だから、あなたとは上手くいかない。
小島のこ
序 最後に見た彼は
春の穏やかな陽に照らされ、彼はとても綺麗に笑っていた。卒業式。きっとこれで、もう二度と会う事はない。そう思えば、少し胸の奥がチクチクと痛んだ。
「……バイバイ」
「うん。元気でね。バイバイ」
別れを惜しむような言い方の
私だけ、このままここに置いていかれる、そんな気がした。
一緒にお弁当を食べたベンチ。
一緒に寝転んだ中庭。
一緒に授業を抜け出した非常階段。
一緒に通った道。
一緒に、一緒に。
友達だって沢山いたのに、もう思い出すのは彼との時間だけ。楽しかった高校生活は、凝縮され三分の一くらいになる。脳裏に浮かぶぼんやりとした空気の中で、彼と私が笑っていた。
「……バイバイ」
振り返る事なく、彼が背を向けていなくなってしまう。どこの大学に進むのかは分かっているけれど、もう会うことはきっとない。
さようなら、私の恋――
「はぁぁ…………」
また、だ。また、この夢を見てしまった。
「泣いてないだけ、マシか」
何も音のしない部屋に、乾いた独り言が消えて行く。こんな日は決まって、朝食など喉を通らない。思い返したって、考えたって、何も先に進まないのに。あの頃を幾度と後悔しても、取り戻せるはずなどないんだ。
海は温かいカフェオレを淹れ、無表情のままに身支度を始めた。
あれは、まだ若かった頃の淡い恋だった。高校生の頃の青春。
大学に入って、消えて行くと思ってたけれど。何も消えてはくれなかった。社会人になって、流石に薄れた記憶。それに安堵しながらも、何度も何度も夢に見たあの日の彼。最後に見たあの屈託のない笑顔が、いつも胸を締め付けているのだ。
その反動なのか。流れるような現実では、阿呆みたいな男に何度も引っかかった。あれからは、溜息しか出ないような恋愛事情しか持ち合わせていない。 そんな恋しか出来ない自分も、忘れられない自分も、全部馬鹿みたいだ、と思う。それは毎日だ。
あれから、この春で十二年。
「顔色、悪っ……」
髪を簡単にセットして、肌艶のない顔に最小限の化粧をする。気分を上げるように、桜色の綺麗な口紅を塗って。泣きそうな顔に、パシン、と両手で気合いを入れ直した。
今日は金曜日だ。今夜は
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