ノーム①

 今日も穏やかな晴れ、気持ちの良い、まさに視察日和というやつです。ただ、幾分か寒さを感じるようになってきた感じでしょうか。雨や雪でも降れば、寒さも諦めがつくのですけどね。そういえばここしばらく、雨が降ってない気がします。


 昨日も同じ時間に同じことを思いながら同じ道を歩いていたと思うのですが、何かがほんの少し違っているような。


 歩き慣れている道で、ふとした瞬間、小さな変化に気づくことってありません?


 ゴミが投げ捨てられていたり、何者かの宴のあとなのか著しく汚れていたり。いやいや汚いことばかりではだめですね。


 たとえば、なんの特徴のない、短い草のあいだに伸びる、ただのいつもの見慣れた道の脇。たくさんの雑草の中のいくつかの花。花が咲けば暖かい季節だな。草が枯れればさむい季節だな。ほんの小さな移り変わりは、それに気づいたときに、ふと穏やかな気持ちになったり、かと思えば時の経つ早さのなんておそろしいこと、などと考え始めますよね。

 わたしは考えるんです。


 そういった季節の移り変わりとは関係ないのですが、昨日のおやつ時にも歩いていたいつもの道、少し違和感を感じました。


 昨日の今日です。そんなに大きな変わりがあるはずはありません。いえ、そりゃあまれにはあるのかもしれませんが、気のせいだったという可能性のほうがずっと大きいでしょう。

 しかし身近な精霊さんたちというのは、往々にして小さな変化のあたりに身を潜めているものなのです。


『精霊の相談所』の相談員としては、こういった直感を、素直に信じられることが重要なスキルだったりします。そう、まさにセンスです。(フフン)


 ご飯を食べるにはお給金が必要で、お給金をもらうためには仕事をしなければならず、わたしが仕事をするためには普段からどこかに身を隠している彼ら精霊さんたちを見つけなければなりませんからね。


 向かう先の山を見れば、ほんの少しだけ木々が色づきはじめています。道には近くの木々から落ちはじめた葉が音をたてて風に遊ばれています。

 丈の少し長いコートを着て、布製のショルダーバッグにはパンのはいったお弁当箱、お水とスケッチブックとペンを持って、外回りのお仕事です。


 集落から西の山のふもとへ伸びる道。柿とみかんとが実る果樹園に続く道。昨日と同じ視察のルート。果樹園のおじさんたちは、今日も柿をくれたりしないかな。


 集落から軽やかに歩みを進めて十分くらいだったでしょうか。道の左側、地面にごっそり空いた穴。歩いてきた時間を考えれば確か昨日は……小さな花がまとまって咲いていたはず、と思うのですが。もちろんハッキリそう覚えているわけではないですよ。なんとなくそうだった、くらいのおぼろげな記憶です。


 しかしこれは精霊さんのにおいがプンプンします。

 ちょっと探して、親交を深めていきましょうか。


「はにわさん、はにわさん。ノームさんいますかー?」


 はにわさん。土の精霊のノームへの、わたしなりの愛称です。古い本に書かれていた、落書きのようなというと失礼ですが、ハニワという大昔の謎のお人形さんにそっくりだったのです。


 拳をつくってみてください。その拳ほどの大きさで、土でできていてまるっこく、目と口とおぼしき場所は黒く虚無。その土の体に短い手と足がくっついています。からだの形はまあ、丸かったり楕円形だったり、そのあたりは個性ですね。

 彼らはいろんなところにいて、比較的見つけやすくて、無口ではあるのですが、とても愛らしいやつらなのです。少なくともわたしが出会ってきたノームさんは、なのですが。


 わたしは、はにわさんの痕跡が近くにないか、注意深く探し始めました。

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