トムテ②

 わたしはこの集落に来てまだまだ浅いほうで、実はそこまでトムテさんのことを存じ上げてはいませんでした。

 正直申しあげれば、地域の愛されキャラクターくらいの情報しか持ち合わせておりません。


「毎年あんな風にせがまれているんですか? 何をあげればいいかだなんて、とても悩みそうなものですけど」


 小さなコミュニティとはいえ、何人もの子どもたちそれぞれに喜ぶものを選ばなければならないのですから、それなりの労力が必要なはずです。


「なに、みんなが協力してくれるからね、子どもたちのリクエストは親御さんたちから集まってくるんだ。とはいえ、まさか『遺物』をリクエストされるとは──いやあ、困ったものだ」


 遺物。

 先時代の金属クズ──というとどこかの室長さんには怒られるのですけど、とにかく役に立たない割りにずいぶんと高価なものなのです。嗜好品です。趣味の世界です。


 トムテさんの話によると、ちょっとしたものを買うための資金は集落のみなさんが出し合うくらいの額で間に合うとのことですが、こと遺物となると値段も高くそうはいかないようでして──


「とはいえ、彼の夢なのだからどうにか叶えてあげたいものなのですがね」


 穏やかなトムテさんの表情が曇りました。

 本当にあの子たちのことを考えてるんだなあと心を打たれまして、彼の助けになりそうな思い当たる話を二つほどお伝えしました。

 ひとつは、まだ暖かい時期におきた山崩れでいくつもの遺物が露出した話。もうひとつは、役場の地域戦略室の室長さんが遺物をコレクションしているという話。


「もしかしたらですけど、役場のかたに相談をしたら協力いただけるかもしれません。地域戦略室の室長さんなのですけど」


 すると、彼の表情はパッと明るくなりました。

 そしてわたしの手をなかば強引に両手でつかみ、


「いやあ、ありがとう。そうか、そんなところに好き者がいたか。どうしたものかと思い悩むところだった。あとで相談してみるよ、いやあ、ありがとう」


 ぶんぶんとその手を上下に振りながら、感謝を伝えられました。

 光明をさせたようでなによりです。

 ですが力込めすぎです。痛いです。


 ひとしきり振られたのち、わたしの手は解放されました。

 痛みを感じながらも笑顔を保つわたし、えらいです。


「あ、そうだ」


 と、わたしはトムテさんにひとつ忠告をしておかなければなりません。


「相談するのは良いと思いますが、くれぐれも、長話に巻き込まれないようご注意ですよ」


 それを聞いたトムテさんは、大丈夫さと大らかに笑って、そして去っていきました。


 ひとのいいトムテさんのことです。

 きっと室長さんのよく分からない『遺物』談義に巻き込まれる、そんな未来しか見えません。


 ──すこし考えただけでも同情してしまいますよ。

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