第42話
「ブッ飛べェ!!」
「何と単調な事か」
ラッセルの攻撃をいとも簡単に回避し続けるフリーマー。反撃と言わんばかりに電気を纏った蹴りを放つ。
「……先程から、堂々巡りですね」
フリーマーの蹴りが届く前にミユキの鎖が絡め取る。
「だったら素直に投降するんだね。それとも、前の奴らみたいに自害でもして見るかい? そうすれば強くなれるんだろ?」
「それも手ですね……しかし、貴方方には、コチラで十分でしょう」
フリーマーの左目、星神の眼から零れ出す闇の光。増幅し、世界に侵食し、全てを屠らんとその力を顕現させる。
「『電星』」
「――――ヅゥッ!?」
「ラッセルッ!」
文字通り、完全に姿が消えた。見失うではなく、消えた。そこから繰り出されるフリーマーの蹴り。雷速を操るフリーマーの得意とする磨き抜かれた蹴り技。
家屋を突き破り、爆発にも似た衝突音が鳴り響く。家々を吹き飛ばしながら止まらぬ肉の弾丸と化し、終点の納屋へと叩き込まれる。
「――――余所見をしている場合ですか?」
「知ってるよッ!」
二撃目、ミユキを狙った蹴りは、彼自身が張った星屑術により阻まれる。
「中々、やるではないですか。六十点」
「そりゃあ、どーもっ!」
完全に感覚に頼った防御行動。フリーマーの攻撃パターンを分析し、運良く防御出来たに過ぎない。
「それでは……これはどうですかッ!」
フリーマーの全身に稲妻が迸る。左眼から溢れる黒金の輝きと織り交ぜられた青い閃光。ミユキは構えるが、一瞬にして姿を見失ってしまう。
「ぐぅっ!?」
「これも防いだ! 七十点!」
原理は単純。ただの速い蹴り。しかし回避は不可能、防御も困難。感覚で防ぐのにも限度がある。
「もう一段回、加速します。これを防げたなら八十点を上げましょう」
「嬉しいねぇ……!」
フリーマーが消える。突如として巻き起こる破壊の嵐。家屋の壁が幾多も砕け散る。目に映るは青い稲光のみ。
ミユキは思考をフルに回転させる。砕けた壁の位置、稲光の光跡、フリーマーの今までの攻撃パターン。
「『
光の鎖を展開、移動ルートを絞り、攻撃を単調にさせる。その間隙を縫ってくるであろうフリーマーを迎撃する。
「『
放たれるは白銀の光。単純、故に最速。標的に目掛けて突き進む。
決まった。確実に捉えたという確信がミユキの脳内を駆け巡る。
––––しかし。
「悪くない、ですが……三十点」
「––––ガッ!?」
気が付けば背後から走る衝撃。背中に強烈な飛び蹴りが繰り広げられ、ミユキは家屋の先へと吹き飛ばされる。
「まだまだ、この程度では無いでしょう?」
吹き飛ばされ、地を転がるミユキの先に現れるフリーマー。二撃目の蹴り、先程と同じようにしてミユキの体は玩具の様に吹き飛ばされる。
何度も、何度も、吹き飛ばされては蹴り飛ばされ、ミユキの体を弄んでいく。
「七星と言えど……この程度ですか」
「ガッ––––––ハァ––––!」
俯きながらミユキは口内に溜まった血液を吐き出す。膝に手を突き、よろけながらも立ち上がる。
「これが……気になりますか?」
自身の眼を差し、語り掛ける。
「ああ……是非とも知りたいね。教えてくれるとありがたい」
待ってましたと言わんばかりに、フリーマーは不敵に笑う。
「『
「ヴォイド……シフト」
「星神の骸、その最大出力を叩き出す。所謂、本領発揮という奴です。この力があればどんな屑星でも煌めく事が出来る。我が輩の『電星』も、貴方の『水星』すらも」
「……ああ?」
悠々自適に語るフリーマー。己がミユキの逆鱗に触れた事も知らずに、お前は自分と同じ屑なのだと嗤ってみせる。
