第43話
「ガァッ––––イッテェ……。マジで蹴りやがってよぉ」
フリーマーを沈めた後、ラッセルは鼻を鳴らし、中に詰まった血を外に吐き出す。
「随分と遅かったじゃないか」
「悪ィな。ちぃとばっか寝不足でよ」
軽口を言い合う最中にも一時の油断も見せない。フリーマーが吹き飛んでいった家屋の先を警戒し続ける。
––––瞬間。
「––––来るか」
脈動するフリーマーの亡骸。その姿はまるで一つの生物の心臓の様に鼓動を奏でる。
「––––油断するな」
流れ出る黒い泥。二人は警戒し、戦いの準備を始める。
爆ぜる肉体。血潮と泥を撒き散らしながら、フリーマーの亡骸は再誕する。
「……これは」
迸る青い閃光。稲妻を体に纏わせ、土煙の中から姿を現す。
黒に覆われた人影。僅かながらにフリーマーの面影を残しているそれは、一つのみ存在する黄金に輝く左眼を二人に向ける。
「獣になる訳じゃねェんだな」
「人によって、与えらえれた部位によって変化は様々……ってとこかな?」
ラッセルは全身に火炎を、ミユキは両の手に星光を溜めて、フリーマーとの再戦が始まる。
「オラァッ!」
初撃を飾るのはラッセルの灼熱の蹴り。地面のレンガを焦がしながら、フリーマーへと打ち放つ。
「なっ!?」
フリーマーが行ったのは、ただの棒立ち。防御行動など起こす事も無く、ただ茫然とその一撃を受け入れる。
腹部に炸裂し、爆炎を解き放つ。しかし、その全てを受けてもフリーマーは狼狽える事無くラッセルを捉え続ける。
「離れろッ! 『
ミユキから放たれる二双の水槍の星屑術。後退するラッセルと入れ替わる様にしてフリーマーに直進する。
「––––『
地獄の底から這いずり出て来るような囁き声。
青の光が広場を満たす。
「––––あっ?」
「……が……ああ?」
気が付けば、空を仰ぎ見るように地に伏す二人。雲の流れは緩やかに、地上の騒動の事など何知らぬ顔で悠々自適に泳いでいるのが目に入る。
二閃、光が迸る。ほぼ同時に二人の腹部目掛けて青い稲妻が叩き落とされる。
「ッッ!? ––––––アアァァァァァッ!?」
腹部の衝撃に目を覚まされたように、全身に激痛が奔る。四肢がへし折られているのを自覚する。全身に無数の打撲痕が刻まれているのを感知する。
痛みにのたうち回り、地を転げ回る。
「クズは……所詮……クズナノダ……」
機械的な声色。そこにはただ、怨みの感情のみが伺える。
「ニルス……ニルス……『
アステリオ最強の男の名を口にしながら、フリーマーは空高く跳躍する。
「––––さッ––––せるかあああああああああッッ!!」
ミユキの咆哮。満身創痍の肉体に鞭を打ち、地面を強く殴り付ける。
地に敷き詰められたレンガが砂状に溶け、無数の鎖となってフリーマーを捕らえるべく展開する。
頑強な岩鎖へ姿を変え、崩壊した家屋の瓦礫すらも利用しフリーマーを狙う。
「クズは……上ガレナイ。キエサレェッッ!!」
広場を埋め尽くすのは極大の雷。全てを滅ぼす雷に晒されながら、二人の意識はそこで途絶える。
轟音が、空気の炸裂音がアステリオ全体に響き渡る。破滅の雷を放った本人は、怨みの言を発しながらトリスタイン城へと跳躍する。
「アレだ……アレダ、アレダアレアダアレダッ!。ニルスゥ……ニルスゥッ…!!」
その星が羨ましい、その星が妬ましい。何故自分に宿らなかったのか。自身の精神の何がいけないのか。八つ当たりにも似た怨みを抱えながら、フリーマーは街の住人が避難している地区にまで足を踏み入れる。
城壁の上、民を護る為に、無敵の男が立ちはだかる。
ただ一振りの刀を地面に突き刺し、杖を持つ様に手を重ねる。双眸が貫くのは黒青の輝きを放つフリーマーのみ。
「ニルス・レゼレクスゥゥゥゥゥゥゥッッ!!!」
史上最強の星光体を目にしたフリーマーは激昂する。今までに見せた事も無い様な出力、跳躍の為に蹴り上げる家屋の屋根が砕ける。空中に飛び上がり、雷速を超える蹴りを叩き込まんとする。
ニルスは、ただ見据え、それが当然の様に、いつもの様に刀を構える。
「『
鈍く、低く、謳い上げる。自身の星を呼び起こし、最強の力を外敵に撃ち放つ。
放たれるは黄金の光。刃をなぞる様に、無敵の光の一刃は突き進む。
アステリオの上空を全て埋め尽くし、外敵を滅ぼす鋼の光。
「アアァァァァァァァァァァッッ!! ニルスゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥッッッ!!!」
断末魔ごと光に飲まれ、フリーマーに完全な死が訪れる。
民は見上げる、光の星を。安心感、従属感、ああ、この男が居れば大丈夫。アステリオは永久不滅。誰もが信じ、彼の星の懐に存在するという誇らしさに胸を躍らせる。
「恐れるな、オレが居る! 皆の平和は奪わせんッ!」
見上げる民の歓声が上がる。
ここに、祝祭を襲った一つの騒動の幕が下ろされる。
––––
「伝えなくてはっ! 逃げなくてはっ! フリーマー隊長……っ!」
アステリオ王国を離れた森の中、一人の男が駆け抜ける。
「おっと、其処までだ。止まって貰おう、スヴァルトの勇士よ」
「ヒィッ!?」
今回の襲撃部隊の後方に待機していた最後の要、エスファガイツを呼び止めるのは凛と澄んだ声。
「先ずは名乗ろう、我が名はハリベル・キリュウ。君の様な者には馴染みの無い名だろうが、どうか心に留めてくれ」
戦場を駆ける戦乙女。戦闘力であるならば、アステリオにおいては第二位に属する女性。ハリベルは愛用のフランベルジュを構え、悠々自適に相手を見据える。
「うっ! うわあああああああああッ!!」
「おいおい、挨拶も無しか。これは困った」
一心不乱に腰のナイフを抜き出し、ハリベルへと飛び込んで行く。
「まだまだ、伸び代がある。良い太刀だな」
まるで子供の玩具を取り上げる様に、優しく、それでも無慈悲に、ハリベルの剣はエスファガイツのナイフを跳ね飛ばす。
「共に来てもらおう。今回の件、陰謀、洗いざらい全て吐いて貰おう」
「くっ、くそぉっ!!」
ハリベルの腕が伸びるが、そんな事はお構い無しと、自身の舌を噛み切る。
「お––––おっ––––ぼぉ––––がぁ……」
「しまった!?」
星骸者、その真価が発揮される。
血潮と泥を撒き散らし、黒の獣が森の中で咆哮を響かせる。
「やはり……捕らえる事はままならんか……」
ハリベルは呆れた様に刃を構え直し、黒の獣を見据える。
「『
静かに星の名を奏でる。
獣の一撃。地を裂く程の強烈な攻撃を上に避け、降下しながら剣を振るう。
「『
ハリベルの髪が灼熱の赤に変色する。刃に纏った炎で黒の獣を一振りで焼き滅ぼす。
「さらばだ、名も知らぬ勇士よ」
炎が掻き消えた森の中、ハリベルはアステリオを目指す。
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