第4話 鬼

 その日。

 玉田の父親と息子は朝のラッシュ時の星ノ宮駅にいた。

 朝早く、息子が『電車が見たい』と駄々をこねた。

 朝のラッシュ時だが、列に割り込み電車を見せた。

 玉田夫婦には長い間、子供が出来なかった。

 だから、出来た子供には愛情を出来るだけ注ぎたかった。

 例え、社会から非難されようとも、それらは大概金で解決できる。

 でも、自分たちの愛情だけは金では買えない。

 はしゃぐ息子が前に出た。

「特急。次の列車は特急……」

 校内放送にますます興奮する息子。

 息子はホームから落ちそうになる。

 思わず、腕を掴んだ。

 その時だ。

 背中を誰かが押した。

 ホームから押し出される二人。

 迫る電車。

 その瞬間、父親の目にはすべてスローモーションになった。

 心配そうに手を差し伸べるサラリーマン。

 スマフォを構えるOL。

 口に手を当てる学生。

 すべてがゆっくりだ。

 その中に鬼がいた。

 彼は不安そうな顔の中で明らかに口角を邪悪に上げていた。

 嬉しそうに。

 楽しそうに。

 誇らしげに。

 ある人物から聞いた。

――この星ノ宮には鬼がいる

――形こそ人間だが、その心は鬼そのものだ

――だから、ここを甘く見てはいけない

 本当に鬼がいた。

 鬼は踵を返すとコンコースのほうへ向かう。

「おい、ま……」

 その瞬間。

 彼らの世界は終わった。

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