲しい、仕事を休みたい、旅行をしたい、それこそ願いは千差万別だ。それら全てを摘み取り、魔を滅ぼすだって? 少し、周りが見えていないんじゃないのかな?」


「しかし究極を言えば魔王の滅びを願っている筈だ。そうすれば、光り輝く未来が開ける。今の世の中が続けば魔王に滅ぼされるのみ。未来の恐怖から目を逸らし、ただのその日暮らしの生活をこそ尊べと、何故言い切れる」


 連撃は止まらない。暴虐の嵐が吹き荒ぶ。


「今日、数時間後、はたまた明日死ぬのやも知れんのだぞ? そして魔王に全てを殺される未来が待っている。ならば一部の人間が人としての僅かな時間を我に捧げる、我は本気だ、三年で必ずケリを付けよう。時間さえ捧げれば良いのだ、我はその全ての星に報いよう。必ず大願を成し、世界に平和を齎すのだ」


「グゥッ!?」


 反属性の嵐、防御一辺倒であった先程の行動とは一転、防御しながらの攻撃。防御と攻撃にそれぞれ五十以上もの星が用いられ、それを補助する形で無数の星が控えている。


 それでもと地を踏み、ジューダス達は立ち上がり続ける。


「誰も願っていないんだ! 心の何処かで魔王の死を願っていても、本気で願えている奴なんて少数しか居ない! 皆今の生活で手一杯で、それでも今日を生きる為に頑張っているんだよ! 今を生きる人間に、そんな余力は残されていないんだ!」


 疲れ切っている、今しか見れない見たくない。それは当然の思想だ。誰がそんな大層な願いを抱えながら日々の生活を送れるものか。そんな事が出来るのは一種の堅物のみである。


「では、どうしろと? このまま緩やかに滅びの時を待つと言うのか。疲れているから、忙しいから、確定した滅びへと緩やかに進もうと? 馬鹿を言うな、それでは生きているとは言えんだろう? 弱音を語るのは結構だが、立ち止まる事は許容せんぞ。力を持つ者は弱き者を守るべきだ」


「――――ああ、そうだな。その通りだともっ!」


 全方位波状攻撃。炎、水、雷が何層にも重なりオスカーを包み込むが呆気なく敗れ、砕け散る。


「民を守る、それが僕達の使命だろうっ! 例え魔王が相手だって、いつか必ず僕達が倒してみせる! それが軍人としての役目なのだから!」


「無理だ。今の我に苦戦を強いる貴様達が、人生を賭けた所で奴らの歯牙にも掛からんだろう」


「それでも――――っ!?」


「この続きは、それを抜け出してからするといい」


 先読みによる先読み。全ての攻撃を巧みに躱すジューダスをじわじわと追い込み、遂に炎の嵐の中に封じ込める事に成功した。


「ジューダスッ! ――ガッ!?」


 目の前に迫り来る暴虐の嵐に飲み込まれ救援は不可能。


 ジューダスは思考を巡らせ解決策を模索するが、それを嘲笑う様に炎の壁は止まらない。


「クソッ! ここまでかッ!」


「――――いいや、まだだ」


 死を覚悟したジューダスに救いの手が差し伸べられる。


「『戦星ヴァルキュリア水船ナグルファル』」


 炎の壁を突き破り、ハリベル・キリュウがその姿を見せる。


 愛用のフランベルジュを歪なサーフボードの様な形に変形させ、水流を発生させながら炎の中を突き進む。


「中々良いことを言うじゃないか、色男」


「はは……お久ぶりですね……ハリベル嬢」


 ハリベルにお姫様だっこの状態で抱えられ、ジューダスは僅かな羞恥を感じつつも戦線の把握に注目する。


「案ずるな、助太刀は私だけでは無い」


「『勇星ブレイブサーガ悪逆の歯車アンラマージュ』!」


 迫り来る暴虐の嵐の前に、悪逆の歯車が牙を鳴らす。


「――――イッ、ツゥッ!?」


「――――ぬぅ!」


 地水火風の攻撃をそのまま直接体に返される。ありとあらゆる防御手段を貫通し、ようやくオスカー自身にダメージとして蓄積される。


「勇者……か」


「よくもやってくれたな……絶対に許さない。生き果せると思うなよ」


 反逆者としての本質を剥き出しにしたユーリが、オスカーという星の支配者の前に立ちはだかる。


「さあ、反撃開始だ」

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