シルフ⑤(完)
それから十日間ほどは、視察の際のわたしのランチは決まってその湖畔、同じ場所でいただくことにしていました。
日が経つにつれて、今度こそは段々と遠くの木々も鮮やかに桃色へと染まりゆきました。
咲いて、散って、舞う花びらは今でこそ落ちて、なおヒトの心をくすぐっています。
その始まりから終わりまで、わたしたちを魅了しました。
あの兄妹には行く度にちょっかいをかけられていました。
何を食べてるの、何をしているの。
なんでもない世間話が繰り返されてきました。
「あなたたちこそ、今日は何をしているんですか?」
わたしも例に違わず、会う度に同じことを尋ねてしまいました。
ですがまあ、身体を動かしたくてじっとしてられない子どもたちです。
毎日外に遊びに出るのに、具体的な目的がある訳でもありませんよね。
「うん、二人で遊びに来たのよ、昨日も一昨日も。明日も、明後日だって遊びにくるんだから!」
そんな風に、決まって同じ答えが返ってくるのでした。
同じような日々のやり取りにネガティブな思いは全然なくて、相変わらず元気ですねと微笑ましく、それはランチタイムの楽しいおしゃべりの時間でした。
それが花が落ちきる頃にもなると出会わなくなりました。
ほんの少しだけ寂しくなりましたね。
きっと親御さんにでも怒られているんでしょう、なんて、その時は想像していました。
考えてみれば、毎日お昼ご飯の時間に遊びまわられていたら、親も困るでしょう?
その数日後、集落の役場に報告書を届けたときのことです。
役場のおばさんが報告書をパラパラと
「湖畔のあたり、きれいだったでしょう」
そんな世間話が始まります。
ええ、とてもきれいでしたと返事をすると、おかしなことを尋ねてきました。
「あなた、小さな兄妹は見かけた?」
兄妹、というとあの子たちでしょうか。
「ええ、ご飯を食べているときに良くお会いしましたがー……どこの子たちかはわかりませんけど」
あの湖畔にも多くの方がいましたし、同じ兄妹とも思えなかったので詳細は省略しました。
「そう、元気だったのね」
そう言うと、おばさんは報告書を閉じて受け取りました。
話を途中で止められてしまって、なんだかもどかしくなり、わたしはその子どもたちのことを伝えました。
「あの、わたしの見た小さな兄妹さんは、とても自由で、毎日湖畔に遊びに来ているような子たちでした」
「ええ、その兄妹です。お兄ちゃんと、妹ちゃん。この季節にいつも湖畔で遊んでたのよ」
おや?
わたしの背筋は途端にヒヤリとしました。
「遊んでいた、とは……あの、えっと――」
うろたえていたわたしに、おばさんは言います。
ああ、ああ、やめてください……
その先はあまり聞きたくありません……
「あの子たち、ずっと何年も前ね。湖に溺れて亡くなった子たちなのよ。この季節、花が散るまでの間によく居るみたいね」
ひええ……
しかし、だとすると、もう一人の不思議な少女ももしかしてと、慎重に言葉を選びながら尋ねました。
「あ、あの。キャベツが大好きな少女も、その……」
しかし、おばさんはそんな子の話は聞いたことがないとのことでした。
少なくとも『よく居る幽霊さん』ではなかったようですが……
本当にただ近隣の子だったのでしょうか。
あるいは何かの精霊さんだったりしたのでしょうか。
厚い
(シルフ 完)
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