「おやおや、事実を突き付けられて怒る気持ちは分かります。しかしですね、我々は屑だ。輝く星々の隅に位置する、決して輝けない日陰の星。我が輩には『雷星』という完全な上位互換が存在し、貴方は……ふっ、ただ星屑術を系統無視して行使できるというのみ。これを屑と呼ばずに、何と呼ぶのです?」
「……黙れよ」
「『明星』に至っても、運の塊だ。いくら自身の精神性に影響するとはいえ、あんな星を手に入れる事さえ出来れば誰だって英雄の座に至れる。この世は所詮、運なのですよ」
「……黙れって言ってるんだよ」
「黙らせればよろしいでしょう?」
何度も繰り出された背後に回り込んでの回し蹴り。フリーマーは吹き飛ぶミユキの姿を夢想し、悦に浸る。
――――しかし。
「なっ!?」
今までの防御とは違う。刺し貫く棘を生成し、それを星光の盾に貼り付けた。蹴りを放った足は当然貫かれ、辺りに血潮を撒き散らす。
「この世は……運なんかじゃ無い」
「このッ!」
またもや死角から放たれるフリーマーの攻撃。
「読み易い。単純。研鑽を積んでこなかった証拠だ」
拳は放つ前に鎖に絡め取られ、壁に叩き付けられる。
「馬鹿なッ!? この眼は全ての攻撃を予測する! それなのに何故ッ!?」
「君の攻撃は……全て読ませて貰った」
突如としてミユキの影から現れる新たなミユキ。怪我で重症な状態のミユキは影に溶ける様に消え去り、新たに五体満足のミユキが不敵に笑う。
「『
「ば……馬鹿なッ!? 我が輩は全ての攻撃を見通す星神の左眼を持っているのだぞッ!」
「見えていないからだよ。自身の攻撃に夢中で、反撃がくるなんて思ってもいない。だから予測が見えても反応できない。雷速如きで狼狽えるのなら、七星なんて名乗ってないのさ」
「黙れッ! 小細工しか使えぬ屑星の分際でッ! 我が輩は変わったのだッ! 力を、手に入れたのだッ! 貴様如きに――――」
フリーマーの言葉を遮る様に口を鎖で拘束する。
「見えていない、君には、何も。自身より出来が良い人間はね、必ずしも努力を欠かしていないのさ。スタートラインこそ違えど、誰しもが努力し、上へ上へと駆け上がる。君みたいに文句も言わず、それが当たり前であるかの様に、目先の力に躍らされる事無く、ただ自身の力を研鑽し続ける」
「ガッ――――アァッ!?」
「だけど、届かないとは思わない。同じ人間として、男として生まれた限り、そこに憧れ、目指すのさ」
たとえ後から現れる者に追い越されようと。目標が高く高く飛翔し続けようと。
「ああ、それと。君の言う『雷星』。彼女も最初は弱かったよ? ただ、努力の仕方が上手いんだ。自分の弱みを徹底的に炙り出し、研鑽を続けて、ようやく今程の力を手に入れたんだ」
フリーマーを拘束した鎖に亀裂が奔る。激昂し、己の力を最大限にまで上昇させ、遂に拘束を打ち破る。
「我が輩は無敵なりッ! 全てを見通し、雷の裁きを下すものッ!」
今までで一番の速度。青い閃光と化し、必殺の蹴りを打ち放つ。
「ほおら、やっぱり、見えてない」
ミユキの背後から鳴り響く爆音。ミユキが姿勢を低くした瞬間、フリーマーはその爆音の正体にようやく気が付く。
「『
爆炎を身に纏うラッセルが空を裂きながら飛び蹴りを放つ。
「『
ラッセルの体を滑らせる様に出現する雷の道。攻撃に雷を付与し、その速度は雷速を超える。
「ば、馬鹿なあぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!?」
フリーマーの蹴りを焼き飛ばす。純粋な力と力を制したのはミユキの力を借りたラッセル。爆炎が拡散し、外敵の体、その全てを焼却させる。
家屋に舞う火花の全てはミユキの星屑術によって遮り、ようやく街に静寂が訪れる。
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