サラマンダー⑤(完)

 翌日のことです。


 雪は弱まりましたが、やっぱり寒いです。

 あれから暖炉に新しいサラマンダーはやってきませんでした。


 結局、彼らが何をしたかったのもわかりませんでした。

 しかし、彼らのおかげなのかはわからないのですが、夜眠るときに寒さで震えることはありませんでした。


 ええ、とても快適でした。

 不思議ですよね、彼らに会う前はあれだけ手がかじかんで震えたというのに。


 わたしは集落のかたに、昨日は火喰い虫は現れましたか、と尋ねてまわりました。

 そしたら、二軒のお家で現れたことがわかりました。


 彼らはどこから入ってきましたか、とも尋ねました。

 一軒はわからないと仰っていました。

 もう一軒の家主であるお婆さんはこう仰っていました。


「火喰い虫はねぇ、火の中で生まれるんですよ。ある時ふいにねぇ、そこに生まれるんです。生まれるその場面は若い頃に見たっきりだけどねぇ」


 わたし、驚いてしまいました!


 かつて、精霊はどう生まれてくるのかと研究が行われていたことがありました。

 しかし、研究成果はなかったのだといいます。


 いえ、研究者さんたちの結論は出ていたらしいのですよ。

 お婆さんの言うように、ある時、ふいに、そこに生まれているものなのだと。

 けれどその証明ができなかったのですね、研究者さんの誰にも。

 誰かが見ているところで生まれたことは、ついになかったのですって。

 わたしが生まれる前のお話です。


 じゃあなんでお婆さんは若い頃とは言え生まれるところを見られたのでしょうか。

 うーん……「ワカラン。」 なんてね。

 きっと事故だったのでしょうね。


 今なら誰にも見られまいと生まれたつもりが、うっかり見つかってしまった。

 きっとそうです。そんなものなのです。

 だってわたしが出会えた二匹のサラマンダーさんも、少しうっかりさんでしたもの。


 思い出したら顔が緩んできてしまいました。

「ワカラン。」

 ふふふっ。


 火の燃えるところにふいに生まれるサラマンダー、きっとノームも土の中に何となく生まれていて、水も、風も、木や花の精霊も同じなのでしょう。

 ある時ふいにそこに生まれる。

 なのにいつどこで生まれているかは誰も見られない。


 なんだかとっても精霊らしくて、素敵じゃありませんか?


(サラマンダー 完)

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